Last Updated on 2026年1月17日 by 渋田貴正

電気通信利用役務とは、インターネット等の電気通信回線を通じて提供される役務のうち、役務そのものがデータとして提供され、場所的な移動を伴わずに完結するものをいいます。クラウドサービスの利用料、SaaS型業務ツール、オンライン広告配信、アプリ課金、動画配信、電子書籍の閲覧などが代表例です。逆に、電話回線の利用料そのものやeSIMの利用料、物品の配送を伴うEC取引は、通常ここには含まれません。

区分 内容 具体例
電気通信利用役務に該当するもの インターネット等の電気通信回線を通じて提供され、役務そのものがデータとして提供され、
場所的な移動を伴わずに完結する役務
クラウドサービス利用料、SaaS型業務ツール、オンライン広告配信、アプリ課金、動画配信サービス、電子書籍の閲覧
電気通信利用役務に該当しないもの 電気通信回線の利用そのものや、物品の移転・配送を伴う取引 電話回線の利用料、インターネット接続料、SIMの利用料、物品の配送を伴うEC取引

今回は上記の区分のうち、電気通信利用役務に該当する取引についての消費税の扱いについてまとめました。

「事業者向け電気通信利用役務」と「消費者向け電気通信利用役務」の区分

電気通信利用役務は、消費税法上、「事業者向け電気通信利用役務」と「消費者向け電気通信利用役務」に区分されます。この区分は、リバースチャージ方式の適用有無などを左右する最初の分岐点であり、実務上もっとも重要なポイントといってもよいでしょう。

事業者向け電気通信利用役務の場合

事業者向け電気通信利用役務とは、役務の受け手が事業として利用することが前提となるものです。請求書の記載内容や契約条件から、事業利用であることが客観的に判断できる点が特徴です。ここでは、相手が国内事業者か国外事業者か、さらに自社の課税売上割合やインボイス登録の有無により、次のように整理できます。

サービスの提供元 自社の課税売上割合 相手のインボイス登録 消費税の取扱い(結論)
国内事業者 95%以上 登録済み 仕入税額控除可能(100%)
国内事業者 95%以上 未登録 仕入税額控除できない
国内事業者 95%未満 登録済み 仕入税額控除可能(課税売上割合で按分)
国内事業者 95%未満 未登録 仕入税額控除できない
国外事業者 95%以上 仕入税額控除可能(100%)
国外事業者 95%未満 リバースチャージ方式適用
仕入税額控除可能(課税売上割合で按分)

国外事業者から事業者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合、インボイス登録の有無は判断要素になりません。インボイス制度開始後も、この点は変わっておらず、事業者向けである限り、消費税は相手の状況は関係なく、「受け手側で計算する税金」に切り替わります。

消費者向け電気通信利用役務の場合

消費者向け電気通信利用役務とは、一般消費者による利用を想定したサービスで、動画配信、音楽配信、電子書籍などが典型例です。この場合、事業者向けとは異なり、原則としてリバースチャージ方式は適用されません。ここが制度上の大きな違いです。

サービスの提供元 自社の課税売上割合 相手のインボイス登録 消費税の取扱い(結論)
国内事業者 95%以上 登録済み 仕入税額控除可能(100%)
国内事業者 95%以上 未登録 仕入税額控除できない
国内事業者 95%未満 登録済み 仕入税額控除可能(課税売上割合で按分)
国内事業者 95%未満 未登録 仕入税額控除できない
国外事業者 仕入税額控除できない
(リバースチャージ方式は適用されない)

なぜ消費者向け電気通信利用役務にはリバースチャージが適用されないのか

消費者向け電気通信利用役務にリバースチャージ方式が適用されない理由は、単に「消費者に申告能力がないから」という表面的な話ではありません。制度の本質は、取引の相手方を正確に識別できないという構造的な問題にあります。

消費者向け電気通信利用役務の多くは、動画配信、音楽配信、アプリ課金、クラウドストレージなど、不特定多数に対して同一条件で提供されるサービスです。これらのサービスでは、提供者である国外事業者の側から見て、利用者が「一般消費者なのか」「日本の事業者なのか」を取引ごとに正確に判別することが現実的に困難です。

仮に、消費者向けサービスであっても「実際に利用しているのが事業者であればリバースチャージを適用する」といった制度設計をすると、国外事業者は、
・利用者が事業者かどうか
・課税事業者かどうか
・日本の消費税の申告対象になるか
を個別に判定しなければならなくなります。これは、国外事業者に過度な実務負担を課すだけでなく、制度の実効性を著しく損ないます。

そこで消費税法は、サービスの性質そのものに着目するという割り切った整理を採っています。すなわち、「事業者でも消費者でも利用できるが、そもそも一般消費者向けに設計・提供されているサービス」であれば、実際の利用者が事業者であったとしても、その取引は一律に「消費者向け電気通信利用役務」として扱う、という考え方です。

この結果、たとえば日本の会社が、業務上の必要から消費者向けの動画配信サービスやクラウドサービスを利用し、その費用を経費として計上していたとしても、その取引についてリバースチャージ方式が適用されることはありません。受け手側では消費税の申告も仕入税額控除も行わず、消費税の申告・納税は国外事業者側で完結します。

制度としてはやや乱暴に見える部分もありますが、
・提供者側が利用者の属性を判別できない
・取引ごとに判定を分けると制度が回らない
という現実を踏まえた、画一処理による制度設計といえます。消費者向け電気通信利用役務について「実際の利用実態」ではなく「サービスの性質」で判断するのは、このためです。

この考え方は、源泉所得税において、給与の支払いを行わない人を最初から源泉徴収義務者から外している制度設計とよく似ています。源泉所得税でも一般の人が弁護士や税理士に相談したときの報酬から源泉徴収をする必要はありません。消費者向け電気通信利用役務も、課税の精緻さより制度が回ることを優先した、同じ発想の割り切りといえるでしょう。

 

区分 事業者向け電気通信利用役務 消費者向け電気通信利用役務
取引金額(本体) 100万円 100万円
国外事業者からの請求 消費税の請求なし 消費税の請求なし
受け手側での消費税計算 消費税10万円を自ら計算 計算しない
リバースチャージ方式 適用あり 適用なし
受け手側での申告・納税 課税売上に対する消費税として
10万円を申告
申告・納税ともになし
仕入税額控除 課税売上割合95%以上の場合
10万円を全額控除
不可
受け手側の実質的負担 0円 0円
日本が最終的に受け取る消費税 10万円
(受け手事業者が申告した税額)
10万円
(国外事業者が申告・納税)
制度の考え方 BtoB取引は
受け手側に申告能力があるため
リバースチャージを採用
BtoC取引まで
受け手申告とすると負担過大なため
国外事業者申告方式を採用

電気通信利用役務に関する消費税の全体整理表】

役務区分 提供者 課税売上割合 インボイス リバースチャージ 仕入税額控除
事業者向け 国内 95%以上 あり なし 可(100%)
事業者向け 国内 95%未満 あり なし 可(按分)
事業者向け 国外 95%以上 あり 可(100%)
事業者向け 国外 95%未満 あり 可(按分)
消費者向け 国内 95%以上 あり なし 可(100%)
消費者向け 国外 すべて なし 不可

電気通信利用役務の消費税は、インボイス制度とリバースチャージが交差する分野であり、海外サービス利用や会社設立直後の判断を誤ると、後から修正が難しくなります。消費税の実務判断や、国外事業者との取引を含む税務対応に不安がある場合は、消費税実務に精通した税理士業務として、ぜひ当事務所へご相談ください。