相続があった場合の相続人の納税義務の判定

被相続人が個人事業を行っていた場合に、相続人がその事業を引き継ぐ場合があります。その場合で、被相続人が消費税を納める義務がある課税事業者だった場合には、事業を引き継いだ相続人にも初年度から消費税がかかることがあります。

そもそも消費税は、個人事業主の場合は2年前の売上が1,000万円を超えているかどうかで判断します。例えば2023年の確定申告で消費税を納める義務があるかどうかということは2021年の確定申告での売上が1,000万円を超えているかどうかで判断するということです。この売上には例えば飲食店のような事業も含みますし、マンション賃貸のような不動産業も含みます。つまり、事業所得や不動産所得、雑所得の区分にかかわらず、その被相続人が稼いでいたすべての売上を合算して消費税の納税義務を判定します。(居住用のマンションやアパートの賃貸の家賃収入のようにもともと消費税がかかってない分については、消費税の納税義務の判定にあたって売上に含める必要はありません。)

ということは、被相続人の事業を承継した相続人も、相続人自身の2年前の売上で消費税の納税義務があるかどうかを判断すればよいというように思えます。しかし、被相続人が消費税を納税していたのに、相続人に事業を承継したらまた納税義務がリセットされてしまうというのは、事業が連続しているのにおかしな話です。そこで、被相続人の事業を承継した相続人の消費税の納税義務の判定については、特例として相続人自身の2年前の売上のほかに被相続人の売上も判断基準として関係してきます。

ちなみに、「被相続人の事業を承継した」とは、相続により被相続人の行っていた事業の全部または一部を継続して行うため財産の全部または一部を承継した場合をいいます。例えば、被相続人が所有していた賃貸オフィスを相続したという場合や、被相続人が経営していた飲食店の設備を相続したという場合です。財産の承継があったかどうかで消費税の納税義務を判断することになりますが、その後相続人が実際に事業を行わなければ消費税の納税義務が発生したとしても収める消費税がありませんので、結局は財産を承継した後に相続人が事業を行っているかどうかということが重要です。

相続があった場合の具体的な納税義務の判定方法

具体的には、相続があった年と、相続があった年の翌年・翌々年の2つに分けて考えます。

1 相続により事業を承継した年

相続があった年の2年前における売上が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したとき

相続があった年については、被相続人の2年前の売上をもとに判断します。この場合はまず相続人自身の2年前の売上だけで判定した後に、被相続人の2年前の売上で判定します。相続人と被相続人の売上を合算する必要はありません。

2 相続があった年の翌年・翌々年

相続人自身の2年前における売上と被相続人の2年前の売上との合計が1,000万円を超えるとき

相続があった年の翌年と翌々年については、相続人自身と被相続人の2年前の売上をもとに判断します。それ以降は、2年前にすでに被相続人は亡くなっていて被相続人の事業の売上も相続人自身の売上に吸収されているため、相続人自身の売上だけで判定していきます。

例)2022年10月1日に被相続人が死亡した場合の消費税の納税義務の判定
2022年-相続人自身の2020年の売上で判定してから、被相続人の2020年の売上で判定

2023年-相続人自身の2021年の売上と被相続人の2021年の売上を合算して判定

2024年-相続人自身の2022年の売上と被相続人の2022年の売上を合算して判定

2025年-相続人自身の2023年で判定(以降は2年前の相続人の売上で判定)

包括遺贈も相続と同様に納税義務を判定

ちなみに、相続があった場合の相続人の消費税の納税義務の判定は、包括遺贈を受けた者も同様に扱われます。一方、例えば特定遺贈死因贈与で賃貸不動産事業を引き継いだようなケースは該当しません。