Last Updated on 2025年12月22日 by 渋田貴正

「相続人が外国籍なら、日本の相続税は関係ないのでは?」国際相続の相談では、今でもこのような認識を前提とした質問を受けることがあります。しかし、日本の相続税では、相続人が外国籍であるかどうかだけで課税関係が決まることはありません。

重要なのは、相続人が日本に住所を有しているか、そしてその居住が一時的なものかどうかです。相続人が外国籍であっても、日本との結びつきが強い場合には、日本での相続税が全世界の財産に及ぶこともあります。

以下では、まず用語を整理したうえで、相続人が外国籍の場合に限定して、日本での相続税の扱いを15通りに分けて整理します。

相続人の区分(外国籍に限定)

本コラムでは、相続人が外国籍であるケースについて、次の3通りに区分します。

相続人Ⅰ
相続開始時に日本に住所があり、一時居住者に該当しない外国籍の相続人

相続人Ⅱ
相続開始時に日本に住所があり、一時居住者に該当する外国籍の相続人

相続人Ⅲ
相続開始時に日本に住所がない外国籍の相続人

被相続人の区分

被相続人については、前回と同様、次の5通りに区分します。

被相続人①
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年超

被相続人②
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年以下

被相続人③
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有する

被相続人④
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有しない
(非居住被相続人)

被相続人⑤
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所がない

一時居住者とは?

「一時居住者」とは、日本に住所はあるものの、その滞在が恒久的なものとは評価されない外国人を指します。「日本で働いたり学んだりしているが、生活の本拠を恒久的に日本に置いているとはいえない外国人」を、相続税の場面で区別するための制度上の概念です。相続税の場面では、この一時居住者に該当するかどうかで、日本での相続税の課税範囲が大きく変わります。

一時居住者に該当するかどうかは、厳密には次の二点で判断されます。

一つ目は、在留資格です。出入国管理法別表第一に掲げられている在留資格、すなわち、教授、芸術、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、留学、短期滞在などの在留資格で日本に滞在しているかどうかが基準になります。これに対し、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者といった別表第二の在留資格で滞在している場合は、居住年数に関係なく一時居住者には該当することはありません。

二つ目は、日本での居住年数です。相続開始前15年以内に、日本に住所を有していた期間の合計が10年以下であることが必要とされます。つまり、日本に長く住み続けている場合や、断続的であっても合計10年を超えて居住している場合には、一時居住者とは扱われません。

相続人が外国籍の場合の15通りの相続税パターン

ここから、被相続人①〜⑤と相続人Ⅰ〜Ⅲを組み合わせ、日本での相続税について15通りを列挙します。

パターン1(被相続人① × 相続人Ⅰ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン2(被相続人① × 相続人Ⅱ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン3(被相続人① × 相続人Ⅲ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン4(被相続人② × 相続人Ⅰ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン5(被相続人② × 相続人Ⅱ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン6(被相続人② × 相続人Ⅲ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン7(被相続人③ × 相続人Ⅰ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン8(被相続人③ × 相続人Ⅱ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン9(被相続人③ × 相続人Ⅲ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン10(被相続人④ × 相続人Ⅰ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン11(被相続人④ × 相続人Ⅱ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン12(被相続人④ × 相続人Ⅲ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン13(被相続人⑤ × 相続人Ⅰ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン14(被相続人⑤ × 相続人Ⅱ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン15(被相続人⑤ × 相続人Ⅲ)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

相続人が外国籍の場合の日本の相続税の取扱い一覧(15通り)

被相続人\相続人 相続人Ⅰ
外国籍
日本居住
一時居住者ではない
相続人Ⅱ
外国籍
日本居住
一時居住者
相続人Ⅲ
外国籍
日本非居住
被相続人①
日本居住
15年内10年超
相続税 かかる
全世界
相続税 かかる
全世界
相続税 かかる
全世界
被相続人②
日本居住
15年内10年以下
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ
被相続人③
非居住
10年内住所あり
日本国籍あり
相続税 かかる
全世界
相続税 かかる
全世界
相続税 かかる
国内財産のみ
被相続人④
非居住
10年内住所あり
日本国籍なし
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ
被相続人⑤
非居住
10年内住所なし
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ
相続税 かかる
国内財産のみ

相続人が外国籍であっても、日本に住所を有している場合や、日本との人的・生活的な結びつきが強い場合には、日本での相続税が課されます。これは、相続税が国籍ではなく、「どの社会の中で生活し、どの社会との関係性が強いか」を基準に設計されているためです。日本に居住し、日本の制度や市場の中で生活している以上、その人が外国籍であっても、日本社会の一員として財産取得が行われたと評価されます。そのため、日本の相続税では、外国籍であること自体を理由に一律に課税対象から外す仕組みは採られていません。

相続人が外国籍で関係する相続税では、「国籍が外国だから大丈夫」と考えてしまうことが、最もリスクの高い思い込みになります。実際には、日本に住所があるかどうか、一時的な滞在かどうかといった点で、課税関係が大きく変わります。相続人が外国籍の場合の相続税については、事実関係の整理を誤ると、想定外に全世界課税となることもあります。当事務所では、相続人・被相続人双方の居住関係を整理し、日本での相続税がどこまでかかるのかを明確にしたうえでサポートしています。