Last Updated on 2025年11月24日 by 渋田貴正
海外に住む子どもや親族へ、教育資金・生活資金・住宅取得資金などを援助したいと考える方は増えています。しかし、「受け取るのが海外在住なら日本の贈与税はかからないのでは?」と考える方が非常に多いです。
結論としては、贈与者が日本にずっと住んでいれば、受贈者がどの国に住んでいても日本の贈与税が課税されます。
贈与税は「受贈者課税方式」だが、判定の主軸は贈与者側にある
贈与税は「受贈者が納税義務者」と定められています。しかし、国際的な税務では贈与者がどこに住んでいるかの方がはるかに重要です。
その理由は次のとおりです。
つまり、受贈者がどの国に住んでいるのか、外国籍であるのか、あるいは一度も日本に住んだことがないのかといった事情にかかわらず、贈与者が日本に住所を有していれば、その贈与は原則として日本の贈与税の課税対象になります。
これが実務での最重要ポイントです。
なぜ「贈与者が日本居住者なら海外在住者への贈与も課税される」のか
なぜ贈与者が日本居住者なら海外在住者への贈与も課税される?
日本の贈与税・相続税では、過去の税制改正で納税義務者を受贈者(相続人)側だけで判定しない枠組みが整備されてきました。
その最も強いルールが、
「贈与者が日本に住所を有していれば、受贈者は無制限納税義務者として扱う」
というものです。したがって受贈者がどの国に住んでいても、受け取った財産は国内外を問わずすべて日本の贈与税の課税対象になります。
納税義務者区分には以下の4種類があります。
| 納税義務者の区分 | 課税対象範囲 |
| 居住無制限納税義務者 | 全世界の財産 |
| 非居住無制限納税義務者 | 全世界の財産 |
| 居住制限納税義務者 | 日本国内財産のみ |
| 非居住制限納税義務者 | 日本国内財産のみ |
しかし、贈与者が日本居住者の場合は「無制限」区分に自動的に入るため、受贈者側の属性をどれだけ調べても結果は同じです。
そのため、贈与者が日本に住んでいれば、受贈者が海外でも贈与税はかかります。
海外在住の人が贈与を受ける場合の手続き
受贈者が海外に住んでいる場合でも、日本の贈与税の課税対象であれば、日本国内で贈与税申告を行う必要があります。申告書は日本の税務署へ提出し、日本円で納税するという点は、受贈者が国内在住の場合と同じです。しかし、海外居住者が自ら日本の税務署へ申告書を提出したり、納税手続きを行ったりするのは現実的に困難です。そのため、実務では「納税管理人」を日本国内で選任し、その者を通じて申告・納税を行う方法が一般的です。
納税管理人には、日本に住んでいる親族を指定することもできますし、税務手続きに精通した税理士を選任することも可能です。誰を納税管理人とするかは自由ですが、期限内に適切な申告・納税ができることが重要となるため、専門家を選任するケースが多くみられます。納税管理人を設定する際には「納税管理人の届出書」を受贈者の住所地を所轄する税務署へ提出します。この届出が受理されることで、海外在住の受贈者に代わって日本国内の納税手続きを円滑に進めることができるようになります。国際的な贈与では、この納税管理人制度が申告の前提となるため、早めに準備しておくことが大切です。
さらに、アメリカ・韓国・台湾など、一部の国では受贈者側の国でも贈与税・贈与所得課税が行われる場合があります。
海外銀行口座に直接送金しても日本の税務署は把握できる
海外へ送金したからといって、税務署に把握されないだろうと考えるのは非常に危険です。海外送金は、国内の金融機関を経由する時点で必ず送金記録が残り、その情報は税務署が確認できる仕組みになっています。特に、100万円を超える海外送金については「国外送金等調書」の提出が義務付けられており、金融機関は送金者・受取人・金額などの詳細を税務署へ報告します。この制度により、海外在住の家族宛てにまとまった金額を送金した場合、その情報は自動的に税務署へ共有されることになります。
さらに、近年は国際的な租税回避対策が強化され、各国の金融機関が保有する口座情報を税務当局間で相互に提供し合う「CRS(共通報告基準)」や、外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)などの仕組みが整備されています。これにより、海外の銀行口座に入金された資金の動きも、以前に比べて格段に把握されやすくなっています。つまり、国内外どちらの金融機関を利用したとしても、資金移動の履歴が残らないということはなく、「海外だから分からない」という前提はもはや通用しません。国際送金を伴う贈与では、税務署が情報を得られる体制が整っている前提で、適切に申告手続きを進めることが極めて重要です。
海外在住の家族への贈与は、日本の贈与税だけでなく、海外での課税リスク・送金手続き・納税管理人の選任など、多くの判断が必要になります。当事務所では税理士・司法書士の双方の視点から最適な贈与方法をご提案し、申告から書類作成まで一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
