Last Updated on 2025年10月25日 by 渋田貴正
日本の不動産市場は、円安やインフレ対策、資産分散を目的とする海外投資家にとって魅力的な投資先です。
しかし、海外在住者が日本の不動産を個人名義で購入しようとすると、登記や税務の手続きが非常に複雑になります。
この問題を解決する方法として注目されているのが、「日本で設立した会社を通じた不動産保有」および「不動産M&A」という手法です。
海外投資家が個人で不動産を購入する際の課題
海外在住の投資家が日本の不動産を個人名義で購入する場合、法務・税務・金融の各面でいくつかの高いハードルがあります。
日本では、不動産の登記、銀行手続き、税務申告などについて「国内住所を有すること」をベースに設計されているため、海外居住者の場合は通常の国内取引よりも煩雑で時間がかかるのが現実です。
| 項目 | 内容 |
| 登記手続き | 登記簿に住所を記載する義務があり、日本の住民票を持たない投資家は、パスポートや現住所証明書(英文のCertificate of Residence等)を提出する必要があります。書類の認証や日本語翻訳が求められることも多く、法務局対応に時間を要します。
また、原則として日本在住の者を国内連絡先として登記する必要もあります。 |
| 銀行口座 | 日本の金融機関では、マネーロンダリング防止法の観点から「本人確認・居住実態の確認」が必須です。海外住所のみの場合は口座開設が拒否されるケースも多く、家賃収入や税金の支払いが円滑に行えないリスクがあります。 |
| 税務申告 | 不動産所得や売却益が生じた場合、日本国内で所得税の確定申告義務が発生します。非居住者は原則として「納税管理人」を日本に選任する必要があり、税務署への届出・書類の郵送手続きが発生します。 |
| 相続・譲渡 | 海外居住者が亡くなった場合、相続手続きは日本法と居住国の法が交錯します。さらに、租税条約の有無や為替変動により、相続税・譲渡益課税に想定外の影響が出ることもあります。 |
このように、個人での購入は「手続きが複雑・時間がかかる・税務リスクが高い」という三重の課題を抱えます。
また、売買契約書の締結や登記申請においても、現地での署名証明・公証などを求められるケースが多く、
海外投資家にとっては物件取得そのものよりも事務手続きの方が負担になることすらあります。
このような背景から、より実務的かつ安定した方法として、法人を介した取得が検討されるのです。
不動産M&Aによる「間接取得」という選択肢
これらの課題を一気に解決できる方法として注目されているのが、不動産M&Aによる間接取得です。
不動産M&Aとは、不動産そのものを購入するのではなく、不動産を所有している日本法人の株式を取得する手法です。
登記簿上の名義人は会社のままで変わらないため、所有権移転登記が不要となり、登録免許税や不動産取得税も原則として課されません。
取引の実態としては「会社の持ち主が変わる」だけであり、法的には株式譲渡契約で完結します。
このスキームの最大の魅力は、スピードとコストの両立にあります。
通常の不動産購入では、売買契約→登記申請→税金納付→引渡しという複数ステップを踏みますが、
不動産M&Aでは株式譲渡契約の締結と同時に実質的な所有権が移転します。
これにより、数週間から数か月かかる手続きを数日で完了できるケースもあります。
また、不動産そのものを動かさないため、取引金額に応じた登録免許税・取得税といった負担が不要になり、
数百万円単位のコスト削減が可能です。
さらに、既存法人を引き継ぐことで、日本の銀行口座や賃貸管理体制をそのまま維持できるのも実務上のメリットです。
たとえば、賃貸マンションを所有する会社を買収すれば、既に開設済みの銀行口座を通じて家賃の受け取りや支払いが可能であり、入居者との契約も再締結の必要がありません。
また、外国人が直接名義人になることで生じる登記上の制約や為替リスクを回避できる場合もあり、海外投資家にとっては現実的で効率的な投資スキームといえます。
もっとも、会社を丸ごと取得する以上、対象会社に簿外債務や未納税金があると、それも引き継ぐリスクがあります。
そのため、購入前には税理士・司法書士によるデューデリジェンス(事前調査)を行い、財務内容・登記簿・契約関係を確認することが不可欠です。
適切に調査を行えば、リスクを最小限に抑えながら、短期間で日本の不動産を取得することができます。
日本法人を設立して不動産を保有する方法
もう一つの方法が、「日本法人を新たに設立して不動産を購入する」スキームです。
この場合、海外投資家自身が出資者となり、日本に株式会社や合同会社を設立し、その法人名義で不動産を取得します。
この手法のメリットは次のとおりです。
- 不動産所得や売却益を法人単位で計上できるため、税率のコントロールが容易
- 賃貸収入や維持費を法人経費として処理でき、節税効果が見込める
- 会社を通じて日本国内の銀行口座開設が容易になる
- 複数の投資家による共同出資(合同会社方式など)が可能
特に長期的な不動産投資や複数物件を保有する場合は、法人化の方が実務的に安定します。
また、海外投資家が日本法人を設立する場合は、「代表者の住所要件」や「印鑑届出・銀行口座開設」など、司法書士・税理士の専門サポートが欠かせません。
| 項目 | 不動産M&A | 法人設立による取得 |
| 登記手続き | 不要(株式譲渡のみ) | 必要(会社設立登記+不動産登記) |
| コスト | 登録免許税・取得税が不要 | 登録免許税・取得税が発生 |
| スピード | 早い(契約締結後すぐ) | 設立・融資・購入まで時間がかかる |
| リスク | 対象会社の簿外債務を引き継ぐ | クリーンな状態から開始できる |
| 節税効果 | 既存法人の損益・資産を活用可能 | 自由に設計可能だが初期コストあり |
両者には一長一短がありますが、長期投資を前提とする場合は新設法人での取得、短期・効率重視なら不動産M&Aが適しています。
不動産M&Aや海外投資家向けの法人設立は、登記・税務・国際取引の知識がすべて関わる複合的な領域です。
契約書の作成や会社登記は司法書士の業務ですが、株式譲渡益や固定資産税の課税関係は税理士の専門分野です。
当事務所では、税理士と司法書士の両資格を有する専門家が一人で両面から対応し、法務・税務の両側面を統合した安全なスキーム設計を行います。
海外在住の方で、「日本の不動産に投資したいが、どの方法が最も効率的か分からない」という方は、ぜひご相談ください。
登記・税務・法人設立をワンストップでサポートし、海外からでも安心して日本の不動産を取得できる体制を整えています。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
