Last Updated on 2025年10月1日 by 渋田貴正
株式会社を設立するとき、「出資額が多い発起人が株数や議決権も多くなる」というイメージを持つ方が多いです。実際、出資額と株数は比例して割り当てられるのが自然ですし、通常はその形になります。
しかし会社法上は、必ずしも出資額と株数を比例させなければならないわけではありません。
例えば、同じ金額を出資しても「経営に積極的に関与する発起人」と「資金だけ出す発起人」では、議決権の割合を変えたい場面があります。
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ケース1:3人がそれぞれ100万円を出資するが、代表者を中心に経営を進めたい → 株数を調整して議決権を「34%:33%:33%」とし、完全な1/3ではなく代表者の発言力をわずかに強めたい
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ケース2:親子で会社を設立するが、資金は親が多く出す一方で、経営は子に任せたい → 子に多めの株数を与えて経営権を確保したい
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ケース3:将来の相続や事業承継を見据え、資金の拠出と経営権の配分をずらしたい
こうしたとき実務上は、発起人全員の同意があれば、同じ出資額でも異なる株数を交付し、結果的に議決権比率を変えることが可能です。
株式会社設立時の株式単価のルール
会社法では、設立時発行株式について「1株と引換えに払い込む金銭の額」を定款で定めることを義務付けています。
つまり、設立時の株式には必ず「1株あたりいくらか」という単価が定められており、原則として株式単価はすべての発起人に共通でなければなりません。例えば、定款で「1株=5万円」と定めた場合、発起人AさんもBさんもCさんも、1株5万円で引き受ける必要があります。
会社設立時の割り当て株式の例外的ルール
一方で、実務上は「払込額と株数が必ず比例していなくてもよい」とされています。
発起人 | 出資額 | 株式数 | 1株あたり単価 | 議決権割合 |
Aさん | 100万円 | 15株 | 5万円 | 75% |
Bさん | 100万円 | 5株 | 5万円 | 25% |
合計 | 200万円 | 20株 | 5万円 | 100% |
このケースでは、AさんもBさんも同額の100万円を出資しています。
しかし、Aさんは15株、Bさんは5株の割当を受けています。結果としてAさんは議決権75%、Bさんは25%となり、出資額は同じでも議決権比率に差がつきます。
これは、株式単価が統一されている以上、会社法違反にはなりません。発起人全員が合意してこの割当を定めていれば有効です。
このような柔軟性が認められている背景には、会社設立は発起人全員の合意による契約行為であるという考え方があります。
- 会社法32条により株式単価は統一される(1株1万円で100株発行するなら資本金は100万円である)
- しかし株数の割当については、発起人間の合意で自由に決めてよい(発行した100株をどのように割り当てるかは発起人全員で決めてよい)
- 出資額と株数が比例しなくても、発起人全員が納得していれば差し支えない
なんだか回りくどいですが、資本金の総額が決まった後で、どのように株式を割り当てるかについては発起人全員が合意すれば出資額に応じて比例配分でなくてもよいですよ、ということです。
この仕組みにより、設立時に「誰がどの程度経営権を持つか」を柔軟に設計できるのです。
贈与税リスクに注意
ここで注意すべきなのが、税務上の贈与税リスクです。
例えば、同じ100万円を出資しても、Aさんは15株、Bさんは5株という配分にした場合、Bさんから見れば「経済的に不利な条件を受け入れた」ことになります。
この差額部分について、税務署が「Aさんへの贈与」と評価する可能性があります。
- 出資額と株数が一致していない
- 発起人の一方が不当に有利な株数を受けている
こうした状況は、税務調査で指摘を受けやすいポイントです。特に親族間での会社設立では「実質的な贈与ではないか」と判断されるケースもあります。
そのため、議決権比率を調整したい場合は、税務面で不自然とならないような根拠づけや設計が必要になります。
会社設立時に、発起人ごとに割り当てる株式を出資額比例ではない形にしたい場合は以下のような注意点が必要です。
- 定款や同意書に明記する
発起人間で合意した株式数の割当は、定款に記載するか、または発起人全員の同意書で明確にしておく必要があります。
- 贈与税を避ける工夫
議決権比率を調整する際には、出資額に応じた合理的な説明(経営関与の度合い、事業運営の役割分担など)を用意しておくと安心です。
- 将来の資本政策
不自然な株式割当は、後の資金調達や第三者への説明の場面でリスクになります。長期的な視点で株主構成を考えることが大切です。
株式会社設立時には株式の単価は必ず統一しなければなりません。しかし、発起人全員の同意があれば、出資額と株数を比例させる必要はなく、同じ出資額でも異なる株数を交付することが可能です。これにより、結果的に議決権比率を調整することができます。
もっとも、そのような配分を行う場合は、贈与税リスクや将来の説明責任に注意が必要です。会社設立や株主構成の設計に不安がある方は、税務と登記の両面からサポートできる当事務所へぜひご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。