Last Updated on 2025年8月1日 by 渋田貴正
海外の会社からソフトウェア開発を受託し、日本国内で制作・納品する――こうした取引はグローバル化が進む今、特にスタートアップやIT企業では珍しくありません。しかし、こうした国際取引には「日本の消費税はかかるのか?」「源泉徴収は必要か?」といった税務上の注意点があります。
ここでは、海外企業とのソフトウェア開発契約における消費税と国内源泉所得税の取扱いについて、具体例を交えながら解説していきます。
日本国内で開発したソフトは海外の企業に納品しても消費税の課税対象?
外国企業(非居住者)からソフトウェア開発を受託し、日本国内で業務を行った場合、その行為自体は「国内取引」に該当します。つまり、本来は日本の消費税が課される取引です。
ただし、提供先が非居住者であり、かつその役務(開発成果)を日本国外で使用または消費する場合は、「輸出免税」の対象となる可能性があります。
どのようなソフトが対象になる?具体例で解説
ソフトウェアと一口にいっても、その用途や種類は多岐にわたります。たとえば、以下のようなソフトウェア開発を海外企業から受託するケースが考えられます。
ソフトウェアの種類 | 想定される用途・取引の例 | 税務上のポイント |
業務管理ソフト | 海外企業の勤怠管理、在庫管理、顧客管理システムなどを受託開発 | 開発作業が日本国内で行われても、納品先が海外で、現地で利用される場合は輸出免税が可能 |
ゲームソフト | 米国のゲーム会社から依頼を受け、日本でゲームプログラムを開発し、完成品を納品(DVDやクラウド) | 開発成果物が海外のユーザー向けに提供されるなら、輸出免税対象に |
金融関連ソフト | 海外の証券会社やフィンテック企業向けにトレーディングツールやリスク分析システムを開発 | 利用環境が海外に限定されていれば、免税の適用が検討可能 |
Webアプリケーション | 海外の企業から受託し、ブラウザ上で動作する予約管理やeコマースシステムなどを開発 | アプリのホスティング先や利用ユーザーの所在地により、税務判断が分かれる |
こうしたソフトウェアがいずれも日本国内で開発された場合でも、「誰に」「どこで使うために」提供されるかによって、消費税の課税関係が変わってきます。
ソフトウェアの輸出免税の判断ポイント
ソフトウェアが「無形物」であるため、商品輸出のような通関手続きは伴いません。しかし、以下のような条件を満たせば「輸出免税」として処理できます。
- 相手が非居住者であること
- 納品・使用場所が日本国外であること
- 契約書・納品書などでそれを証明できること
たとえば、業務管理ソフトを開発して米国法人の社内で使用するために提供した場合、ソフト自体がクラウド納品やVPN経由で納品されたとしても、利用が日本国外であれば輸出免税の適用対象となります。
一方、ゲームソフトを開発し、日本国内のユーザー向けにサービス提供する前提であれば、たとえ委託元が非居住者であっても国内消費税の課税対象になります。
免税取引として処理するためには、書類保存による証明が必要です。以下のような書類を整備しておきましょう。
- 開発契約書(相手先情報、納品形態、納品先、使用場所などを明記)
- 請求書、検収書、納品記録
- 支払記録(外貨建て・円建てどちらでも可)
- メディア納品(DVD等)の場合は通関記録も可能であれば保存
クラウド経由やデータ納品の場合でも、契約書と検収書がしっかりしていれば、輸出取引とみなされるケースも多く見られます。
円建ての入金でも輸出免税は適用可能
「外貨じゃないと輸出にならないのでは?」という疑問もよくありますが、輸出免税の可否に通貨は関係ありません。
円建てでの入金であっても、相手が非居住者であり、国外で便益が享受される場合は免税取引として問題ありません。
著作権譲渡の場合は源泉所得税の対象になることも
開発契約の形態が「業務委託」ではなく、完成したソフトウェアの著作権を海外企業に譲渡する契約である場合には、消費税の輸出免税対象になる一方で、支払い側に回ったときに源泉所得税の問題が生じる可能性があります。
所得税法の取扱い
非居住者に対して著作権の譲渡対価や使用料を支払う場合、その金額は「国内源泉所得」に該当し、原則として20.42%の源泉徴収が必要です(所得税法161条1項11号ロ)。
租税条約による免除・軽減措置
ただし、日本と相手国との間で租税条約がある場合は、源泉税率が10%に軽減されたり、場合によっては全額免除されることもあります。
相手国 | 租税条約の例 | 源泉徴収 |
アメリカ | 利用料10% | 軽減 |
香港 | 譲渡収益扱いで非課税 | 免除 |
シンガポール | 使用料10% | 軽減 |
条約の適用を受けるには、「租税条約に関する届出書」等を税務署に提出する必要があるため、事前準備が重要です。
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司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。