Last Updated on 2025年7月27日 by 渋田貴正

相続や贈与によって土地を取得した場合、見落とされがちなのが「その土地に借地権が設定されているかどうか」という点です。特に、借地権者、つまり建物の所有者親族であり、同一世帯や関係が深い場合には、明確な契約書や地代の授受がないことも珍しくありません。

このような場合、税務署側はその土地の利用関係を慎重に見極めようとします。借地契約が依然として継続しているのか、あるいは終了して土地の利用権がなくなっているのかにより、評価額は大きく変動します。その判断材料となるのが、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」です。これは単なる形式的な書類ではなく、土地の評価に直接影響する重要な証拠資料です。

借地権者の地位に変更がない旨の申出書」が必要になる主なケース

以下のようなケースでは、税務署から「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の提出を求められる可能性があります。

ケース 内容
親族間での底地の贈与 親が底地を子に贈与し、借地人である親族が引き続き建物を使用している
底地の相続 親が亡くなり、借地人である子が底地を相続する
無償貸付け 新所有者が借地人に地代を取らずに無償で土地を貸している
借地契約書が古い/ない 契約の継続が書類で確認できないため、別途申出書が必要となる

これらのケースに共通しているのは、借地契約そのものは継続しているものの、それを裏付ける書面の存在や明示的な証拠が不十分な点です。たとえば、親族間で土地を無償で譲渡した場合、借地契約が自動的に承継されたのかどうかは、第三者から見ると不明確です。特に地代の支払いがない場合、実態として賃貸借関係が終了しているのではないかという疑義が生じやすくなります。

税務署としては、貸宅地としての評価を認めるにあたり、「借地権が引き続き存在している」ことを何らかの書面で確認する必要があります。そのため、形式的であっても、当事者が「地位に変更がない」と申し出ることに意味があるのです。

この申出書がなければ、税務署はその土地を借地権のない更地(自用地)として評価する可能性があります。貸宅地として評価されるためには、借地権が有効に存続しており、借地契約が引き続き継続しているという事実が必要です。借地権が存在すれば、通常は借地権割合(例えば70%)が評価から控除され、結果として底地の評価額が大きく下がります。これにより、相続税や贈与税の節税効果が見込めます。

反対に、借地契約の継続が疑われるようなケースでは、税務署側はその土地を自用地として評価し、結果として税負担が大きくなるリスクがあります。

したがって、相続や贈与の申告においては、借地契約が継続しており、借地権が消滅していないことを明示的に税務署に伝えるため、この申出書の提出が重要になるのです。

借地権者の地位に変更がない旨の申出書」がある場合とない場合の比較

項目 申出書がある場合 申出書がない場合
借地権の継続性 書面で確認できる。借地契約が継続していることを税務署に明確に示せる。 書面での裏付けがなく、借地契約が終了したとみなされる可能性がある。
評価区分 貸宅地として評価。借地権割合が控除され、底地の評価額が下がる。 自用地として評価される可能性があり、評価額が大幅に上昇することがある。
評価額 借地権割合に応じて減額(例:30%~70%)。評価の根拠が明確。 更地評価とされることで、大幅な増額となる恐れあり。
税額 控除が適用される分、相続税・贈与税の負担が軽減される。 税額が跳ね上がる場合があり、予期せぬ納税負担を招くことも。
税務調査のリスク 借地関係が明確なため調査リスクは低い。 調査対象となる可能性が高まり、追加資料の提出や修正申告が必要になることも。
手続きのスムーズさ 書類が整っているため申告がスムーズに進む。 税務署からの問い合わせや追加資料の要求により、申告処理が長期化する可能性がある。

借地権がらみの土地の贈与・相続は、契約関係や評価の根拠を明確にしておかないと、税務署との認識にズレが生じ、申告後に指摘を受けるリスクが高まります。特に親族間での無償譲渡や相続においては、実態があいまいになりがちです。

当事務所では、こうした借地権付き土地に関する税務申告や書類作成を多数サポートしてまいりました。税理士と司法書士が連携して対応いたしますので、評価・申告・登記のすべてを一括でお任せいただけます。

借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の作成でお困りの方、また税務署とのやり取りに不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。