Last Updated on 2025年6月23日 by 渋田貴正

借地権の「認定課税」とは?

借地権とは、他人の土地に建物を建てるためにその土地を借りる権利です。個人または法人所有の土地に建物を建てる場合、契約上に借地権の記載がなくても、経済的実態として借地権が成立したとみなされ、税務上の「認定課税」がなされる可能性があります。

特に問題となるのが「権利金の認定課税」です。借地権には本来、一定の対価(=権利金)が支払われるべきですが、それが支払われていないと、税務署は「借地権の設定にあたり、通常であれば権利金を受け取るべきところ、無償または低額で設定した場合には、借地権設定者(=地主・貸主)に対して、法人税法に基づき受贈益課税がなされる可能性があります。

たとえば、相続税評価額1億円、借地権割合70%の土地を法人が無償で借りたとしたら、7,000万円相当の借地権贈与されたとみなされます。法人税率を40%と仮定すると、2,800万円の法人税が課される可能性があるということです。

実際には、以下のようなケースでこうした問題が発生する可能性があります。

ケース 土地の所有者 建物の所有者 具体的な状況 リスク・課税関係
1 個人(相続人) 法人(資産管理会社) 土地のみ相続し、その上に法人名義でアパートを新築 借地権の無償設定とみなされ、法人に受贈益課税のリスク
2 個人(相続人) 法人(資産管理会社) 土地・建物を相続し、建物のみ法人に売却・登記移転 法人が土地を無償で使用 → 借地権贈与と判断される可能性
3 個人(地主) 法人(同族会社) 個人所有の土地に法人名義で建替えアパートを建設 借地権の対価不払い → 法人税法22条2項の適用リスク
4 個人(親) 法人(子が株主) 家族内の資産管理会社に無償で土地を貸して建物を保有 形式的でも法人が借地権を得たとみなされる可能性
5 法人 個人(親族 法人の土地に個人名義で建物を建てる(逆パターン) 借地権贈与とみなされ、個人に贈与税が課される可能性

これらのケースでは、実際には権利金を支払っていないにもかかわらず、税務署から「借地権が無償で設定された=贈与があった」とみなされるリスクがあるため、事前に「土地の無償返還に関する届出書」を提出することが、税務上のリスク回避に極めて有効です。

 

「土地の無償返還に関する届出書」の役割

このような借地権の認定課税を回避するために活用されるのが、「土地の無償返還に関する届出書」です。

これは、法人が個人または法人から土地を借りる際、「借地権は設定せず、契約終了後に土地を無償で返還すること」を明確に税務署へ届出る書類です。国税庁が定める様式で、契約から「遅滞なく」提出する必要があります。

主(貸主) 借地人(借主) 地代の有無 発生しうる税金・課税関係 土地の無償返還届出書の提出可否
個人 個人 あり 地代収入に対して所得税(貸主) ❌ 提出不可(法人関与なし)
個人 個人 なし 借地権の無償設定とみなされ贈与税課税の可能性(貸主側) ❌ 提出不可(法人関与なし)
個人 法人 あり 地代収入に所得税(貸主)実質的借地権設定とみなされるリスク ⭕ 提出可能(認定課税を回避)
個人 法人 なし 借地権の無償設定とみなされ貸主側に法人税法22条の2項に基づく課税リスク ⭕ 提出可能(提出すべき)
法人 個人 あり 地代収入に法人税(貸主) ⭕ 提出可能(課税予防効果)
法人 個人 なし 借地権贈与とみなされ贈与税課税の可能性(借主=個人) ⭕ 提出可能(税務署により実態確認あり)
法人 法人 あり 地代収入に法人税(貸主)契約実態により課税対象となる可能性あり ⭕ 提出可能(形式整備に有効)
法人 法人 なし 借地権の無償設定とみなされ貸主側に法人税(受贈益)課税の可能性 ⭕ 提出可能(提出すべき)

この届出をすることにより、法人が実質的に借地権を有していたとしても、権利金の贈与がなかったとみなされ、課税を回避する効果があります。

【土地の所有者別】届出書の提出意義の違い

項目 土地所有者が個人の場合 土地所有者が法人の場合
借地権の認定課税リスク あり(個人から法人への贈与とみなされ法人税が課税) あり(法人から法人への贈与とみなされる可能性)
届出書の提出意義 個人側への受贈益課税を防止 法人側への法人税課税を防止
届出先税務署 土地所有者(個人)の住所地管轄税務署 土地所有者(法人)の本店所在地管轄税務署
注意点 相続時に貸宅地評価となり、小規模宅地の特例適用不可になるおそれあり 契約内容・実態の整合性がより厳格に求められる

「土地の無償返還に関する届出書」は、借地権の認定課税リスクを抑える非常に有効な手段です。しかし、契約内容や添付資料が不十分であれば、届出書の効力が否定される可能性もあります。また、相続税や法人税への影響もあるため、税務・登記の両面からの戦略的な判断が必要です。

当事務所では、税理士・司法書士の資格を活かし、土地活用や不動産法人化に伴う契約設計から届出書作成、相続対策まで一貫してサポートしております。少しでもご不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。