Last Updated on 2025年6月19日 by 渋田貴正

帰来時弁済型の遺産分割協議とは?海外に転出して不在の相続人がいてもできる柔軟な対応策

相続手続において、相続人の一部が国外に居住していたり、長年音信不通で連絡が取れなかったりする場合、遺産分割協議が滞ってしまうことがあります。こうしたケースで活用される可能性があるのが「帰来時弁済型の遺産分割協議」です。

不在者の相続分、どうする?帰来時弁済型という選択肢

通常、相続人全員の合意によって遺産分割協議を行う必要がありますが、相続人の1人が「不在者」である場合、協議自体が成立しないことがあります。不在者とは、住所や居所が分からない、あるいは長期にわたって連絡が取れない人のことを指します。

そのような場合、民法上は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てた上で手続きを進めるのが原則です。しかし、不在者が外国籍で、将来日本に戻ってくる可能性が非常に低いような場合、すべての財産を分割から除外しておくのは現実的ではありません。

そこで活用されるのが「帰来時弁済型の遺産分割協議」です。これは、不在者が帰国したときに、その法定相続分に相当する金銭(代償金)を支払うことを約束した上で、現時点では不在者を除いた相続人で遺産分割を行うという形です。

帰来時弁済型が認められる条件とは?

このような柔軟な分割方法が認められるには、いくつかの条件を満たす必要があります。

条件 内容
外国籍の不在者が帰国する可能性が低いこと 長期不在で連絡が取れない、国外に居住しており日本への帰国予定がないなどの事情
代償金を支払う側に資力があること 将来、不在者が帰国した場合に代償金を確実に支払えるだけの資産・収入があること
不在者に直系卑属がいないこと 不在者の子どもなどの法定代理権を持つ者が存在しない場合
分割の対象が主に不動産であること 特に、他の相続人が居住している不動産が中心の相続財産の場合に有効

これらの条件を満たしていない場合には、家庭裁判所の関与を経ない協議は無効とされる可能性がありますので、慎重な判断が必要です。

帰来時弁済型の遺産分割協議が活用される具体的なケース

たとえば、次のようなケースでは、帰来時弁済型が現実的な解決策となりえます。

ケース1:相続財産が自宅のみで、同居していた相続人が引き続き居住を希望

  • 被相続人の子2人のうち、1人は国外在住で20年以上音信不通。
  • 相続財産は被相続人の自宅のみ。
  • 同居していた子が引き続き住み続けるため、その自宅を取得する必要がある。
  • 同居していた子は資力があり、将来相手が帰国した場合には代償金を支払う用意がある。

このような場合、帰来時弁済型の遺産分割協議をすることで、生活の継続性を確保しつつ、将来への配慮もできます。

注意点:帰来時弁済型を選ぶ前に確認すべきこと

帰来時弁済型はあくまで特例的な手法であり、法的に認められるには厳格な要件を満たす必要があります。特に注意すべき点は以下のとおりです。

  • 証拠を残すこと:将来的なトラブルを避けるため、遺産分割協議書には「帰来時に代償金を支払うこと」を明記し、可能であれば公正証書化することが望ましいです。
  • 不在者に直系卑属がいる場合は利用不可:子どもがいる場合、その子どもを法定代理人として遺産分割協議を行う必要があります。
  • 財産の内容によっては困難な場合もある:現金や預貯金など流動資産が中心の場合には、帰来時弁済型よりも家庭裁判所の関与を得た処理のほうが適切な場合もあります。
不在者財産管理人の権限外行為との関係は?

不在者財産管理人が選任されている場合、その管理人が行える行為には制限があります。たとえば、次のような行為は「権限外行為」として家庭裁判所の許可が必要になります。

  • 不動産の売却
  • 建物の取り壊し
  • 多額の資産の処分

海外に住む相続人がいる場合、すぐに不在者財産管理人の選任を申し立てるのではなく、実情に即した解決策として帰来時弁済型の検討も可能です。特に、海外相続人が高齢で日本に戻る意思がない、音信不通が長期化しているなどのケースでは、最終的に「帰ってくる可能性がない」と判断されることもあります。

この場合、遺産を塩漬けにしておくのではなく、弁済の約束によって手続きを進めることで、他の相続人の生活を守ることができます。

このように、帰来時弁済型の遺産分割は特殊な要件を満たすことで利用できる柔軟な手法ですが、法的なリスクや後日の紛争を避けるためにも、専門家の関与が必須です。

相続登記が必要となる不動産の取得が関係する場合、司法書士のサポートが重要ですし、代償金の金額や支払方法によっては贈与税や所得税などの税務上の判断も必要となります。