Last Updated on 2025年6月3日 by 渋田貴正

外国会社が日本で事業を行う際、「営業所を設置すべきか、それとも日本における代表者だけを定めればよいか」という点は、初期段階で非常に重要な判断事項です。本稿では、外国会社の登記義務や営業所の有無による影響、特に銀行口座の開設や税務処理上の観点も含めて、わかりやすく解説いたします。

 外国会社の日本での登記:営業所の設置は任意

まず、会社法上、外国会社が日本で継続して取引を行う場合には、営業所を設置する義務はありません。これは、2002年(平成14年)の商法改正によって、従来義務付けられていた営業所の設置要件が撤廃されたためです。

ただし、外国会社が日本で事業を行う場合には、「外国会社の登記」が必要となります。

(登記前の継続取引の禁止等)

会社法 第818条
  1. 外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。

営業所を設置する場合も、設置しない場合も、日本における代表者を定め、その代表者の住所地をもって登記されます。

 外国会社の日本での営業所設置の有無による比較表

外国会社が日本で営業所の設置を行うかどうかで変わってくる内容を簡単にまとめました。

日本国内の営業所あり 日本国内の営業所なし
登記義務 あり(営業所所在地と代表者の住所) あり(代表者の住所地)
銀行口座開設 実務上開設しやすい 難しい場合が多い
日本国内の信用力 比較的高い 低く見られがち
税務上の取扱い 日本支店として課税、本国と損益通算可能 日本で源泉所得がある場合課税対象
書類送達の明確化 営業所所在地が明確で便利 書類送達先の特定がやや複雑になることも
日本裁判所の国際管轄判断基準 営業所所在地により確定しやすい 代表者の住所が基準
外国会社の営業所の有無による銀行口座開設に対する影響

外国会社が日本に銀行口座を開設しようとする場合、最も大きな障壁となるのが「実体のある拠点が日本国内に存在するかどうか」です。

実務上の違い

営業所を設置している場合、その場所を根拠に法人名義の口座を比較的スムーズに開設できます。一方で、営業所を設置せず、代表者だけを定めて登記した場合、銀行側から「実体が不明確」と判断され、口座開設を断られるケースが非常に多いのが実情です。

金融機関が口座開設の審査を厳格化している背景には、マネーロンダリング対策(AML/CFT)や反社会的勢力排除のための法令遵守義務があります。そのため、実態の裏付けがある営業所を持つ方が「口座を開設するに値する」と判断されやすいのです。海外で上場している会社の日本支店などの事情があれば別ですが、多くのケースでは銀行口座の解説では営業所があったほうが有利と言えます。

外国会社の営業所の有無による税務上の影響

 

外国会社が日本で営業所を設置していない場合でも、日本国内で源泉所得が発生すれば、原則として日本での課税対象になります。ただし、営業所を設置して「恒久的施設(PE)」と認定される場合には、そこで発生した損益が本国本社の損益と合算されるという税務上の取り扱いが可能です。また、営業所を設置しない場合でも、日本における代表者が「契約代理人」としての要件を満たせば同様に日本での法人税の課税対象になります。

したがって、営業所の有無に関わらず、事前に外国会社に強い税理士のアドバイスを受けることが重要です。

外国会社と日本法人の比較

外国会社として日本に進出するか、日本法人(株式会社・合同会社)を設立するかという選択も、事業戦略に大きく関わります。

項目 外国会社(営業所設置) 日本法人(株式会社・合同会社)
設立手続 登記のみで可 定款作成、公証人認証などあり
信用力 中程度 高い
税務申告 日本支店の損益で申告可能 独立法人として申告
銀行口座開設 難易度中 難易度低
撤退時の手続 登記抹消と債権者保護手続が必要 解散清算が必要

 

外国会社が日本に進出する際、営業所の設置は法的には義務ではありませんが、実務面では多くの利点があります。とりわけ、銀行口座開設の観点から見ると、営業所があることで信用力が高まり、取引の円滑化にも繋がります。

営業所を設置すべきか、それとも代表者を定めるだけでよいのか。あるいは、そもそも日本法人を設立するのが適切なのか。これらは一律に答えが出るものではなく、業種、規模、目的に応じた判断が求められます。

当事務所では、外国会社の日本進出に関するコンサルティング、登記手続き、営業所設置や銀行口座開設の実務支援まで、一貫してサポートしております。まずはお気軽にご相談ください。