遺言者が遺言と抵触する行為を生前にしても問題ない
いったん遺言を書いた以上は、相続人や遺言で遺贈を受けた人の期待を裏切ってはいけないし、契約のようにその内容と抵触する行為は勝手に行ってはいけない、というような思い込みをしている方がいます。しかし、遺言で一度書いたとはいえ、遺言者が存命の間はその財産は遺言者のものです。そのため、遺言で書いてある内容を実現できなくするような行為を遺言者が行ったとしても全く問題ありません。相続人としても、いくら遺言に書いてあるからといってそれを理由に遺言者が存命の間に遺言を理由に行為をやめさせるということはできません。
実際に、民法にも以下のように規定されています。
民法 第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。 |
つまり、遺言を書いた後に遺言者の生前に処分が行われた場合は、遺言の内容のうち、その部分は撤回されたものとみなすということです。このようなことが書いてあるくらいなので、生前に遺言の内容を実現できなくなるような財産の処分も問題ないということです。例えば、甲に不動産Aを遺贈する旨の遺言を書いた後に、遺言者が不動産Aを別の人に売却したとしても、その行為は有効であり遺言はその部分については撤回されたものとみなされるため、遺言者の死後に遺言の執行をする際に無視される内容となります。
また、遺言者が遺言を燃やしたり捨てたりといった破棄行為を行った場合や、対象となる目的物を捨てたりする行為をした場合も、その部分について遺言が撤回されたものとみなされます。
遺言で財産を残されるはずだった人からすれば期待外れかもしれませんが遺言者が存命の間はあくまで財産は遺言者のものです。もし遺言者が亡くなった際に遺言内で対象となっている財産が残っていなかったからといって、その処分行為が適法である以上は何かできることは残念ながらありません。(遺言者が騙されたり強迫されたりして財産を処分していた場合は相続人や受遺者などが取り戻すことはできます。)
趣旨的に抵触する行為も遺言の撤回として扱われる
遺言の対象となる財産を他人に売却したり、廃棄したりといった行為自体は遺言の内容と抵触することが明確で、その部分について遺言が撤回されたものとみなす判断も容易です。(遺言で財産を受け取るはずだった人からすれば気持ち的には複雑かもしれませんが。)
しかし、遺言の抵触はそうした物理的な行為だけではありません。例えば、「養子である甲に財産Aを相続させる」といった遺言を書いた後で、甲と遺言者が離縁した場合も遺言と生前行為が抵触する場合として扱われて遺言を撤回したものとみなされます。同様に、離婚・廃除などの法律行為があった場合も、撤回が擬制されます。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている