熟慮期間中の相続財産の処分
相続放棄は、熟慮期間中に行わなければいけません。また、熟慮期間は、例えば死後に多額の債務の存在が判明したような場合には起算点を繰り下げることも認められます。
しかし、実際には債務がないと思って通常の相続手続き(預金の解約など)をしたあとに、債務の存在が判明することもあり得ます。このようなときにも熟慮期間を繰り下げて、相続放棄はできるのでしょうか?
民法では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認したものとみなす旨が規定されています。ここで重要になるのは、どのようなことが「相続財産の処分」に該当するかということです。
主に3つのケースを考えてみます。
ケース1 葬儀費用等を相続財産から支払った後
葬儀については、債務の有無にかかわらず、遺族として行うべきものであり、その費用を被相続人の遺産から支出することは当然といえます。そのため、葬儀費用の支払いを遺産から行うことは、「相続財産の処分」には該当しません。そのため、葬儀費用の支払い後も相続放棄は可能です。
葬儀費用のほかにも、仏壇や墓石購入費用、生前の医療費の支払いなども「相続財産の処分」には該当しない取り扱いです。
ケース2 遺産分割協議を行った後
遺産分割協議は、まさに相続財産の処分そのものであり、遺産分割協議後は相続放棄は原則としてできません。ただし、遺産分割協議後に相続債務の返済の請求を受けた場合で、その請求があれば遺産分割協議をせずに相続放棄をしていたようなケースでは、遺産分割協議を無効にして相続放棄が認められる可能性があります。
ケース3 別の債務を支払った後
熟慮期間中に被相続人が抱えていた一部の債務を支払ったケースは、まさに「相続財産の処分」に該当して、その時点で単純承認したものとみなされます。もちろん相続人が個人的に返済することは相続財産の処分にはなりませんが、遺産から一部の債権者に支払った時点で、単純承認したものとみなされます。
熟慮期間中は、相続債権者から支払いの請求を受けても拒絶することができますので、あえて被相続人の支払ったとなれば単純承認したものと扱われても仕方ないということです。
いずれにしても、借金を抱えていそうな被相続人については、葬儀関係の支払いを除いて、被相続人のための支払いは慎重に行う必要があります。支払ったがために、別の債権者が大きな金額の請求をしても相続放棄できないということにもなりかねません。
相続放棄すべきかどうかお悩みの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている