Last Updated on 2025年1月16日 by 渋田貴正

特別受益とは?

相続の話題で耳にすることがある「特別受益」という言葉をご存じでしょうか。これは、相続人のうち一部の人が被相続人から生前に特別な利益を受けた場合に用いられる法律用語です。特別受益を受けた相続人は「特別受益者」と呼ばれます。この特別受益は、他の相続人との公平を図るために考慮される仕組みです。

特別受益とは反対に、被相続人の財産の増加や維持に特別な貢献をした相続人に適用される「寄与分」という制度もありますが、今回は特別受益について詳しく解説します。

特別受益者がいる場合は、他の相続人との公平を保つため、計算した相続分から特別受益を引いて、特別受益者の相続分を計算することになります。もし特別受益の額が計算した相続分よりも多ければ、特別受益者である相続人は、相続分を受けることができないということになります。

特別受益の算定には、「持ち戻し」という特別な計算が必要です。まずは、特別受益の額を、相続分に加算(これを持ち戻しといいます)して「みなし相続財産」を計算したあとに、特別受益の額を特別受益者の相続分から引いて各相続人の具体的相続分を計算します。

具体的な特別受益の計算

特別受益がある場合の遺産分割は、以下の手順で計算します。

  1. みなし相続財産を計算 → 相続財産に特別受益の額を加算します(これを”持ち戻し”といいます)。
  2. 法定相続分を計算 → みなし相続財産をもとに各相続人の法定相続分を計算します。
  3. 具体的相続分を計算 → 特別受益者の法定相続分から特別受益額を差し引きます。

相続人が 配偶者A、子B、子Cの場合
遺産:3,000万円
Aへの生前贈与:1,000万円(特別受益の額)

みなし相続財産:3,000万円+1,000万円=4,000万円<持ち戻し

みなし相続財産をもとに計算した相続分
A 2,000万円(2分の1)
B 1,000万円(4分の1)
C 1,000万円(4分の1)

具体的相続分
A 2,000万円ー1,000万円(特別受益)=1,000万円
B 1,000万円
C 1,000万円

特別受益に関する注意点

こうして計算された具体的相続分ですが、法定相続分の計算にあたって加味するもの、つまり特別受益は法定相続分を決めるための特則的な規定ということです。各相続人の協議で遺産を分割する場合に必ず特別受益を考慮しなければならないわけではありません。上記の例では配偶者にすべての相続財産を譲渡するということを全相続人の協議で決めても全く問題ありません。

結局特別受益が問題になるのは、その点をめぐって相続人間に争いがあり、遺産分割協議がまとまらず調停や審判まで発展してしまったようなケースです。

特別受益の範囲

遺産の前渡しととらえられるかどうかがポイントです。

特別受益として認められる例は以下のようなものがあります。

種類 具体例
生前贈与 特定の子に家や土地を贈与する
教育資金 多額の学費や留学費用を支払う
婚姻や生活資金 結婚の際の支度金や新生活のための資金を援助する
保険金 特定の相続人を受取人とした死亡保険金
事業の承継 特定の子に事業資産を無償で引き継がせる
不動産の無償利用 特定の相続人に住宅を無償で提供し続ける

上記のようなケースが特別受益になる可能性がある例として挙げられますが、実際には、状況や金額などケースバイケースです。

特別受益の制度は、相続人間の公平を保つための重要な仕組みです。ただし、実際の遺産分割においては、特別受益がトラブルの火種になることも少なくありません。そのため、特別受益が発生する可能性がある場合は、専門家に相談しながら早めに対策を講じることが望ましいでしょう。