Last Updated on 2026年2月27日 by 渋田貴正

相続で取得した空き家を売却すると、思いのほか大きな税金がかかることがあります。しかし、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」により、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。譲渡所得とは、不動産を売ったときの利益のことです。この特例は空き家対策の一環として設けられており、相続した空き家や土地の流通を促すための制度です。

たとえば、父が一人暮らしをしていた自宅を相続し、4,000万円で売却したとします。取得費や仲介手数料などを差し引いた利益が2,800万円出た場合、本来であればその2,800万円に対して約20%の所得税・住民税がかかります。およそ500万円超の税額になることもあります。しかし、この特例を使えば2,800万円から3,000万円を差し引けますので、課税所得はゼロになります。まさに「知っているかどうか」で手取りが大きく変わる制度です。

被相続人居住用財産の特例の基本的な仕組みと計算方法

譲渡所得の計算式は次のとおりです。
譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用−特別控除

ここでいう取得費とは、もともとの購入代金や建築費などです。譲渡費用とは、仲介手数料や解体費用など売却のために直接かかった費用です。この特例では、ここから特別控除として、さらに最大3,000万円を差し引けます。

何の特例の適用もなければ、以下の税率にて所得税や住民税が課税されます。

譲渡(売却)した年の
1月1日での所有期間
所得税 住民税 合計税率
短期譲渡所得 5年以下 30% 9% 39%
長期譲渡所得 5年超 15% 5% 20%

※上記とは別に、所得税額に対して復興特別所得税(2.1%)が加算されます。

ただし、自動的に差し引かれるわけではありません。確定申告をしてはじめて適用されます。税金の世界は申告してこそ特例が受けられます。結果的に税金かからないからと言って申告しないと無申告状態として扱われます。

被相続人居住用財産の特例の適用要件

この特例には複数の要件があります。代表的なものを整理します。

区分 主な要件
建物 昭和56年5月31日以前建築、区分所有建物でないこと
居住状況 被相続人が相続開始直前まで一人で居住していたこと
売却期限 相続開始から3年を経過する年の12月31日まで
譲渡価額 売却価格が1億円以下であること

老人ホーム入所中の場合でも一定要件を満たせば対象になることがありますが、細かな事実関係の確認が必要です。

また、重要なポイントが建物付きで売るか、更地にして売るかということです。どちらのパターンで行くかによって実務対応が異なります。

売却方法 特例適用の可否 必要条件 実務ポイント
建物+土地を売却 可能 売却時に耐震基準を満たすこと 耐震診断や改修費用が発生する場合あり
解体後に土地のみ売却 可能 相続から売却まで空き家であること 解体費用は譲渡費用として控除可能

実務では更地にして売るケースが多いです。旧耐震建物を改修するより、解体した方が売却しやすい場合が多いためです。ただし解体のタイミングや証明書類の整備を誤ると特例が使えなくなります。

実務では、建物付きで売却し、買主が一定期限までに解体する形も広く利用されています。この場合でも特例は適用できますが、売却した年の翌年2月15日までに建物が解体されている必要があります。そのため、売買契約書に解体を前提とする条項を入れるなど、事前の契約設計が極めて重要です。不動産の売却は単なる価格交渉ではなく、「税務要件を満たす設計」が成功の鍵になります。

それぞれのパターンをまとめると以下のようになります。

方法 特例適用の確実性 実務上の特徴 注意点
1位 売主が解体して更地で売却 最も確実 売却時点ですでに更地のため、特例要件を満たしていることが明確です。税務上のリスクが最も低い方法です。 解体費用(100万〜300万円程度)が売主負担になりますが、譲渡費用として控除できます。
2位 建物付きで売却し、買主が解体 高い(ただし契約管理が重要) 実務で多く利用される方法です。売主が解体費用を負担せずに済みます。 売却翌年2月15日までに解体されないと特例が使えない可能性があります。契約書で解体条件を明確にすることが重要です。
3位 耐震改修して売却 適用可能だが現実的でないことが多い 建物を残したまま売却できます。 耐震改修費用が高額になることが多く、解体より費用対効果が悪いケースが一般的です。

確定申告では次の書類を提出します。

書類名 内容 取得先
譲渡所得の内訳書 売却益の計算書 税務署様式
売買契約書 売却金額の証明 手元資料
登記事項証明書 所有権移転の確認 法務局
被相続人居住用家屋等確認書 空き家要件の証明 市区町村

特に重要なのが市区町村から取得する「被相続人居住用家屋等確認書」です。この書類がなければ特例は使えません。市区町村は、相続開始から売却まで空き家であったかどうかを確認します。そのため、電気・水道の停止証明、不動産会社の証明書などの提出を求められることがあります。売却後に慌てると書類が揃わないこともあります。空き家特例は、売却前から準備が始まっている制度です。

被相続人居住用財産の特例と相続登記との関係

空き家を売却するには、まず相続登記が必要です。相続登記とは、亡くなった方から相続人へ名義を変更する手続きです。令和6年4月からは相続登記が義務化されています。共有で登記するか、単独名義にするかによって税務上の扱いも変わります。不動産は「名義が整って初めて売れる資産」です。税務と登記は車の両輪のような関係にあります。

該当の不動産を相続する相続人が複数いる場合でも適用可能です。ただし控除額の扱いは専門的判断が必要です。遺産分割の方法や持分割合によって適用額が変わる場合があります。ここは自己判断せず、必ず専門家に確認すべき部分です。

空き家の売却は、税金・登記・証明書類の三位一体で進める必要があります。要件を満たせば大きな節税になりますが、一つでも外れると数百万円の差が生じます。当事務所では、相続登記から売却設計、確定申告まで一貫して対応しております。相続した空き家の売却をご検討中でしたら、安心してお任せください。