Last Updated on 2026年1月17日 by 渋田貴正

会社を設立する際に必ず作成する書類が定款です。株式会社や一般社団法人などでは、この定款について公証人の認証を受ける必要があります。古い話ですが昔は2紙の定款を作成し、公証役場で認証を受ける方法が一般的でしたが、現在では電子定款を利用するケースが主流になっています。電子定款を利用すると、紙の定款で必要となる収入印紙4万円が不要になるため、会社設立時のコストを抑えられる点が大きなメリットです。

2026年1月13日以降についてはこの電子定款認証の申請手続を、より実務に即した形へと見直す内容です。制度としては技術的な話に見えますが、実際には会社設立のスピードや、発起人の負担感に直結する重要な変更といえます。

紙で行う場合と電子署名で行う場合の定款認証の違い

まず、定款認証用の委任状を紙で作成する場合と、電子署名で作成する場合の違いを整理しておきます。

項目 紙の委任状 電子署名の委任状
作成方法 紙に署名・押印 PDFデータに電子署名
本人確認の方法 署名・押印による確認 電子証明書による本人確認
必要なもの 印鑑、郵送手続 マイナンバーカード等の電子証明書、ICカードリーダー、署名ソフト
発起人が複数の場合 人数分の紙を作成するか、1枚にまとめて押印 人数分の電子署名が必要

紙の委任状は直感的で分かりやすい反面、郵送の手間や時間がかかります。一方、電子署名は非対面で進められる反面、事前準備やIT環境が必要になります。

従来の電子署名による委任状で実際に必要だったこと

従来、司法書士に電子定款認証を依頼する場合で委任状を電子で作成する場合、発起人それぞれが個別に委任状を作成し、個別に電子署名を行う必要がありました。これは単に「電子で署名する」という話ではなく、実務上は発起人ごとに一定の準備が求められる仕組みでした。

まず、電子署名を行うためには、本人名義の電子証明書が必要です。日本国内に住んでいる方であれば、一般的にはマイナンバーカードに搭載されている署名用電子証明書を利用します。この場合、マイナンバーカード本体に加え、ICカードリーダーを用意し、署名用電子証明書の暗証番号を正確に入力する必要があります。暗証番号を失念している場合、市区町村役場での再設定が必要になり、ここで手続が一時的に止まることも少なくありません。

さらに、PDFファイルに電子署名を付与するためのソフトウェア環境が必要になります。代表的なものとしてはAdobe Acrobat Proなどがありますが、無料のPDF閲覧ソフトでは電子署名に対応していません。そのため、通常は発起人自身が有料ソフトを用意するか、操作環境を整える必要がありました。

発起人が複数いる場合は、人数分だけこの作業を繰り返す必要があります。委任状は発起人ごとに個別に作成されるため、電子署名も個別に行い、完成した電子委任状を代理人である司法書士へ送付する流れになります。発起人が遠隔地や海外に住んでいる場合、あるいはIT操作に不慣れな方が含まれる場合、この工程だけで数日から一週間程度かかることもありました。

2026年1月からの申請方法拡大で何が変わるのか

2026年1月からの申請方法拡大では、こうした実務上の負担を軽減する方向で見直しが行われています。具体的には、PDFに埋め込まれたXML形式の電子署名にも対応することが明確化されました。また、委任状についても、1通の委任状に対して複数の発起人が電子署名を行うことが可能になります。

これにより、発起人ごとに個別の委任状を管理する必要がなくなり、書類の構成や申請手続が整理されます。制度自体が劇的に簡単になるというより、「人間が感じていた面倒さ」を減らす方向に調整された改正といえるでしょう。

今回の改正を受けて、今後は電子申請が一気に主流になるのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、実務の現場感覚としては、当面の間、紙の委任状を前提とした運用が急激に姿を消すとは考えにくいのが実情です。

その理由の一つは、電子署名に必要な環境が、一般の方にとって依然として高いハードルである点です。マイナンバーカードを保有していない方や、署名用電子証明書の暗証番号を把握していない方は少なくありません。また、ICカードリーダーや電子署名対応ソフトを準備する必要がある点も、「一度きりの会社設立のためにそこまで準備するのは大変だ」と感じられやすい部分です。

もう一つの理由は、紙の委任状が持つ分かりやすさと安心感です。署名・押印をして郵送するという流れは、多くの方にとって直感的で、手続の全体像をイメージしやすい方法です。今回の改正の本質は、紙を廃止することではなく、電子を選択した場合の不自然な負担を減らす点にあります。

今後の実務では、「原則は紙、条件が整えば電子」という使い分けが続く可能性が高いでしょう。制度改正により選択肢が増えたこと自体は前進ですが、重要なのは形式ではなく、誰にとって無理のない進め方かという点です。

電子定款認証や会社設立は、定款認証で終わりではなく、その後の設立登記や税務手続まで一体で考える必要があります。電子・紙のどちらを選ぶべきかも含め、実務全体を見据えたサポートを受けたい方は、税理士・司法書士として会社設立を数多く扱ってきた当事務所までご相談ください。制度を知っているだけでなく、実際にどう進めるのが現実的かという視点でサポートいたします。