Last Updated on 2025年12月29日 by 渋田貴正
「相続人が海外に住んでいるなら、日本の相続税は関係ない」このように考えている方は少なくありません。しかし、日本の相続税では、相続人が海外在住であるかどうかだけで課税関係が決まることはありません。
相続人が海外に住んでいても、日本国籍を有しているか、過去に日本に住所を有していたかといった事情によって、日本での相続税が全世界の財産に及ぶことがあります。特に、「相続開始前10年以内の居住歴」は、海外在住相続人にとって最も重要な判断軸です。また、場合によっては相続人が10年を超える期間ずっと海外に居住しているケースでも非相続人次第では日本での相続税の納税義務が発生します。
相続人の区分(海外在住者)
本コラムでは、相続人が海外在住であるケースについて、次の3通りに区分します。
相続人Ⅰ
相続開始時に海外在住で、日本国籍を有し、相続開始前10年以内に日本に住所があった相続人
相続人Ⅱ
相続開始時に海外在住で、日本国籍を有するが、相続開始前10年以内に日本に住所がなかった相続人
相続人Ⅲ
相続開始時に海外在住で、日本国籍を有しない相続人
被相続人の区分
被相続人については、次の5通りに区分します。
被相続人①
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年超
被相続人②
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年以下
被相続人③
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有する
被相続人④
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有しない(いわゆる非居住被相続人)
被相続人⑤
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所がない
15通りの相続税パターン(海外在住の相続人)
以下では、相続人 × 被相続人の順で、日本での相続税の課税関係を示します。
パターン1(相続人Ⅰ × 被相続人①)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界
パターン2(相続人Ⅰ × 被相続人②)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン3(相続人Ⅰ × 被相続人③)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界
パターン4(相続人Ⅰ × 被相続人④)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン5(相続人Ⅰ × 被相続人⑤)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン6(相続人Ⅱ × 被相続人①)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界
パターン7(相続人Ⅱ × 被相続人②)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン8(相続人Ⅱ × 被相続人③)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン9(相続人Ⅱ × 被相続人④)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン10(相続人Ⅱ × 被相続人⑤)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン11(相続人Ⅲ × 被相続人①)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界
パターン12(相続人Ⅲ × 被相続人②)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン13(相続人Ⅲ × 被相続人③)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン14(相続人Ⅲ × 被相続人④)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
パターン15(相続人Ⅲ × 被相続人⑤)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ
| 相続人\被相続人 | 被相続人① 日本居住 15年内10年超 |
被相続人② 日本居住 15年内10年以下 |
被相続人③ 非居住 10年内住所あり 日本国籍あり |
被相続人④ 非居住 10年内住所あり 日本国籍なし |
被相続人⑤ 非居住 10年内住所なし |
|---|---|---|---|---|---|
| 相続人Ⅰ 海外在住 日本国籍あり 10年内住所あり |
相続税 かかる 全世界 |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 全世界 |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
| 相続人Ⅱ 海外在住 日本国籍あり 10年内住所なし |
相続税 かかる 全世界 |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
| 相続人Ⅲ 海外在住 日本国籍なし |
相続税 かかる 全世界 |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続税 かかる 国内財産のみ |
相続人が海外在住でも日本の相続税が残る理由
海外在住の相続人についても、日本の相続税では「どこに住んでいるか」だけでなく、「どの国と継続的な結びつきがあるか」が重視されます。特に、日本国籍を有する相続人については、海外に居住していたとしても、一定期間は日本との関係が継続していると評価されます。そのため、海外に移住したからといって、直ちに日本での相続税が切れるわけではありません。相続開始前10年以内の居住歴は、「日本との縁がどこまで薄れたか」を測るための重要な指標とされています。
特に、海外在住で日本国籍を有しない相続人の場合、「日本の相続税は関係ない」と思われがちです。確かに、相続人側だけを見ると、日本との結びつきは弱く、日本での相続税はかからなさそうに見えます。しかし、日本の相続税では、相続人の国籍や居住地だけで課税関係が決まるわけではありません。被相続人が相続開始時に日本に住所を有していた場合や、過去の居住状況によって無制限納税義務者に該当する場合には、相続人が海外在住かつ外国籍であっても、日本で相続税の納税義務が生じることがあります。
つまり、海外在住で日本国籍のない相続人であっても、「被相続人側の条件次第」で、日本の相続税とは無関係ではいられないケースがあるという点には注意が必要です。国際相続では、相続人だけを見て判断すると、結論を誤りやすい典型例といえます。
海外在住の相続人が関係する相続税では、被相続人と相続人の双方について、事実関係の整理が結論を左右します。当事務所では、海外在住者が関係する相続について、日本での相続税がどこまでかかるのかを明確にしたうえで、税務・登記の両面からサポートしています。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
