Last Updated on 2025年12月27日 by 渋田貴正

会社を経営していると、配偶者や親、子どもに会社からお金を支給したいと考える場面は少なくありません。もちろん何かしらの職務、業務が発生していることが大前提ですが、そういった場合、「役員にした方がいいのか」「従業員として給与を払う方がいいのか」という相談は非常に多いです。

結論から言うと、どちらが有利かは一概には決まりません。税金、社会保険、登記、そして税務調査での説明可能性まで含めて考える必要があります。ここを安易に判断すると、節税のつもりが税務調査での思わぬ否認につながることもあります。よくある相談として、「社長一人会社で、妻が事務作業を手伝っている。毎月10万円ほど支給したいが、役員報酬と給与のどちらがいいのか」というケースがあります。この質問に即答できない理由は、支給方法によって、勤務実態の説明方法や税務上のチェックポイントが大きく変わるからです。

勤務実態は従業員と役員でどう違うのか

まず大前提として、役員であっても従業員であっても、業務実態が不要ということはありません。税務上、「何もしていないのにお金だけ払ってよい」という立場は役員だろうと従業員だろうと、どちらにも存在しません。

ただし、勤務実態の見られ方には違いがあります。従業員の場合は、より具体的・数量的な説明が求められやすく、役員の場合は、経営関与の実態や意思決定への関与といった質的な側面が重視される傾向があります。

区分 共通の前提 勤務実態の見られ方(税務上) 具体的に見られやすいポイント
従業員(使用人) 実際に業務に従事していることが前提 より具体的・数量的な説明が求められやすい 業務内容の明確性
勤務時間・日数
他の従業員や同業他社との給与水準比較
役員 会社運営に一定の役割を担っていることが前提 経営関与の実態や意思決定への関与といった質的側面が重視されやすい 経営判断への関与の有無
会社運営上の責任や役割
報酬決定手続(株主総会決議等)との整合性

従業員(使用人)として家族に給与を支給する場合

家族を従業員として雇用し、給与を支給する場合、その給与は原則として法人の経費になります。定期か臨時かを問わず、実態に基づく給与であれば損金算入が認められるのが原則です。

しかし、配偶者や子どもなど、役員と近い関係にある家族は、税務上「特殊の関係のある使用人」として扱われます。この場合、給与の金額が不相当に高いと判断されると、その超過部分は経費として認められません。

法人税法
(過大な使用人給与の損金不算入)
第36条 内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

わざわざ家族従業員のためにこんな条文が作られていることからも分かるとおり、家族に対する給与は、税務上「特に注意して見るべきもの」と位置づけられています。実務的には、最初から疑いの目でチェックされやすい領域だと考えて差し支えありません。

具体的に、「役員と特殊の関係のある使用人」として想定されているのは、次のような人です。親族以外にも扶養している第三者も該当します。

区分 具体的な該当例 実務上の注意点
役員の親族 配偶者
子ども(実子・養子)
父母、義父母
兄弟姉妹
最も典型的にチェックされる対象。
勤務実態・金額の相当性の説明が必須。
役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者 内縁の配偶者
同居して生活を共にしているパートナー
戸籍上の配偶者でなくても対象。
生活実態で判断される点に注意。
役員から生計の支援を受けている者 役員から生活費を受け取っている親族以外の人 給与以外の援助があると対象になりやすい。
「扶養しているか」が実質判断。
それらの者と生計を一にする親族 同居して家計を共通にしている家族
別居でも仕送り等で生活を共にしている場合
同居・別居は問われない。
実際の生活関係が重視される。

このとき重視されるのが勤務実態です。具体的には、どのような業務を行っているのか、どの程度の時間働いているのか、同規模・同業種の従業員と比べて金額が妥当か、といった点が見られます。実際に働いていないのに給与を払ういわゆる「名ばかり従業員」はもちろん架空経費なので計上できませんし、税務調査でも否認の対象になります。

家族従業員の場合、「経理を手伝っている」「事務をしている」といった抽象的な説明では足りず、業務内容や関与の度合いを具体的に説明できる状態が望まれます。勤務実態の説明が弱いと、実質的には役員報酬の付け替えではないか、という視点で見られやすくなります。

役員として家族に役員報酬を支給する場合

一方、家族を役員にして報酬を支給する場合、役員報酬は法人税法上、一定の制度要件を満たすことで損金算入が認められます。代表的なのが定期同額給与です。

ただし、これは「業務実態がなくてもよい」という意味ではありません。役員の場合は、日々の作業時間や出勤日数よりも、経営判断への関与、責任の所在、会社運営における役割といった点が実態として問われます。たとえば、経営方針の決定に関与している、重要事項の相談役になっている、会社運営上の役割を担っているといった実態があれば、役員としての報酬性は説明しやすくなります。

役員の場合、何時間会社にいるかという点よりも、どのような役割を担い、経営や意思決定にどう関与しているかといった職務の内容が重視されるのは通常のことで、これは家族役員でも同じということです。

逆に、形式上は役員でも、経営への関与が全く説明できない場合には、税務上問題視されるリスクは残ります。役員報酬も、実態と無関係に認められるものではありません。

項目 役員報酬 給与(従業員)
登記 原則必要 不要
勤務実態の見られ方 経営関与・役割重視 業務内容・業務によっては従事時間重視
金額の柔軟性 原則固定 比較的柔軟
過大支給の判断 役員報酬規制 過大給与規制
社会保険 原則加入 条件次第

創業初期で固定費を抑えたい場合には、従業員としての給与が向くケースがあります。一方、会社の利益が安定し、経営体制を明確にしたい段階では、役員として位置づけた方が整理しやすいこともあります。

また、将来の事業承継や株主構成を考えると、誰を役員にしているかは登記上も重要な意味を持ちます。税務だけでなく、登記や将来設計まで含めて判断することが重要です。

家族への支給は「簡単そうで一番難しい」分野です。勤務実態の説明、税務上の位置づけ、登記との整合性を後から修正するのは簡単ではありません。当事務所では、税理士と司法書士の両面から、今だけでなく将来も説明できる形を前提にご提案しています。家族への支給方法で迷ったら、早めにご相談ください。最初の設計が、後の安心につながります。