Last Updated on 2025年11月30日 by 渋田貴正
同族会社の税務を考えるうえで、避けて通れないキーワードが「行為または計算の否認」です。同族会社とは、社長や親族など、少数の関係者が株式や議決権の大半を握っている会社をいいます。
家族経営だからこそ意思決定が早く柔軟に動ける一方で、「会社と個人の財布が混ざりやすい」「税金を減らすための工夫が行き過ぎやすい」という弱点もあります。
このような場面で、税務署が最後の切り札として使うのが、法人税法132条や所得税法157条の「行為または計算の否認」です。いわば税務署側の「伝家の宝刀」であり、本当におかしな取引に対して抜かれるイメージを持っておくと分かりやすいと思います。
同じような条文の行為または計算の否認が「法人税法」と「所得税法」の双方に存在する理由は、同族会社の取引が、会社(法人)と社長個人(株主・役員)の双方に影響を及ぼす構造になっているためです。
同族会社では、法人と個人の経済活動が密接に結びつきやすく、たとえば「会社の利益を圧縮すれば法人税は減り、同時に株主個人の所得税が増える」「逆に個人に有利な形で取引をすれば、法人側で不自然な損金や資産移転が発生する」といったように、一方を是正するだけでは税負担の調整が不十分となるケースが多くあります。そのため、法人側の計算のゆがみを正す条文として法人税法132条が置かれ、個人(株主・役員)の所得のゆがみを正す条文として所得税法157条が並行して用意されています。
言い換えると、「同族会社の行為を是正するには、会社と個人の両方を見る必要がある」ため、所得税と法人税の両方に行為計算否認の仕組みが整備されているのです。
「行為」または「計算」の否認とは何か
行為または計算の否認とは、形式上は法律に反していない取引であっても、その取引を認めると株主などの所得税の負担が「不当に減少」するときに、税務署がその形式を無視して、通常想定される計算に引き直して課税できるという制度です。
ポイントは次の2つです。
・同族会社の行為または計算であること
・その結果、株主などの所得税負担が不当に減ること
税務署は、通常の第三者間取引と比べて不自然かどうか、経済合理性があるかどうかを総合的に見て判断します。
同族会社だからといって何をしても否認されるわけではなく、「さすがにこれは税金を減らすためだけでしょう」というレベルになって初めて、伝家の宝刀が抜かれるイメージです。
個別的否認規定と行為計算否認の違い
税法には、行為計算否認とは別に「個別的否認規定」と呼ばれる条文も多くあります。たとえば、役員給与が不相当に高額な部分を損金不算入にする規定や、常識的に必要とはいえない交際費を否認する規定などがこれに当たります。
まずは個別的否認規定の適用が検討され、それに該当しない場合に行為または計算の否認規定が検討される流れとなります。
| 区分 | 内容 | 典型例 |
|---|---|---|
| 個別的否認規定 | 法律に具体的に書かれた否認条文。要件が比較的明確。 | 高額役員給与の損金不算入、過大な交際費の否認など |
| 行為または計算の否認 | 形式は適法でも、実質的に税負担を不当に減らす場合に全体を否認する条文。 | 不自然なグループ間取引、名義だけを動かすスキームなど |
実務上は、まず個別的否認規定で処理できるかが検討され、それでもなお不当な税負担減少が残るときに、行為計算否認が問題になります。いきなり132条・157条を振りかざしてくるわけではありません。
資産管理会社などの同族会社に多い「行為」と「計算」の具体例
行為計算否認は、文字だけ読むと抽象的ですが、実務上は「行為」と「計算」に分けて考えると整理しやすくなります。
行為の例(取引のやり方・相手が不自然なケース)
・同族会社が社長の配偶者に、実態以上に高額な役員報酬を支払う
・売上の一部を、実質的に株主が支配する別会社に移しておき、本体の会社の利益を圧縮する
・会社所有の不動産を、社長個人に時価より極端に安い賃料で貸す
これらは、取引の「相手」や「条件の付け方」が、第三者間であればまず考えにくい内容であることが問題になります。
計算の例(数字の出し方・配分の仕方が不自然なケース)
・グループ会社間で管理料をやり取りし、利益が出ている会社から赤字会社へ利益を意図的に移している
・現実の取引実態に合わない按分や配賦を行い、一部の会社にだけ費用を過大に付け替えている
・配当と役員報酬を不自然なバランスにし、株主側の所得税だけを過度に軽くする計算をしている
こちらは、同じグループ内の数字の動かし方・配分の仕方が不自然かどうかが焦点になります。
行為と計算の典型例、それぞれの当事者にどのような税務上の影響が出るのかを簡単に整理すると、次のようになります。
| 区分 | 具体的な例 | 会社への影響 | 株主・役員への影響 | 行為計算否認された場合の主な修正 |
|---|---|---|---|---|
| 行為 | 社長の家族に実態以上の高額役員給与を支払う | 損金算入が否認され、法人税が増加 | 役員側の給与所得としてはそのまま課税されることが多く、所得税負担も高いまま | 適正水準まで給与を引き下げて再計算され、会社の所得が増える方向で更正 |
| 行為 | 会社所有不動産を社長個人に相場より極端に安い賃料で貸す | 本来得られるべき賃料収入が否認され、法人税が増加 | 社長が受けた経済的利益が、給与や配当とみなされ所得税・住民税が増加 | 適正家賃水準に引き直して、会社の収入増・個人の経済的利益の認定課税 |
| 計算 | グループ会社間で相場を無視した管理料を計上し、利益を赤字会社へ移す | 管理料を支払う側の損金が否認され法人税が増加。一方で受け取る側の収益も見直される | 結果として、株主全体としてのグループ税負担を不当に軽減したと判断される | 第三者間相場を参考に管理料を再計算し、各社の所得・法人税額を修正 |
| 計算 | 配当と役員給与を不自然な比率に設定し、株主の所得税を過度に圧縮 | 法人側の利益配分の計算が見直され、損金算入できる給与額が修正 | 本来であれば配当として課税されるべき部分が認定され、株主の所得税・住民税が増加 | 通常の報酬・配当バランスに引き直し、株主側の所得区分・税額を更正 |
表から分かるとおり、行為計算否認が適用されると、「会社の法人税が増える」「個人の所得税・住民税も増える」というダブルパンチになることが珍しくありません。節税のつもりが、結果的には追徴課税や加算税・延滞税まで含めて、想定以上のコストになることも多い制度です。
「行為」と「計算」の否認に合わないために
行為計算否認は、税務署にとってまさに「伝家の宝刀」です。一度抜かれると、会社側が後から説明でひっくり返すのは簡単ではありません。だからこそ、本当に大切なのは「抜かれないように日頃から備えておくこと」です。
ポイントは次のような点です。
・第三者に見せても不自然でない条件・価格で取引する
・役員給与、地代、管理料などは相場感が分かる資料を残しておく
・契約書や覚書で、取引の内容と理由をきちんと文書化しておく
・グループ会社間でお金を動かすときは、理由と計算根拠を必ずメモに残す
同族会社の税務は、「何となくそうしてきた」で続けていると、ある日突然、税務調査のタイミングで過去数年分をまとめて指摘されることがあります。逆にいえば、日頃から専門家と一緒に設計しておけば、行為計算否認のリスクはかなり下げることができます。
当事務所では、同族会社の役員給与や地代・管理料の設定、グループ間取引の整理、会社設立時の持株構成や定款設計などについて、税理士と司法書士の両面から一体的にサポートしています。同族会社の税務リスクをきちんと整理しておきたい方や、これから会社設立を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
