Last Updated on 2025年11月17日 by 渋田貴正
一括転貸方式(サブリース方式)とは、不動産管理会社がオーナーから建物全体を一括で借り受け、管理会社が入居者に転貸する仕組みです。入居者との賃貸借契約上の賃貸人は不動産管理会社となり、入居者が支払う家賃はすべて管理会社の収入になります。一方で管理会社は、オーナーに対して毎月一定額の賃料を支払うため、オーナーは空室があっても安定した収入を得ることができます。この「空室保証」がサブリース方式の大きな特徴です。
一括転貸方式の契約構造
一括転貸方式では、不動産管理会社が「賃貸経営の主体」となるため、空室リスク・入居者対応・家賃回収などをすべて引き受けます。
| 当事者 | 内容 | 収入の帰属 |
| 入居者 → 管理会社 | 賃貸借契約を締結 | 家賃は管理会社へ |
| 管理会社 → オーナー | 一括転貸契約により賃料支払 | オーナーへ一定額 |
| 管理会社 | 空室リスク・運営コストを負担 | 差額が利益になる |
資産管理会社はリスクを負う代わりに、オーナーへ支払う賃料を満室家賃より少し低く設定するのが一般的です。
一括転貸方式の適正賃料(サブリース料)は何%か
実務では、満室家賃の10〜15%を控除した金額が「オーナーへの適正賃料」の目安とされています。
理由は、管理会社が
・空室リスク
・広告費
・入居者対応(クレーム・更新手続き)
・外注費(清掃や工事)
などを一括で負担するためです。
適正賃料を計算する際は「純粋な家賃部分のみ」を基礎にします。
その理由は次のとおりです。
- 共益費は実費回収であり収益ではない
- 礼金・更新料は臨時的で、毎月の収益を示さない
- 母数に含めると、賃料設定が不当に高くなり税務上も不自然
税務上も「家賃部分のみで算定する」のが原則とされています。
以下は、不動産管理会社が建物を所有せず、管理専門会社として運営する一般的なケースを想定した数値例です。
【前提条件】
・満室家賃:100万円
・空室率:10%(実効家賃90万円)
・役員報酬:月30万円
・外注費・広告費:15万円
・雑費:5万円
・法人税率:約23.2%
管理会社の利益は次の式で表せます。
利益 =(実効家賃90万円)−(オーナーへの賃料X万円)−(経費50万円)
利益を最低5万円確保すると仮定すると、
90万 − X − 50万 = 5万
→ X=35万円。
実際には、オーナーに35万円しか支払わない契約は非現実的です。
そのため実務では、満室家賃100万円に対して85〜90万円の範囲が妥当とされます。
【適正賃料の計算例】
・100万円 × 90% = 90万円
・100万円 × 85% = 85万円
→ 適正賃料は85〜90万円
管理会社はこの範囲であれば、空室リスクを負いつつ利益を確保できる仕組みです。
家賃規模が小さいと一括転貸方式が成立しにくい理由
ここで重要なポイントがあります。
一括転貸方式は「一定以上の家賃規模」がないと事業として成立しにくい方法です。
以下は家賃が30万円しかないケースです。
【家賃30万円の場合のシミュレーション】
・実効家賃(空室率10%):27万円
・控除10〜15%:3〜4.5万円
・管理会社の粗利益:1.5〜2万円
この利益から、
・役員報酬
・外注費
・雑費
などを賄うことは不可能です。
✔ サブリースは家賃規模が大きい一棟マンションなどに向いている
✔ 小規模物件(家賃総額30〜40万円程度)は事業として成立しにくい
✔ 規模が小さい場合は管理委託方式の方が適している
一括転貸方式は「安定収入」のメリットがある一方で、家賃規模に左右される点も理解しておくことが大切です。
なぜ「1室ずつの転貸」が一般的でないのか
一括転貸方式は採用されますが、部分的な「1室ごとのサブリース」はほとんど見られません。その理由は次のとおりです。
① 権利関係が複雑になる
部屋ごとに三者契約が必要になり、契約管理が破綻しやすい。
② リスク分散ができない
一括転貸方式は「一棟全体で空室リスクを吸収する仕組み」。
部分転貸では管理会社が赤字になりやすく事業にならない。
③ 管理権限の線引きが困難
共用部・修繕・トラブル対応で責任分担が曖昧になる。
④ 法務リスクが増える
借地借家法上の転貸規制が複雑になり、紛争リスクが高まる。
これらの理由から、部分サブリースは実務で行われません。
一括転貸方式の適正賃料を決めるポイント
・母数は家賃部分のみ(共益費・礼金を含めない)
・空室率の現実的な見込みを反映する
・管理会社の経費構造(役員報酬・外注費)を考慮
・満室家賃の10〜15%を控除して算定
・費用負担区分(修繕費など)を契約書に明記する
これらを踏まえて賃料を決めることで、オーナー・管理会社双方にとって公平で、税務リスクの低い契約にできます。
当事務所では、不動産管理会社の設立からサブリース契約書の作成、適正賃料の算定、税務判断まで、税理士・司法書士の立場からワンストップでサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
