Last Updated on 2025年11月8日 by 渋田貴正
合同会社(LLC)は、株式会社と同様に出資者の責任が「出資額の範囲内」に限定される有限責任の会社です。しかし、株式のような「取引相場」が存在しないため、相続や贈与、または退社時に評価を行う場合には、税法上の評価通達に基づいて価額を算定する必要があります。
そもそも持分会社とは?合同会社・合名会社・合資会社の違い
日本の会社法では、会社形態は「株式会社」と「持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)」に大別されます。
| 会社形態 | 責任の範囲 | 経営への関与 | 主な特徴 |
| 株式会社 | 出資額の範囲(有限責任) | 原則なし(株主と経営者は分離) | ガバナンス重視・外部出資容易 |
| 合名会社 | 無限責任 | 全員が経営に関与 | 小規模・信頼関係重視 |
| 合資会社 | 無限責任社員+有限責任社員 | 無限責任社員が経営 | 歴史的な形態、近年は減少傾向 |
| 合同会社 | 有限責任 | 全社員が出資兼経営者 | 内部統制が柔軟、LLC型 |
特に合同会社は、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルに導入された仕組みで、税務・登記の両面で簡素化されています。
合同会社の社員死亡時の持分評価の基本
社陳の地位を承継する場合、合同会社の「持分」には市場での売買価格がないため、「取引相場のない株式の評価方法」を準用して評価します。
これは株式会社の非上場株式と同様の考え方で、主に以下の2つの方式で計算されます。
| 区分 | 評価方法 | 適用例 |
| 原則的評価方式 | 会社の純資産・利益・配当を総合的に考慮 | 同族会社に多いケース |
| 特例的評価方式 | 主に純資産価額を基準 | 同族関係が薄い場合など |
評価にあたっては、同族株主等の判定を行い、どちらの方式を採用するかを判断します。合同会社の場合、多くが家族経営や少人数構成で同族会社に該当しますが、実際の評価では「収益や配当の比較対象がない」「利益配分が任意で変動しやすい」といった特徴があるため、実務上は純資産価額を基準とする特例的評価方式で算定するケースが多いのが実情です。
つまり、形式的には同族会社であっても、合理的な評価の観点から特例的評価方式が選択される傾向にあります。
数値例を挙げると以下のようになります。
一方で、社員の地位ではなく持分の払戻権を相続する場合は、相続や贈与により合同会社の持分を取得した場合には、その持分自体を評価対象とします。つまり、相続人が経営者として合同会社に残らない場合です。この場合の評価対象は、出資持分そのものではなく、「債権としての払戻請求権」です。
評価の基準は以下のとおりです。
各資産の評価額の合計 − 各負債の評価額の合計(=純資産価額) × 出資割合
この算定方法は会社法第611条第2項に基づき、「退社の時における会社財産の状況に従って清算を行う」と定められています。
重要なポイントは、合同会社の定款に「社員が死亡した場合、相続人が持分を承継する」と定めがあるかどうかが重要です。会社法では、社員の死亡は「法定退社事由」とされていますが、定款に別段の定め(いわゆる「相続人承継条項」)があれば、その相続人が持分を引き継ぎ、引き続き社員となることができます。
社員の地位を承継する場合と退社扱いの場合の違い
相続時の評価は、定款に「相続人が社員の地位を承継できる」と定めているかによって大きく変わります。
以下の表に、両者の違いを整理します。
| 項目 | 社員の地位を承継する場合(別段の定めあり) | 退社扱いとなる場合(定めなし) |
| 法的地位 | 相続人が新たな社員として地位を承継 | 被相続人は死亡により退社 |
| 評価対象 | 出資持分(出資そのもの) | 持分払戻請求権(債権) |
| 評価方法 | 取引相場のない株式の評価方法に準ずる | 純資産価額方式(資産-負債) |
| 根拠条文 | 会社法第607条・定款の別段の定め | 会社法第611条第2項 |
| 税務上の取扱い | 相続税・贈与税の対象(財産評価) | 相続税の対象(債権評価) |
| 実務上の留意点 | 定款の規定内容に注意が必要 | 払戻金額によっては配当課税あり |
より理解しやすいように、仮の事例で計算してみましょう。
① 相続により社員の地位を承継する場合
- 合同会社の純資産額:3,000万円
- 評価通達に基づく利益要素・配当要素などを加味した総合評価率:1.2倍
- 被相続人の出資割合:40%
→ 持分評価額
3,000万円 × 1.2 × 40% = 1,440万円
この場合、評価対象は「出資持分そのもの」であり、相続税の対象資産として財産評価されます。
② 死亡により退社となる場合(別段の定めなし)
- 合同会社の資産総額:4,000万円
- 負債総額:1,000万円
- 純資産額:3,000万円
- 出資割合:40%
→ 払戻請求権の評価額
3,000万円 × 40% = 1,200万円
実際に会社から1,500万円が払い戻された場合、差額の300万円は配当所得として課税対象となり、準確定申告で所得税が課されます。
まとめると以下のようになります。
| 区分 | 定款の定め | 法的取扱い | 評価対象 | 評価方式 | 計算例 | 税務上のポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ① 社員の地位を承継(原則的評価方式) | あり | 相続人が社員の地位を引継ぐ | 出資持分 | 類似業種比準価額方式 | 3,000万円 × 1.2 × 40% = 1,440万円 | 収益性・配当要素を加味。業績良好なら評価高め |
| ② 社員の地位を承継(特例的評価方式) | 純資産価額方式 | 3,000万円 × 40% = 1,200万円 | 少人数経営・配当なしの合同会社ではこちらが多い | |||
| ③ 退社扱い(法定退社) | なし | 死亡により退社扱い | 持分払戻請求権(債権) | 純資産価額方式 | (資産4,000−負債1,000)×40%=1,200万円 | 払戻額が出資額超過なら超過分は配当所得課税 |
有限会社(特例有限会社)の出資はどう評価される?
会社法施行により旧有限会社法は廃止され、既存の有限会社は「株式会社」として存続することになりました。したがって、旧有限会社の出資を評価する場合には、株式として評価するのが原則です。
持分評価の実務上のポイント
| 評価対象 | 評価方法 |
| 持分を承継する場合 | 取引相場のない株式に準ずる評価 |
| 退社により払戻請求権を取得した場合 | 純資産価額方式による債権評価 |
| 旧有限会社の出資 | 株式として評価 |
合同会社の持分評価は、「社員の地位を承継するか」「退社扱いとなるか」で評価額が数百万円単位で変わることもあります。
相続税や贈与税の計算に直結するため、税務と登記の両方を理解している専門家に相談することが重要です。
当事務所では、税理士・司法書士の双方の視点から、合同会社の持分評価・定款の見直し・相続登記まで一貫してサポートしています。相続や持分承継でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
