Last Updated on 2025年12月16日 by 渋田貴正

合同会社を株式会社に組織変更する際、多くの方が悩むのが「株式の割当比率をどう決めるのか」という点です。合同会社では「持分」という概念で社員の権利関係を表しますが、株式会社では「株式」という形に置き換わります。このとき、誰に何株を割り当てるのかは、実は会社法上はかなり自由度があります。

会社法上、合同会社から株式会社への組織変更には総社員の同意が必要です。そのため、必ずしも出資額や当初の持分比率に厳密に対応させなければならないわけではありません。実務上も、「社員Aに○株、社員Bに△株」というように、合意ベースで割当比率を決めること自体は可能です。極端な話、社員Aには0株、Bに100株ということも可能です。

ただし、ここで見落としがちなのが税務です。登記自体はどのような割合、どのような発行済み株式数であっても問題ありません。ただし、税務上は割り当てる株式次第では思わぬ課税を生むことがあります。組織変更は、手続きよりも設計が9割と言っても過言ではありません。

合同会社から株式会社に組織変更する際の株式比率

当初の出資比率どおりに株式を割り当てるケース

一見すると分かりやすく見えるのが、「設立時の出資比率どおりに株式を割り当てる」ケースです。しかし、この方法が常に税務的に安全とは限らない点には注意が必要です。

たとえば、合同会社設立時に、社員Aが1万円、社員Bが10万円を出資していた場合、出資比率は1:10となります。
この状態だけを見れば、株式会社への組織変更時においても、Aに1株、Bに10株を割り当てる設計は、一見すると自然に思えます。

ところが、合同会社は株式会社と異なり、利益配分を柔軟に設計できるため、時間の経過とともに「持分の価値」が大きく変わることがあります。合同会社では定款の定め次第で利益配分も自由に決められます。そして、数期にわたる利益配分の結果、組織変更時点では、社員Aの持分価値が100万円、社員Bの持分価値が50万円となっていたとします。

この場合、設立時の出資比率は1:10であっても、組織変更時点における実際の経済的価値は100:50、すなわち2:1です。
にもかかわらず、設立時の出資比率どおりに株式を割り当てると、組織変更の瞬間に、経済的価値の不均衡が生じることになります。

税務が問題にするのは、「何株もらったか」ではなく、「いくら分の価値を失い、いくら分の価値を得たのか」という点です。
このケースでは、Aは100万円相当の持分を差し出しているのに対し、取得する株式は1株分の価値にとどまり、その差分の価値がB側へ移転しているように見えます。

形式上は組織変更であっても、実質的には社員間で価値の移転が起きている以上、BからAにその差額の支払い、または金銭のやり取りが発生しなければその部分についてはAからBへの贈与として課税対象になり得ます。

「当初の出資比率どおりだから安全」とは言い切れない点に注意が必要です。

組織変更時点の持分価値に合わせて株式を割り当てるケース

このような事態を避けるため、実務上もっとも説明がしやすいのが、「組織変更時点の持分価値」に合わせて株式を割り当てる方法です。

先ほどの例でいえば、組織変更時点での持分価値は、Aが100万円、Bが50万円ですから、株式もこの比率、すなわち2:1で割り当てます。

この設計であれば、合同会社の持分という器が、株式会社の株式という器に置き換わっただけで、社員それぞれが保有する経済的価値そのものは変わっていません。税務の視点から見ても、「誰かが得をした」「誰かが損をした」という状況がなく、課税関係が生じない構造になります。

合同会社では、出資額と持分価値が必ずしも一致しません。利益配分や内部留保の積み重ねによって、出資額とは無関係に持分の価値が増減します。

そのため、組織変更の場面でも、「最初はいくら出したか」ではなく、「組織変更の時点で、いくらの価値を持っていたのか」が問われることになります。

持分比率とは異なる比率で株式を割り当てるケース

ここからが、実務上もっとも注意が必要なゾーンです。たとえば、合同会社時代は50:50だったにもかかわらず、株式会社では80:20で株式を割り当てるようなケースです。

法律上は、総社員の同意があればこのように割合を変えて株式を割り当てることは可能です。しかし、税務上は「なぜその差が生じたのか」が厳しく見られます。特に重要なのが、差分に相当する経済的価値について、実際に金銭のやり取りがあるかどうかです。

差分について金銭のやり取りがある場合

たとえば、本来50%相当の株式を持つはずの社員Bが、20%しか取得しない代わりに、社員Aから金銭を受け取るような場合です。
この場合、税務上は「株式の一部譲渡」があったものとして整理されるのが一般的です。

譲渡した側には譲渡所得課税、取得した側は取得価額としてその金額を引き継ぐことになります。
きちんと時価評価を行い、実際の資金移動が伴っていれば、税務上も比較的説明がしやすい設計です。

この場合、金銭を受け取った社員Bについては譲渡所得が発生する可能性があります。

差分について金銭のやり取りがない場合

差分について何の対価も支払わずに株式の割当比率を変えてしまうと、税務上は「贈与」または「給与・役員賞与」と評価される可能性が出てきます。

個人間であれば贈与税、法人と個人の関係性によっては所得税や法人税の問題にも発展します。「合意しているから大丈夫」「内部の話だから問題ない」というのは、個人間のもめごとを避ける意味では有効ですが、税務は別問題です。

割当方法 前提となる考え方 税務上の扱い 課税される可能性がある人 課税される税目 注意点
組織変更時点の持分価値どおりに割当 組織変更時点の持分価値と株式価値が一致 原則として課税なし なし 経済的価値の移転がなく、最も説明しやすい設計
当初の出資比率どおりに割当 設立時の出資割合を基準に割当 持分価値と乖離がある場合は課税リスクあり 価値を失った側/価値を得た側 贈与税(個人間)
所得税(給与・一時所得認定の可能性)
出資比率ではなく、組織変更時点の「持分価値」で評価される
別の比率で割当(対価あり) 価値差について金銭等で精算 株式譲渡として課税 株式(価値)を譲渡した側 所得税(譲渡所得)
法人税(法人が関与する場合)
時価評価と実際の資金移動が不可欠
別の比率で割当(対価なし) 価値差を無償で放置 贈与・給与認定のリスクが高い 価値を取得した側 贈与税
所得税(役員給与・賞与認定)
「合意している」は税務上の免罪符にならない

組織変更というと、どうしても登記手続きに目が向きがちです。しかし、割当比率の設計を誤ると、税務上のリスクは知らない間に生じる可能性があります。

当事務所では、税理士・司法書士の両面から合同会社から株式会社への組織変更について、税務と登記を一体で検討し、将来のリスクまで見据えた設計をご提案しています。「とりあえず組織変更したい」ではなく、「安心して次のステージに進みたい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。