Last Updated on 2025年9月21日 by 渋田貴正
これから会社を設立して外国のクライアントと仕事をする予定の方にとって、消費税や源泉徴収といった税務の取扱いは非常に重要です。
国内取引であれば消費税がかかりますが、外国会社から業務を受託した場合は「課税対象外」となるケースがあります。
さらに、外国法人に支払う報酬については日本側で源泉徴収が必要になることもあるため、注意が必要です。
消費税の課税対象外となる基準と具体例
消費税は「国内取引」に課税されます。そのため、外国会社からの依頼であっても、サービスの成果が国内で消費されるか国外で消費されるかによって扱いが変わります。
業務内容の例 | サービスの利用場所・契約相手 | 消費税の取扱い | 説明 |
外国法人向けウェブ記事の監修 | 契約相手:アイルランド本社 記事掲載先:外国運営サイト(日本語サイト含む) |
課税対象外 | 契約主体が外国法人であり、サービスを受けるのは国外事業活動。日本語サイトで日本人が読んでいても「消費者」は国外法人と判断される。 |
海外支社向けコンサルティング | 契約相手:米国法人ニューヨーク支社 | 課税対象外 | サービスの成果が海外支社で利用されるため、国外消費。 |
外国企業向け海外市場調査レポート | 契約相手:フランス法人 調査対象:ヨーロッパ市場 |
課税対象外 | 成果物が海外市場で利用されるため国内消費には当たらない。 |
外国子会社向けシステム開発 | 契約相手:シンガポール子会社 利用:海外で稼働 |
課税対象外 | 開発成果が海外で使われるため国外取引。 |
外国法人から依頼された日本国内向け広告制作 | 契約相手:米国法人 配布先:東京の展示会で利用 |
課税対象 | 成果物の利用が日本国内で行われるため国内消費。 |
外国企業駐在員事務所向け業務マニュアル作成 | 契約相手:東京駐在事務所 | 課税対象 | サービスの成果が国内拠点で利用されるため国内取引に該当。 |
外国法人保有の日本不動産管理業務 | 契約相手:米国法人 対象:東京都内の不動産 |
課税対象 | 不動産関連サービスは所在地基準。日本の不動産なので課税対象。 |
外国法人向け海外イベント出展支援 | 契約相手:韓国法人 対象イベント:ソウル開催 |
課税対象外 | 業務の成果が海外イベントで利用されるため国外消費。 |
外国法人の日本支店向け人材研修 | 契約相手:東京支店 | 課税対象 | 日本支店は国内拠点。国内消費と判断される。 |
外国の会社との取引で消費税がかかるかどうかは、次の2つが大きな判断基準になります。
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契約の相手方が外国にあるかどうか
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成果物やサービスが国内で使われるか、国外で使われるか
この2点を押さえることで、消費税の取扱いはぐっと分かりやすくなります。
よくある誤解として「ドルやユーロ建てで請求すれば消費税はかからないのでは?」というものがあります。
実際には、請求通貨はまったく関係ありません。円であってもドルであっても、消費税がかかるかどうかは「業務内容と利用場所」で決まります。
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外国法人の海外業務に使われるサービス → 消費税の課税対象外
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外国法人の日本国内業務に使われるサービス → 消費税の課税対象
というルールは変わりません。
電気通信利用役務の提供の扱いに注意
近年特に注意すべきなのが、インターネットを通じて提供されるサービスです。
これを「電気通信利用役務の提供」といい、たとえば次のようなものが含まれます。
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クラウドサービスの利用
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オンラインでのデザインや翻訳の納品
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ソフトウェアや電子書籍のダウンロード
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広告配信サービス
これらは「利用者がどこにいるか」で課税関係が決まります。
つまり、日本にいる人や会社が使う場合は消費税が課税され、海外にいる人が使う場合は課税対象外です。
たとえば、あなたの会社がアメリカ法人から依頼を受けて、アメリカ市場向けのオンライン広告を運用するなら課税対象外です。
一方で、日本法人や日本支店から依頼され、日本国内向けに広告を配信するなら消費税の対象になります。
外国法人への支払い時の源泉徴収
消費税がかからないからといって安心はできません。
外国法人に報酬や料金を支払う場合、日本側で源泉徴収が必要になるケースがあります。これを国内源泉所得と言います。
源泉徴収が必要なケース
- 外国法人が日本国内で業務を行ったと認められる場合
- 日本国内で発生した所得とみなされる報酬(例えば講演料、弁護士・会計士報酬、著作権使用料など)
これらの場合、日本の会社は報酬から所定の税率(通常20.42%)を差し引き、税務署に納付しなければなりません。
二重課税防止条約の適用
ただし、日本と相手国との間に**租税条約(タックス・トリーティー)**がある場合には、源泉徴収が免除または軽減されることがあります。
その際は、外国法人から「租税条約に基づく届出書」を受け取り、税務署に提出する必要があります。
実務での注意点
- 契約時点で「支払時に源泉徴収が必要か」を確認する
- 条約の適用がある場合は、書類のやり取りを早めに準備する
- 消費税と源泉徴収は別の概念であることを理解しておく
つまり、請求書に消費税がかからなくても、源泉徴収は必要になる場合があるという点が、外国法人取引の大きな注意点です。
消費税申告への影響
課税対象外の取引であっても、消費税の申告書では「課税対象外」として区分して記載する必要があります。
特に輸出取引や国外サービス提供が多い会社は、課税売上割合の計算に影響が出ます。設立直後から正しく経理処理を行うことが、後々の税務調査リスクを避けるために有効です。
外国クライアントとの取引は、消費税だけでなく源泉徴収や条約の適用など、国内取引にはない論点が多数存在します。
会社設立の段階から正しく準備しておくことで、請求書や税務申告でのトラブルを防ぐことができます。
当事務所では、会社設立から外国法人との契約、消費税・源泉徴収の実務までワンストップでサポートしています。外国クライアントとの取引を見据えて会社を設立される方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。