Last Updated on 2025年8月24日 by 渋田貴正
近年、日本から海外に移住してビジネスを行う方が増えています。そのような方の中には、海外で法人を設立しつつも、日本に残した法人を活用して、日本の顧客からの代金を回収する仕組みを作りたいと考えるケースも多く見られます。海外本社が直接日本の顧客から入金を受けることも可能ですが、実務や税務の観点からは日本法人を介して売上回収を行った方がメリットが大きいのです。
ここでは、海外法人の売上回収代行会社を日本で運営するために必要な登記・税務の仕組み、さらに銀行口座での回収から海外送金までの注意点について整理していきます。
売上回収代行会社を活用するメリット
日本での売上系週代行会社を活用するメリットとしては以下の点が挙げられます。
日本顧客からの信頼性や利便性の確保
日本の顧客は、支払い先が国内法人である方が安心しやすい傾向があります。国内口座への振込であれば、取引のスムーズさや信頼性が向上します。
為替リスクの軽減
顧客から日本円で入金を受け取ることで、海外法人が直接回収する場合に比べて為替変動リスクを軽減できます。
日本法人の設立・運営に関する登記の基本
海外移住者であっても、日本に法人を設立・維持することは可能です。会社法に基づき、登記を行えば日本国内で法人格を持つ会社を維持できます。
運営上の留意点
- 会社形態の選択:低コストで柔軟な合同会社か、信用力の高い株式会社かを選択。
- 役員・社員構成:代表者は国内居住者でなくても可能ですが、新たに海外在住者が日本で法人を設立する場合には、銀行口座開設などで国内に居住する役員を置く方が円滑です。
- 定款の目的:売上回収代行業務を行う場合は「集金代行業務」「債権管理業務」などの文言を明記しておくとよいでしょう。
売上回収代行会社の税務上の取扱い
売上回収代行会社が日本で行う業務は、原則として法人税の課税対象です。
- 法人税:日本法人の利益は法人税として課税されます。海外本社へ手数料を送金する場合は、費用計上の適切な仕組みが必要です。
- 消費税:国内の役務提供に該当するため、消費税法(消費税法第4条)に基づき消費税が課税されます。
- 移転価格税制:海外本社と日本法人の取引価格が適正でないと判断されると、課税調整を受けることがあります。
日本法人が売上回収代行会社として機能する場合、顧客からの入金を一度受け取り、その後海外本社へ送金する流れになります。このとき、日本法人が「回収代行手数料」として回収額の数%や一定の固定額を差し引くことが一般的です。
では、このフィーを税務上どの程度まで認めてもらえるのでしょうか。
独立企業間価格の原則
海外本社と日本法人の間の取引は、移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)の対象となります。そのため、第三者同士でも成立するであろう「独立企業間価格(アームズ・レングス・ルール)」に基づいて設定する必要があります。フィーが過大でも過少でも、課税当局から是正を受けるリスクがあります。
相場感と実務上の目安
実務では「回収代行業務」について明確な法定料率は存在しません。しかし、同種の業務を行う決済代行会社などの水準を参考にすると、売上の1〜5%程度が比較的妥当と考えられます。
固定額方式を採用する場合は、実際にかかる人件費や経費に合理的な利益を上乗せする方法が望ましいです。
過大・過少設定のリスク
-
過大に設定すると、日本法人の利益が過度に大きくなり、日本で法人税の負担が増えます。
-
過少に設定すると、日本法人に利益がほとんど残らず、「適正な対価を受け取っていない」と判断され、移転価格税制に基づき課税調整される可能性があります。
日本の口座で回収し、海外へ一斉送金する際の注意点
海外移住者が日本法人を通じて売上を回収した場合、多くは一定期間ごとにまとめて海外本社へ送金します。しかし、このときに注意すべき大きなポイントがあります。
マネーロンダリング規制
銀行は、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づき、海外送金について厳格なモニタリングを行います。特に「一斉に多額の資金を海外送金する」場合は、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いを持たれる可能性があります。
実務では以下のような対応をしておくことが重要です。
- 契約書を整備し、「日本法人は売上回収を代行し、一定の手数料を控除して残額を海外本社に送金する」という仕組みを明記する。
- 入金と送金のスケジュールを定期的に設定し、突発的な高額送金を避ける。
- 銀行からの確認に備えて、請求書や契約書などの裏付け資料を保存する。
ケーススタディ:日本の口座で売上回収→海外送金
シンガポールに移住したAさんは、日本に残した合同会社を通じて日本顧客からの売上を回収しています。毎月、日本顧客からの入金が合同会社の口座に入り、四半期ごとにシンガポール本社に送金しています。
この場合、
- 日本法人の回収代行フィーは法人税の課税対象。
- シンガポールへのへの送金は、契約に基づく「業務委託費」として処理。
- 銀行から照会があった場合には契約書・請求書を提示して、マネーロンダリング疑いを回避。
といった流れになります。
合同会社と株式会社の比較
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
設立コスト | 高い(公証人認証が必要) | 低い(認証不要) |
信用力 | 高い | 中程度 |
運営の柔軟性 | 制度が整備され自由度高い | 少人数経営に向く |
税務処理 | 共通 | 共通 |
海外に移住している方が日本に残した法人を売上回収代行会社として運営する場合、登記や契約の整備、銀行送金の注意点、さらには国際税務まで幅広い知識が必要です。適切に準備しないと、税務調査や銀行からの取引停止といったリスクにつながります。
当事務所では、司法書士・税理士として登記と税務の両面から安心できるサポートをご提供しています。海外居住者の方の特殊な事情にも対応していますので、どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。