Last Updated on 2025年7月3日 by 渋田貴正
合同会社では、社員が退社する際に、保有する「出資持分」を会社が金銭で払い戻すことができます。
このとき、会社の財務状況や社員間の合意などにより、時価よりも安い金額で払い戻されるケースがあります。
一見すると「損するのは退社する本人だけ」と思われがちですが、実は合同会社自体にも税務上・登記上・会計上に思わぬ問題を引き起こすおそれがあり、十分な注意が必要です。
合同会社の持分払戻しとは?
合同会社の社員が退社する際、定款の定めや社員間の合意に基づいて、その出資を払い戻すことができます。この払戻額は、通常「退社時点での持分の時価」を基準とします。
(退社に伴う持分の払戻し)
|
上記のように、「退社の時における持分会社の財産の状況」つまり「時価」によって持分の払戻し額を計算するということです。これは単に貸借対照表上の純資産に従うのではなく、時価評価が必要な資産があれば、時価換算が必要ということになります。
しかし、以下のような理由から出資額や時価より少ない金額で払い戻されるケースも少なくありません。
- 赤字経営で現預金が少ない
- 出資額以上の損失がある
- そもそも合同会社設立時の出資額で払い戻してよいと話がついている
持分払戻しによる税務上のリスク:法人税の「受贈益」課税に注意
出資の払戻額が持分の時価よりも明らかに低い場合、その差額は会社が得をしている=経済的利益を受けたとみなされ、本来であれば法人税上の課税対象になります。
◉ 贈与税はかからない
このようなケースでは、誤って「贈与税がかかるのでは?」と心配される方もいますが、贈与税は「個人から個人への贈与」にしか課税されません。会社が受け取る場合(法人が受贈者)には、贈与税はかからず、法人税の課税対象(受贈益)となります。
◉払戻額が時価を大きく下回るケース
項目 | 金額 |
持分の時価 | 100万円 |
実際の払戻額 | 20万円 |
差額(会社の利益) | 80万円 |
税務上の取扱い | 80万円が会社の「受贈益」 |
形式的には、上記のように会社が出資持分を時価より安く払い戻した場合、差額は「会社が受けた経済的利益」とみなされ、法人税の課税対象となる「受贈益」に該当する可能性があります。
しかし、実務上はこの差額を益金として計上している合同会社はほとんどありません。
この背景には、以下のような理由があります。
-
持分の払戻し額は、会社法上の清算的な払戻し手続きにすぎず、本来的に会社が得をしているわけではないという性質があるため
-
実際には会社が一方的に経済的利益を得たという実感は乏しく、実体的な贈与とは言えない
-
中小企業における持分評価は不明確で、「時価」の算定自体が難しい・不確実である
-
退社社員が会社に損失を残して去る場合など、会社が「得をした」と評価するのはむしろ不自然である
したがって、形式上は「受贈益」に該当する可能性があるものの、会社法上の制度趣旨や実体経済上の合理性を踏まえると、課税対象とすべき性質ではないと考えられているのが実務の通念です。
また、税務調査においてもこの種の「持分払戻し差額」を益金不算入とする処理が黙認されるケースが多く、重要な問題とされることは稀です。
会計処理の分類:持分の払戻し額が出資額より少ない場合の2つのパターン
会計上は、「なぜ出資額より払戻額が少なくなるのか?」に応じて、以下の2パターンに分類されます。
出資額の範囲内で損失が生じている場合
【例】退社する社員Aの出資額200万円に対し、会社の状況により払戻額が150万円となったケース。
この場合、50万円の損失はAの持分内で生じているため、A自身が負担することになります。他の社員(B・C)は影響を受けません。
出資額 | 払戻額 | 損失 | 他社員の負担 | |
退社するA | 200万 | 150万 | 50万 | なし |
これは「株価が下がって株式を安く売却した」のと同じ構造であり、Aの自己責任となります。
損失が出資額を超えている場合
【例】Aの出資額200万円に対して損失が250万円あるため、払戻額が0円になるケース。
この場合、出資額を上回る損失50万円については、合同会社の性質上、Aに追加出資義務はありません(有限責任)。そのため、他の社員(B・C)が出資割合に応じて負担することになります。
社員名 | 出資額 | 負担額 | コメント |
A | 200万 | 200万 | 自己負担(持分内) |
B・C | 各100万 | 各25万 | 損失50万の按分負担 |
登記手続きの注意点:資本金の減少登記が必要になることも
退社に伴う出資払戻しは、「出資者=社員」が減るというだけでなく、資本金そのものが減る可能性もあるため、資本金の額の減少登記が必要になります。
ただし、現実には以下のような実務がとられることが多いです。
- 複雑な登記や債権者保護手続きを避けるため、退社ではなく持分譲渡(無償含む)で処理
- 共有持分放棄(民法第255条)に近い形で、他の社員に無償譲渡する
実際、令和元年の法務省登記統計によれば、合同会社の資本金の減少登記は全国で年間62件しかなく、多くはこうした代替的なスキームで処理されていると考えられます。
対応内容 | ポイント |
持分の時価評価 | 純資産方式などで客観的に算出し記録を残す |
契約書の整備 | 払戻金額とその根拠、時価との関係を明記 |
税務対応 | 会社に受贈益がある場合は法人税申告で対応 |
会計処理 | 出資額以下 or 超過損失のいずれかで分類し対応 |
登記対応 | 退社か持分譲渡かで必要な登記が異なるため確認 |
当事務所では、合同会社の社員退社・出資払戻しに関する登記・会計・税務のすべてにワンストップで対応しております。ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。