Last Updated on 2025年6月25日 by 渋田貴正

不動産の相続や資産管理会社の設立にあたり、土地と建物の所有者を分けるケースや結果的に分かれるケースは多く見られます。

例えば、

・相続で土地を取得した個人オーナーがその土地に法人名義でアパートを建設する場合
・相続したアパートの建物のみを資産管理会社へ移転する場合
などが考えられます。

こうした場合、法人と個人の間で土地の使用に関する税務上の取り扱いに注意が必要です。特に、借地権の設定があったとみなされると、贈与税や法人税などの課税リスクが発生します。

土地と建物の所有関係:8パターンの比較

土地と建物の所有関係は、税務・登記・法務の実務において非常に重要な論点です。特に不動産を活用した相続対策や法人化スキームを検討する際には、この所有構成によって、課税対象者や納税額、必要書類、契約書の内容までが変わってきます。たとえば、土地は親が所有していて建物だけを子の法人名義にした場合など、身内間であっても税務上は独立した取引と見なされることがあります。

また、地代の有無によって、借地権が設定されたとみなされるかどうかが左右され、課税の有無も大きく変わってきます。以下の表は、土地と建物の所有者が個人・法人のいずれかである8つの典型的パターンについて、それぞれの課税対象と、借地権に関する届出書の必要性を比較したものです。

土地と建物の所有関係は、課税関係や登記・契約実務に大きな影響を及ぼします。特に、所有者が個人か法人か、また地代を支払っているかどうかによって、発生する税金や提出すべき書類が変わります。以下の表では、8つの典型的な所有関係パターンごとに、課税対象となる主体と必要な届出書の有無を整理しました。

パターン 土地の所有者 建物の所有者 地代の有無 土地所有者への課税 建物所有者への課税
1 個人 個人 あり 所得税(地代) なし
2 個人 個人 なし 贈与税の可能性 なし
3 個人 法人 あり 所得税(地代) 必要に応じて受贈益課税の可能性
4 個人 法人 なし 法人税(受贈益課税) なし
5 法人 個人 あり 法人税(地代) なし
6 法人 個人 なし なし 贈与税借地権贈与とみなされる)
7 法人 法人 あり 法人税(地代) 地代の額により受贈益課税の可能性
8 法人 法人 なし 法人税(受贈益課税) なし

権利金の認定課税とは?

法人や個人が土地を他者(特に法人)に貸し付ける際、地代や権利金を設定しなかった場合に問題となるのが「権利金の認定課税」です。

たとえば、地主が通常受け取るべき権利金を取らずに土地を法人に貸し出した場合、税務上は「借地権の設定を無償で行った」とみなされます。その結果、地主(貸主)に対して受贈益課税が課されることがあります。

権利金の評価は借地権割合などに基づいて行われ、たとえば土地の評価額が1億円で借地権割合が70%なら、7,000万円の経済的利益が発生したとされ、貸主が法人であればその分に法人税が課されることになります。

こうしたことを防ぐためには「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。

土地と建物の所有者が異なる構成は、資産管理や相続対策の一環としてよく使われる手法ですが、そのまま進めてしまうと思わぬ課税トラブルにつながることがあります。「土地の無償返還に関する届出書」を活用することで、多くのリスクを未然に防ぐことが可能です。

当事務所では、税理士・司法書士の双方の資格を活かし、不動産の法人化・資産管理会社設立・相続対策に関する最適なスキームをご提案しております。ご不安な点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。