Last Updated on 2025年6月7日 by 渋田貴正
【基本知識】預貯金は「相続分に応じて当然に分割されない」
かつては、各相続人が自分の法定相続分に応じて、単独で預金を引き出すことができるとされていました(分割債権説)。しかし現在では、日本国内の銀行預金は、原則として「遺産分割の対象」となるため、相続人全員の同意がなければ解約・払い戻しができません(最決平成28年12月19日)。
これは日本人同士の相続でも同様ですが、相続人や被相続人に外国籍の人が関わる場合は、さらに慎重な対応が求められます。預貯金は不動産と同様に分割できない遺産として扱われ、遺産分割協議を経なければ原則として払い戻しができません。
この判例変更の根拠は、以下の通りです。
- 預貯金契約は単なる金銭債権ではなく、準共有的な契約上の地位である
- 各相続人が独自に預金を解約できるとすれば、他の相続人の利益を害する可能性がある
相続預金の一部払い戻しの特例制度
判例変更によって不便が増したことへの対応として、2019年の民法改正で、以下のような特例が設けられました。
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
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内容 | 詳細 |
条文 | 民法909条の2 |
払戻可能額 | 各金融機関の預貯金残高の1/3 × 法定相続分(上限150万円) |
条件 | 相続人1人が単独で払い戻し可能、家庭裁判所の関与不要 |
この制度は、被相続人の死亡後すぐに必要となる生活費や葬儀費用などへの対応として実務上非常に有用です。
相続人が外国籍の場合の注意点
外国籍の相続人がいる場合でも、日本国内の預金は動産として扱われ、基本的には日本法に基づいて処理されます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 所在不明のケース
- 相続人の所在が不明で合意形成ができない場合、不在者財産管理人の選任が必要になります(民法25条、家事事件手続法39条、別表1第55項)。
- さらに、遺産分割協議には家庭裁判所の許可が必要です(民法28条)。
- 連絡手段の問題
- 海外在住者との連絡が難しく、書類のやりとりや署名認証に時間がかかることも。
- 現地の在外公館での認証取得、英文書類対応なども必要になることがあります。
被相続人が外国籍の場合の準拠法の問題
被相続人が外国人である場合、その相続には原則として「本国法」が適用されます(法の適用に関する通則法第36条)。
ケース | 適用される準拠法 |
被相続人がブラジル国籍で日本居住 | ブラジル法→住居地法=日本法 |
被相続人がアメリカ国籍でアメリカ在住 | アメリカ法(州法により異なる) |
アメリカでは「管理清算主義」が採用されており、遺産分割の前に遺産を管理・清算する必要があります。
このため、日本国内の金融機関に対しても、遺産管理人制度の適用や限定承認手続などを通じて実質的に調整する必要があります。
ケース | 必要な手続き |
相続人に外国籍者がいるが連絡可能 | 通常の遺産分割協議+翻訳対応等 |
相続人が所在不明 | 不在者財産管理人の選任と協議許可申立て |
相続人が死亡・失踪 | 2次相続の開始。外国法に基づく処理または相続財産管理人の選任 |
被相続人が外国人(例:米国籍) | 外国法が準拠法。日本の制度で類似処理が必要(限定承認や管理人申立て等) |
外国籍相続人がいる場合、日本での相続税の申告が必要になるケースもあります。たとえば、相続財産が日本国内にあり、相続人が非居住者でも課税対象となる場合があります(相続税法1条の3)。
また、預金口座を含む財産の登記がある場合、海外文書の翻訳・公証などが必要になることもあり、専門的な対応が求められます。
- 海外在住や外国籍の家族がいる場合には、遺言の作成を強くおすすめします。
- 預金や不動産の分配方法を明記しておくことで、手続きがスムーズになります。
国際的な相続には専門知識が不可欠です。外国籍の方が関わる相続や預金解約でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。司法書士・税理士が一体となって、最適な手続きをご提案いたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。