Last Updated on 2026年3月8日 by 渋田貴正

海外に住みながら日本の不動産を所有している方は少なくありません。相続で日本の実家を引き継いだ方、日本赴任の後に海外へ移住した方、投資目的で日本の不動産を購入した方などさまざまです。
しかし実務でよく問題になるのが家賃をどうやって回収するのかという点です。日本の不動産会社は、必ずしも国際送金に対応しているわけではありません。日本に口座が残っていればよいのですが、海外在住者は日本の銀行口座を持っていないことも多く、振込先が用意できないというケースもあります。
実際の相談でも物件はあるのに家賃の受取口座がないという状況が発生することがあります。

海外在住オーナーの家賃回収でよくあるケース

まず典型的なケースを見てみます。例えば、アメリカ在住の方が日本のマンションを相続したケースです。マンションは賃貸中ですが、海外在住になったことで家賃の受け取り方法に問題が生じました。
一つは、不動産会社が家賃回収をしているものの「海外送金には対応していない」と言われるケースです。
もう一つは、管理会社を通しておらず借主が直接振り込む契約になっているものの、日本の銀行口座を持っていないため振込先が用意できないケースです。
このように、海外在住オーナーの場合、「物件はあるのに家賃の受取口座がない」という状況が意外と簡単に発生します。実務でも珍しい話ではありません。
このような場合、実務では次のような方法が検討されます。

方法 概要
親族などによる代理回収 日本在住の家族などが家賃を受け取り海外に送金
海外送金サービスの利用 WISEなどを利用して送金してもらう
日本法人の設立 合同会社などを設立して法人で家賃を受け取る

それぞれの方法について詳しく見ていきます。

親族など日本在住者による代理回収

最も多い方法が、日本に住んでいる親族などに家賃を受け取ってもらう方法です。
例えば、日本に住んでいる兄弟や両親の銀行口座を家賃の振込先に指定し、その人が海外のオーナーに送金するという形です。不動産会社としても日本の銀行口座に振り込めるため、手続きが簡単です。
ただし、この方法には注意点があります。
税務上の所得は、実際の不動産オーナーに帰属します。つまり、親族の口座に振り込まれていても、その人の所得にはなりません。家賃収入はオーナー本人の所得です。
また、口座名義と所得の帰属が一致していないため、税務調査などで説明が必要になる場合もあります。管理契約や賃貸契約書などで、所有者が誰かを明確にしておくことが大切です。

WISEなど海外送金サービスを利用する方法

近年増えているのが、海外送金サービスを利用する方法です。
代表的なサービスとしてWISEなどがあります。これは比較的低い手数料で国際送金ができる金融サービスです。
日本の銀行を利用して海外送金をすると、送金手数料や為替手数料が高くなることがあります。一方、WISEなどを利用すると、比較的低コストで海外送金が可能です。
また、通貨を柔軟に管理できる点も特徴です。円で受け取った家賃をそのまま外貨に交換して送金することもできます。
ただし、不動産会社によっては「日本の銀行口座のみ振込可能」としている場合があります。この場合、WISEの日本口座を利用するなど、実務上の工夫が必要になります。

近年は、日本のオンライン銀行でも海外送金に対応するケースが増えています。ただし、銀行によっては事前登録や書類提出が必要で手続きがやや煩雑なことがあります。また、送金手数料や為替手数料が比較的高くなる場合もあります。そのため、実務ではWISEなどの海外送金サービスを併用するケースも多く見られます。

合同会社など日本法人を設立して回収する方法

不動産が複数ある場合や、将来的に日本で不動産投資を拡大する予定がある場合、日本法人を設立する方法もあります。
例えば、日本に合同会社を設立し、その会社名義で家賃を受け取る方法です。合同会社は比較的少ない費用で設立できる会社形態で、不動産管理会社として利用されることも多いです。
法人を利用するメリットとして、日本の銀行口座を開設しやすい点があります。非居住者の個人口座は開設が難しい場合がありますが、法人であれば可能なケースがあります。
ただし、法人を設立すると法人税の申告義務が発生します。また、利益がなくても法人住民税の均等割などの税金が発生します。そのため、家賃収入が小さい場合にはコストが見合わないこともあります。

さらに注意が必要なのが、居住国での税務です。海外在住の方が日本法人を所有する場合、その国の税制によっては法人の利益について現地でも申告が必要になることがあります。例えばアメリカでは、日本の合同会社が「ディスリガーデッドエンティティ(Disregarded Entity)」として扱われるケースがあります。これは、法人として存在していても税務上はオーナー個人の事業として扱う制度です。そのため、日本では法人として法人税の申告を行いながら、アメリカでは個人の所得として申告が必要になる場合があります。

このように、日本では法人課税、居住国では個人課税という形で申告関係が複雑になることがあります。海外在住者が日本法人を利用する場合は、日本の税務だけでなく居住国の税制も踏まえて検討することが重要です。

家賃回収方法のメリット・デメリット比較

ここまで紹介した方法を、メリットとデメリットで整理すると次のようになります。

方法 メリット デメリット
親族などの代理回収 手続きが簡単
日本の銀行口座が利用できる
口座名義と所得が一致しない
税務説明が必要になることがある
WISEなど海外送金 国際送金手数料が比較的安い
海外送金がスムーズ
不動産会社が対応していない場合がある
本人確認手続きが厳格
日本法人設立 銀行口座を作りやすい
事業拡大に対応できる
法人税申告が必要
均等割などの固定コストがある

どの方法が適しているかは、物件数や家賃規模、将来の投資計画によって変わります。

回収方法によって日本の課税関係は変わるのか

個人が日本の不動産を所有している場合、家賃の回収方法によって日本の課税関係が変わることは基本的にありません。
日本の所得税は「所得がどこで発生したか」によって課税されます。日本の不動産から得た家賃は、日本国内源泉所得と呼ばれます。
そのため、
親族の口座で受け取った場合
・海外送金サービスを利用した場合
・海外の銀行口座に送金した場合
いずれの場合でも、日本の不動産から発生した家賃である以上、日本の所得税の課税対象になります。
つまり、振込口座を変えても税金の性質は変わりません。

ただし、法人を設立した場合は話が変わります。法人が家賃収入を得る場合は、個人の所得税ではなく法人税の課税対象になります。この場合は税務構造自体が変わるため、事前の検討が必要です。

海外在住者の不動産管理は、単なる家賃回収の問題ではありません。税務、送金、契約、相続など、複数の法律分野が関係します。
実務では次のような相談がよくあります。
・海外在住で日本の銀行口座が作れない
親族の口座で家賃を受け取っているが税務が不安
・海外送金の方法が分からない
・相続した日本の不動産をどう管理すればよいか分からない
海外在住者の不動産管理は、いわば「国境をまたぐ資産管理」です。国内の賃貸管理とは少し違う視点が必要になります。
当事務所では、海外在住の不動産オーナーの税務申告や不動産管理のご相談を多数お受けしています。家賃回収方法の整理、税務申告、将来の相続対策まで一体でサポートすることが可能です。海外在住で日本の不動産管理にお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。