Last Updated on 2026年1月30日 by 渋田貴正
「開業届は開業から1か月以内に出さなければならない」以前は、そのように説明されることが一般的でした。
しかし、2026年1月1日以降の開業については、開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)の提出時期は、「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」に改正されました。
たとえば、会社員の方が副業でネット販売を始めたとします。最初は趣味の延長でしたが、少しずつ売上が出てきました。半年ほど経ってから、「そろそろ開業届を出した方がいいのでは」と思い、調べ始めます。すると、「1か月以内」「遅れても大丈夫」など、情報がバラバラです。この時点で、多くの方が不安になります。この混乱こそが、提出期限見直しの背景です。
そもそも開業届の役割とは
開業届は、個人が事業を開始したことを税務署に知らせるための届出書です。許可を受ける書類ではありません。開業届を提出していなくても、事業をしていれば税務上は「事業者」として扱われます。課税関係や所得の区分(事業所得なのか雑所得なのか)は、開業届の提出有無で決まるものではありません。
この性質を前提にすると、開業届そのものについて、1か月以内みたいな短い提出期限を設ける合理性はもともと高くありません。
開業届の提出期限が「確定申告期限まで」になった背景・理由
まず大きいのが、開業形態の多様化です。現在は、自宅でのネット販売、動画配信、アプリ開発、Web制作、業務委託での受注など、目に見える店舗や事務所を持たずに事業を始めるケースが主流になりつつあります。このような形態では、最初の売上日を開業日と考えるのか、準備を始めた日を開業日と考えるのか、あるいは事業として本格化した日を開業日と考えるのかについて、本人であっても明確に線引きできないことが少なくありません。
仮に「開業から1か月以内」という従来の考え方を厳格に適用すると、いつが開業日に当たるのか、期限に間に合っているのか、遅れた場合に不利益があるのかといった点について、税務署にも多くの問い合わせが発生することになります。そこで現在は、開業日を厳密に特定すること自体よりも、その年の確定申告までに事業者としての情報を把握できれば足りるという考え方に整理されたものと考えられます。
もう一つの背景として、開業届の性質があります。開業届は、提出したからといって税額が増減する書類ではなく、提出しなかったからといって直ちにペナルティが課される性質のものでもありません。税務上本当に重要なのは、青色申告を選ぶかどうか、どのような帳簿方式で記帳するか、売上や経費を正しく申告しているかといった点であり、課税の根幹に関わるのはあくまで申告内容です。
提出期限を「確定申告期限まで」とすることで、開業届は、事業開始を税務署に知らせるための管理用の届出であるという位置付けが、より明確になりました。実務上も、まず事業を始め、実際に収入が発生し、その後に確定申告のタイミングで開業届を提出するという流れであっても、特段の問題が生じないケースが大半です。
このように、現代の開業実態に合わせた柔軟な運用と、開業届の役割を整理した結果として、提出期限が「確定申告期限まで」という扱いになったと考えられます。
開業届の期限は延びたが、他の届出の期限は変わっていない
ここで重要なのが、開業届の提出期限だけが整理されたのであって、開業に伴う他の届出の期限は従来どおりであるという点です。
代表的なものが、青色申告承認申請書と、給与支払事務所等の開設届出書です。
青色申告を行うためには、青色申告承認申請書を提出する必要があります。この書類は現在も、原則として、事業開始日から2か月以内、またはその年3月15日のいずれか早い日までに提出しなければなりません。
また、従業員や家族に給与を支払う場合には、給与支払事務所等の開設届出書を、開設から1か月以内に提出する必要があります。
つまり、開業届の提出期限だけを見ると「余裕ができた」ように見えますが、実務上は、開業後すぐに判断しなければならない手続きが今も存在します。そのため実際の現場では、青色申告承認申請書や給与支払事務所等の届出とあわせて、開業届も同時に提出するということは従来通りでしょう。
開業届の提出期限3月15日を意識すべき人・そうでない人
3月15日という日付は、すべての人にとって同じ重みを持つわけではありません。
特に強く意識すべきなのは、青色申告を使いたい人です。
青色申告を選択しない、いわゆる白色申告のままでよいと考えている人の場合、開業届の提出時期だけで見れば、確定申告期限までに提出すれば足ります。一方で、青色申告を使う予定がある人は、開業届の期限とは関係なく、青色申告承認申請書の期限に合わせて行動する必要があります。
| 区分 | 白色申告を予定している人 | 青色申告を予定している人 |
|---|---|---|
| 開業届の提出時期 | 確定申告書の提出期限まで出せばよい | 青色申告承認申請書の期限に合わせ、事実上は開業後すぐ提出が必要 |
| 青色申告承認申請書 | 不要 | 原則:開業から2か月以内 または その年の3月15日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書(従業員がいる場合) | 必要 | 必要 |
| 実務上の考え方 | 開業届単独での提出でも大きな支障は出にくい | 青色申告承認申請書など関連届出とセットで提出するのが基本 |
当事務所では、開業届の提出だけでなく、開業時に必要となる届出を整理し、将来の税負担まで見据えた形でサポートしています。開業にあたって不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。税務と登記の両面から、安心してスタートできる体制づくりをお手伝いします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
