Last Updated on 2026年1月8日 by 渋田貴正

「自宅を買うなら、会社で買った方が節税になりますか?」このようなご質問は、会社経営者の方から非常によく寄せられます。実務の感覚としては、多くの場合、自宅は個人で購入するのが基本的な考え方になります。ただし、事業内容や資産状況によっては、会社名義で購入することに一定の意味が出てくるケースもあります。

判断が難しくなりやすいのは、目の前の税負担だけに注目してしまい、将来の相続や売却といった出口まで十分に検討できていない点です。

現在の視点での個人購入と会社購入の違い

個人で自宅を購入する最大のメリットは、生活用資産として税制が整備されている点です。代表的なのが住宅ローン控除です。一定の要件を満たせば、年末の住宅ローン残高に応じて所得税・住民税が減額されます。これは法人には存在しない制度です。また、個人の住宅ローン金利は、法人融資に比べて低く設定されるのが通常です。金融機関にとって、個人の居住用住宅はリスクが低いからです。

一方、会社で自宅を購入する場合、住宅ローン控除は使えません。会社が借りるのは事業用ローンであり、金利は個人の住宅ローンより高くなるのが一般的です。にもかかわらず、「経費になるから得」というイメージだけで選ばれがちです。ここには注意が必要です。

現在の視点における「個人購入」と「会社購入」の違いを整理すると、次のようになります。

項目 個人で購入 会社で購入
住宅ローン控除 適用あり(要件あり) 適用なし
金利水準 低い(住宅ローン) 高め(事業用融資)
減価償却 個人で可能 法人で可能
居住の自由度 高い 役員課税の注意あり
資産の帰属 個人資産 法人資産

この段階で、「住宅ローン控除と金利差だけでも、個人購入が有利になるケースが多い」という点は、ぜひ押さえておいていただきたいところです。

それでも、あえて会社で自宅を購入するという判断をする場合があります。その際に次に考えるべきなのが、「自己資金で買うのか、借入で買うのか」です。

会社が自己資金で自宅を購入する場合、建物部分は減価償却により毎年費用化できます。固定資産税や修繕費も法人経費になります。一見すると、税務上は非常に合理的に見えます。ただし、役員がその不動産に居住する以上、適正な家賃を会社に支払わなければなりません。これを怠ると、家賃相当額が役員報酬として認定され、所得税・住民税・社会保険料の負担が生じるリスクがあります。節税のつもりが、別の課税に変わる典型例です。

一方、借入で会社が購入する場合、利息部分は損金になります。ただし、ここでも金利水準の違いが効いてきます。個人住宅ローンと比べると、法人融資の金利は高く、キャッシュフローに与える影響は決して小さくありません。また、金融機関から見た場合、「役員の自宅」という性格が強い不動産は、事業性の評価が厳しくなる傾向があります。

会社購入における自己資金と借入の比較は次のとおりです。

項目 自己資金 借入
初期負担 大きい 抑えられる
利息負担 なし あり(損金算入)
金利水準 住宅ローンより高い
金融機関対応 不要 審査・条件に注意
役員課税リスク あり あり

購入する物件をどのように使用するのか

自宅を個人で買うか、会社で買うかという議論では、「所有者」に目が行きがちですが、実務でトラブルになりやすいのは社長がどう使うかという点です。
同じ不動産でも、「事務所として使うのか」「住居として使うのか」によって、個人側・法人側それぞれの税務上の扱いは大きく変わります。
ここでは、混同されやすいポイントを一度整理します。

① 社長が事務所として使用する場合の税務上の扱い

個人側の税務上の扱い 法人側の税務上の扱い
個人で購入した場合 社長個人が自宅を所有したまま、事務所部分を会社に貸す形になります。
事務所として使う部分に対応する家賃収入は、不動産所得として課税対象になります。
一方で、固定資産税、減価償却費、修繕費なども、事務所使用割合に応じて必要経費にできます。
会社は、合理的な家賃を支払っていれば、その家賃を全額損金算入できます。
役員社宅や役員報酬の問題は生じにくく、税務上は比較的シンプルな構造です。
法人で購入した場合 社長個人は、会社所有の不動産を使用する立場になります。
事務所使用のみであれば、個人側で課税関係が生じることは通常ありません。
建物は法人資産となり、事務所使用部分は減価償却費・固定資産税・修繕費等を損金にできます。
事業用としての合理性がある限り、税務上は問題になりにくいです。

② 社長が住居として使用する場合の税務上の扱い

個人側の税務上の扱い 法人側の税務上の扱い
個人で購入した場合 自宅としての使用であり、原則として課税関係は生じません。
住宅ローン控除の適用要件を満たせば、所得税・住民税の軽減が可能です。
法人は関与せず、家賃の支払いもありません。
税務上の論点はほぼ発生しません。
法人で購入した場合 社長が無償または著しく低額で住んでいると、経済的利益の供与と判断される可能性があります。
適正家賃との差額が、役員報酬として課税されるリスクがあります。
社長から適正な家賃を受け取っていない場合、役員給与課税の問題が生じます。
家賃を設定しても、その水準が低すぎると否認リスクがあります。

将来の視点での相続時に何が起きるか

次に、将来、特に相続時の影響を見てみます。会社名義の自宅は、相続財産そのものにはなりません。相続の対象となるのは、その不動産ではなく会社の株式です。このため、個人名義の不動産のように相続登記を行う必要がない、という点は実務上の一つの特徴といえます。

ただし、不動産を多く保有する会社は、その分だけ株式の評価額が高くなりやすく、結果として相続税の負担が増えるケースがあります。また、相続人がその自宅に住み続けたい場合でも、不動産はあくまで会社の資産です。賃貸条件をどうするのか、会社を誰が引き継ぐのかといった問題を避けて通ることはできません。相続登記が不要である一方、会社の承継という別の整理が必要になります。

一方、個人名義の自宅であれば、不動産そのものが相続財産となるため相続登記は必要になりますが、小規模宅地等の特例が適用できる可能性があります。一定の要件を満たせば、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。この特例は会社名義の不動産には使えません。この違いは、相続実務では非常に大きな意味を持ちます。

将来の視点で整理すると、次のようになります。

項目 個人名義 会社名義
相続税の対象 不動産そのもの 株式や持分
評価の調整 小規模宅地の特例あり 原則なし
居住継続 比較的容易 会社との関係整理が必要

当事務所では、税理士・司法書士の立場から、現在の税負担だけでなく、将来の相続や承継まで見据えた自宅・不動産の名義設計をご提案しています。自宅を会社で買うべきか迷われている段階こそ、最もご相談いただきたいタイミングです。判断を誤る前に、一度専門家にご相談ください。