Last Updated on 2026年1月2日 by 渋田貴正
相続のご相談を受けていると、「被相続人が株を持っていたような気がするが書類がない」「どこの証券会社を使っていたのか分からない」という声を耳にすることがあります。こうした場面で、実務の裏側で必ず関係してくるのが「株式会社証券保管振替機構」です。一般には「ほふり」と呼ばれていますが、正式名称は証券保管振替機構です。
現在の上場株式や投資信託は、紙の証券が存在せず、すべて電子的に管理されています。その電子管理の中枢を担っているのが証券保管振替機構です。相続の場面では、特に上場株式などは証券会社が不明な場合は、相続人と証券保管振替機構とのやり取りが必要になるケースがあります。
証券保管振替機構の基本的な役割とは
証券保管振替機構の役割を一言でいうと、「上場株式などの権利関係を電子的に一元管理する仕組み」です。かつては株券という紙が存在し、これを物理的に保管していましたが、現在は株券不発行制度が原則となっています。誰がどの株を何株持っているかは、証券会社を通じて、証券保管振替機構のシステム上で管理されています。
ここで注意したいのは、証券保管振替機構は個人と直接やり取りをする機関ではないという点です。相続人が直接名義を書き換えてもらうことはできず、必ず証券会社が窓口となります。証券会社が相続書類を受け取り、その裏側で証券保管振替機構を通じた振替処理が行われます。
相続時に証券保管振替機構が関係する具体的な場面
実務の観点から見ると、相続において証券保管振替機構と相続人(または司法書士などの代理人)が直接やり取りするかどうかは証券会社が分かっているかどうかという点次第です。
まず、被相続人が生前に利用していた証券会社が分かっている場合、相続人はその証券会社に相続手続を申し出るだけで足ります。この場合、証券会社が窓口となって手続を進めるため、相続人が証券保管振替機構を意識する場面はほとんどありません。実務的には「証券会社で完結した」という感覚になることが多いでしょう。
一方で問題になりやすいのが、被相続人がどの証券会社を使っていたのか分からない場合です。さすがに手あたり次第に証券会社に連絡するのは現実的ではありません。このとき、証券保管振替機構が証券会社を横断して管理情報を集約している仕組み自体は重要な意味を持ちます。ただし、相続人が自由にこの情報を検索できるわけではありません。
| 証券口座が分かっている場合 | 証券口座が分からない場合 | |
|---|---|---|
| 相続人の初動対応 | 把握している証券会社に相続手続を申し出る | 被相続人の資料を確認しつつ、調査が必要 |
| 証券保管振替機構の関与 | 相続人は意識する必要はほぼない(証券会社が内部処理) | 情報開示制度(登録済加入者情報の開示請求)を利用する可能性あり |
| 相続手続の流れ | 証券会社ごとの相続手続で完結 | 開示請求で口座管理機関を特定後、各証券会社で個別に手続 |
| 時間・手間 | 比較的スムーズに進む | 調査に時間を要することが多い |
証券保管振替機構には、相続人等のための情報開示制度(登録済加入者情報の開示請求)が用意されています。これは、被相続人がどの証券会社や信託銀行等で証券口座を開設していたのかが分からない場合に、相続人側から申請することで、一定の情報開示を受けられる制度です。この開示請求は、相続人本人のほか、相続人から委任を受けた司法書士などの代理人が行うこともでき、戸籍謄本等により相続関係を証明したうえで、証券保管振替機構に所定の書類を提出します。手続は郵送で行われ、審査を経た後、「登録済加入者情報通知書」という形で結果が通知されます。
通知される内容は、被相続人名義の振替口座が登録されていた口座管理機関(証券会社や信託銀行等)の名称が中心であり、具体的な銘柄名や保有株数、評価額といった詳細な資産内容までは開示されません。あくまで「どの金融機関に口座が存在していたか」を把握するための制度です。
しかし、相続実務においては、この入口情報が分かるかどうかが極めて重要です。証券会社が特定できなければ、証券会社に対して相続手続の申出自体ができず、名義変更も売却も進められません。その意味で、この情報開示制度は、被相続人が利用していた証券会社が不明な相続手続を前に進めるための入口としての役割を果たします。
一方で注意したいのは、この制度があれば被相続人の証券資産がすべて把握できる、というものではない点です。証券保管振替機構は、証券会社を横断した管理基盤ではありますが、相続人が自由に検索できる名寄せ機関ではありません。開示請求は一度で完結するものではなく、通知された各証券会社に対して、改めて個別に相続手続を行う必要があります。
そのため実務では、「証券会社が全く分からない場合の調査手段」としてこの制度を位置づけ、被相続人の郵便物や取引報告書の確認と並行して活用することが現実的です。
ちなみに証券会社を横断して管理情報を集約する証券保管振替機構のような仕組みは、銀行預金には存在しません。預金口座については、金融機関を横断して一括で照会できる公的な制度はなく、相続人が個別に各銀行へ問い合わせる必要があります。この違いを知らないと、「証券でできるなら預金も同じでは」と誤解しがちですが、制度設計そのものが異なります。最近は終活などでこうした情報をまとめてくれている被相続人もいらっしゃいますが、そのような情報がない場合、証券も預金も、結局は被相続人の郵便物や取引資料を手がかりに、一つずつ洗い出していく地道な作業が欠かせません。
証券保管振替機構と日本証券クリアリング機構との関係
証券制度を調べていると、「日本証券クリアリング機構」という名称を目にすることがあります。こちらは、証券取引における売買成立後の清算や決済リスクを処理する機関です。簡単にいうと、証券会社同士の取引を裏側で精算する役割を担っています。
相続の場面では、日本証券クリアリング機構が直接関与することはありません。相続による名義変更や口座移管といった局面では、証券保管振替機構の仕組みが中心になります。名前が似ているため混同されがちですが、役割は明確に異なります。
| 項目 | 証券保管振替機構 | 日本証券クリアリング機構 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 株式などの権利関係を電子的に管理・振替 | 証券取引における売買の清算・決済リスクの処理 |
| 対象となる場面 | 名義管理、相続、移管、口座振替など | 市場取引後の証券会社間の精算 |
| 相続との関係 | 相続時の名義変更や口座特定で関係する | 相続手続には直接関係しない |
| 相続人が直接利用するか | 原則直接利用しないが、情報開示制度あり | 相続人が利用する場面はない |
証券保管振替機構は表に出てこない存在だからこそ、理解が後回しにされがちです。しかし、相続では「知らなかった」がそのまま手続の遅れやトラブルにつながります。税務と登記、金融実務を横断的に把握している専門家が関与することで、相続手続は驚くほどスムーズになります。株式や投資信託の相続で少しでも不安がある場合は、早めにご相談ください。当事務所では、証券保管振替機構からの加入者情報通知書の取り寄せの代行のほか、税務と登記の両面から相続手続を一体的にサポートしていますので、「何から始めればよいか分からない」という段階でも安心してお任せいただけます。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
