Last Updated on 2025年12月11日 by 渋田貴正
外国法人が日本で登記を行い事業を開始すると、法人税や消費税の申告義務が発生する可能性があります。しかし実務では「法人税は不要なのに消費税だけ必要」「本国と日本で課税期間がズレる」など、日本で登記した外国会社特有の論点があります。外国法人が日本で消費税申告を行う場合のポイントを、法人税との違いも交えながら分かりやすく解説します。
外国法人でも消費税申告が必要となるケース
消費税法では、居住者・非居住者を問わず、国内で課税資産の譲渡等を行う事業者は消費税の納税義務者となる 仕組みです。そのため、日本に本店がなくても次のような場合には申告が必要となります。
・日本の不動産から賃貸収入を得ている
・日本企業へ役務提供(コンサルティング、エンジニアリング等)を行う
・国内で商品の販売や委託販売を行う
・日本の建設工事に共同事業者として参加する
一方、基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となります(インボイス登録をしている場合を除く)。また1期目や2期目について資本金が1,000万円以上の新設法人は、課税事業者となるという点は内国法人も外国会社も変わりません。
外国法人が「資本金1,000万円以上の新設法人」に該当するかどうかは、消費税法および通達に基づき、次のように具体的に判定します。
まず初年度は、日本の登記に記載された資本金額をそのまま用います。
本国の資本金額ではなく、登記事項証明書に記載された金額が基準となり、この金額が1,000万円以上であれば設立直後から課税事業者となります。
一方、2年度目は判定基準が変わり、本国法人の財務諸表のうち「前事業年度の貸借対照表に記載された資本金額」を基準に判定します。外国法人では、本国の資本金規模が大きい場合が多く、登記上の金額が小さくても2期目で課税事業者となるケースが非常に多く見られます。
さらに、資本金が外国通貨で計上されている場合には、事業年度開始日における電信売買相場(仲値:TTM)で円換算した金額で1,000万円を超えるかどうかを判断します。つまり、USD・EURなどで数百万単位の資本金があれば、為替換算後は日本円で1,000万円を大きく超えることがほとんどであり、実務上はほぼ確実に課税事業者になるといえます。
なお、ここでいう「新設法人の1期目・2期目」は、日本で事業を開始した時点を起点としてカウントします。本国で法人がいつ設立されたかは関係ありません。日本で事業を開始した日から最初の事業年度が「日本側の1期目」となり、その翌事業年度が「2期目」として扱われます。
そのため、本国の会計年度が長い歴史を持っていても、日本における初年度はあくまで「日本で事業を開始した日」から始まるため、資本金1,000万円以上の外国法人は、日本の消費税法上は新設1期目・2期目の強制課税の対象として扱われます。
外国会社の消費税と法人税との申告義務が一致しないケース
外国法人の法人税は、日本にPE(恒久的施設)があるかどうかで課税関係が決まります。PEがなければ基本的に売上が日本で発生していても法人税は課税されず、申告義務もありません。
しかし消費税は、PEの有無に関係なく国内取引があれば課税されます。そのため、実務では次のようなケースが非常に多く見られます。
たとえば、日本の顧客に対してオンラインでコンサルティングやシステム開発サポートを提供する外国法人を考えてみましょう。サービスの提供場所は海外でも、対価を受け取る相手が日本にいる場合には、消費税法上「国内取引」と評価されることがあります。そのため、外国法人であっても消費税の申告義務が発生する可能性が高くなります。
しかし一方で、その外国法人が日本に支店や固定的なオフィスを構えていない場合や、日本で契約締結権限を持つ従業員が常駐していない場合には、租税条約上「PE(恒久的施設)」が認められません。PEがなければ日本で法人税が課税される根拠がないため、法人税は申告不要という結果になります。
つまり、同じ売上であっても、消費税はかかるのに法人税はかからないという状況が実際に起こり得るわけです。
また、日本に事業用の不動産を所有し、賃貸収入を得ている外国法人のケースです。不動産賃貸は典型的な「国内における課税資産の譲渡等」に該当するため、家賃収入の発生と同時に消費税の課税関係が生じます。したがって、外国法人であっても日本で不動産を貸している以上、消費税の申告は避けて通れません。
しかし、この不動産賃貸事業を外国法人自身が日本で運営しているのではなく、管理会社に完全に委託しており、外国法人側は日本にオフィスもスタッフも持たないケースでは、日本の税務署や租税条約上「PEに該当しない」と判断される可能性があります。PEがなければ日本で不動産所得があっても法人税課税の対象外となるため、家賃収入に対して消費税だけ支払い、法人税は支払わないという状況が起こり得ます。
このように、取引の実態や日本での活動形態によって、
・消費税は課税される
・法人税は課税されない
という明確な違いが生じることがあります。
なお、事業年度にも注意が必要です。本国の事業年度が4月〜翌3月であっても、日本で事業年度を届け出ていない外国法人は「1月〜12月」で消費税申告を行う必要があることになります。
とはいえ、多くの外国の会社は事業年度も1月から12月の暦年になっているケースが多く、結果的に日本での消費税の課税期間と一致するケースも多いです。
| 区分 | 法人税 | 消費税 |
|---|---|---|
| 課税期間の基本ルール | 法人が定める事業年度 | 事業年度。ただし法人に事業年度の定めがないときは暦年 |
| 外国法人(日本にPEあり) | 日本での事業年度を届出。 本国の会計年度に合わせることも可能 |
届出した日本側の事業年度が課税期間 |
| 外国法人(日本にPEなし) | 法人税の課税なし(課税期間の概念が生じない) | 国内取引があれば課税。 事業年度未届の場合は暦年(1/1〜12/31) |
| 事業年度を日本で届出ていない場合 | 法人税:申告義務がある場合は期間の届出が必要。 | 消費税:自動的に暦年課税 |
| 課税期間の短縮 | 不可 | 課税期間特例選択届出書で短縮可能(毎月・毎期など) |
外国会社の消費税申告のための納税管理人の選任と申告の流れ
外国法人が日本に住所・事務所を持たない場合は、納税管理人を選任する必要があります。
提出書類には次のものがあります。
・納税管理人届出書
・課税事業者届出書(資本金1,000万円以上・売上1,000万円超等)
・課税期間特例選択届出書
・簡易課税制度選択届出書
・確定申告書(課税期間終了後2か月以内)
外国法人の日本での税務は、法人税と消費税の考え方が大きく異なり、課税期間の扱いも複雑です。
当事務所では、外国法人の登記、納税管理人の受任、法人税・消費税申告まで一貫して対応しております。日本での事業開始時の最初の一歩から、ぜひ専門家である当事務所にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
