Last Updated on 2025年11月19日 by 渋田貴正

2025年4月から、不動産登記に「検索用情報(ふりがな等)の申出」が必要になりました。さらに翌年の2026年4月からは、住所変更登記の義務化とともに、所有者が自分で申請しなくても法務局が住基ネットを検索して自動で変更登記を行う「スマート変更登記」が始まります。
この制度は不動産登記の利便性を大きく変える一方で、「海外在住者は検索用情報の申出ができない」という点が気になるという声も多いです。
また、外国籍やローマ字氏名の方が「カタカナ+アルファベット併記」となる理由についても関心が高まっています。

検索用情報の申出制度とは

検索用情報の申出は、登記名義人の「氏名の読み仮名」や「生年月日」を法務局に届け出る制度です。
従来の登記簿は漢字・カタカナ・ローマ字をそのまま表示するだけで、読み仮名は記録されていないため、
・同姓同名者の区別が難しい
・金融機関や不動産会社が検索に時間がかかる
・相続手続で本人特定が遅れる
といった課題がありました。

新制度により、「読み仮名」が全国で統一的に管理され、検索しやすい登記データベースが整備されます。
しかし、この制度の本当の狙いは、翌年に導入される 「スマート変更登記」に必要な検索キーを事前に登録すること にあります。

「スマート変更登記」と検索用情報の強い結びつき

住所・氏名の変更登記は、2026年4月から 2年以内の申請が義務化 されます。しかし、住所変更登記を忘れる人は非常に多く、法務局側も「所有者の探索」に多大な労力を割いています。

そこで導入されるのが スマート変更登記 です。

スマート変更登記とは、所有者が登記申請をしなくても、法務局が 住基ネット(住民基本台帳ネットワーク) の情報を検索し、一致するものがあれば 職権で住所等の変更登記を行う 仕組みです。

このスマート変更登記を実効性あるものにするためには所有者の検索をするための情報の整備が必要です。この「検索用情報」法務局が住基ネットを照会するためには、
・氏名
・住所
・生年月日
などの情報を、登記名義人自身があらかじめ登録しておく必要があります。

つまり、検索用情報制度は、スマート変更登記を実現するための事前登録制度であり、両者はセットで理解する必要があります。

なぜ海外在住者は申出の対象外なのか

制度を単体で見ると分かりにくいですが、スマート変更登記との連動を理解すると理由は明確です。

海外在住者は住基ネットに登録されていない

スマート変更登記の大前提として、住基ネットに登録されていること(=日本国内に住所があること)が必要です。

しかし海外在住者には
・住民票が存在しない
・住基ネットに情報が存在しない
ため、法務局が照会を行ってもデータが一致せず、スマート変更登記が成立しません。

つまり、住基ネットに情報が存在しない人について、検索用情報を登録しても意味がないということです。だから検索用情報の申出対象から除外されている、という制度設計上の理由になります。

本人確認を日本の基準で行う手段がない

検索用情報は「登記名義人の特定情報」であるため、誤った登録が許されません。
国内在住者なら住民票・印鑑証明書・マイナンバーカードなどで本人確認を確実に行えますが、海外在住者にはこれらが存在せず、
・サイン証明
・海外の住所証明
などでは、日本国内の基準と同等の本人確認ができません。

このため、制度の信頼性確保という観点からも対象外とされています。

制度の開始段階で範囲を絞った

新制度は全国で一斉に導入されるため、当面は「住基ネットと連動させやすい国内居住者から運用する」ことが優先されています。
将来的に対象拡大が検討される可能性はありますが、現時点では制度の趣旨上、海外在住者は含めないのが合理的な選択といえます。

アルファベット氏名の人には「カタカナ+アルファベット併記」

海外在住者とは別に、外国籍の方や、日本国籍でもローマ字氏名の方は 「カタカナ読み」と「アルファベット表記」を併記 する運用になっています。こうした運用がある背景は外国語氏名は読み方が複数存在するため、ローマ字だけでは読みを推測できないからです。

例:
・LEE → リー / イー
・WANG → ワン
・NGUYEN → グエン / グェン

このような表記揺れを排除し、
・検索性を高める
・同一性判断を容易にする
・相続や売買時のトラブルを減らす
ために、併記ルールが採用されています。

これは海外在住かどうかとは無関係で、あくまで 氏名表記の多様性への対応 です。

重要なのは、ローマ字氏名=申出不可ではないという点です。

国内に住民票があれば、
・外国籍
・ローマ字氏名
でも問題なく申出できます。

 

検索用情報を申出できなくても、登記そのものには一切影響しません。

検索用情報は検索を便利にするための補助制度であり、所有権・抵当権などの権利関係には一切関係しません。

非居住者の場合、
・パスポート
・サイン証明
・住所証明
などを使った従来の方法で登記申請できます。

検索用情報制度は、スマート変更登記という大きな制度改正と連動しており、国内居住者を中心とした設計が前提になっています。
海外在住者や外国人名義の不動産を扱う際には、従来の登記実務との違いを押さえる必要があります。
当事務所では、税理士・司法書士として国際相続・非居住者の不動産登記に多数対応していますので、制度変更に不安がある方はどうぞお気軽にご相談ください。