Last Updated on 2025年11月16日 by 渋田貴正

海外に銀行口座を保有していたり、海外勤務時代につくった投資口座が残っていたり、最近では暗号資産を海外取引所で管理する方も増えています。
日本の税制では、日本国内に居住している人がこうした海外にある資産を所有しているケースについて、一定金額を超えると「国外財産調書」という届出を提出するように義務付けています。

国外財産調書の制度は、海外資産を正しく把握し、所得税や相続税の申告漏れを防ぐために設けられているものです。
提出すべき人の範囲や、どのような財産を対象とするのか、そして提出しないことで生じるリスクについて解説します。

国外財産調書が求められる背景と役割

海外にある資産は、日本国内から把握しづらく、申告漏れが起きやすい領域です。
海外口座の残高証明が取り寄せにくかったり、不動産や保険商品の評価方法が国によって異なるなど、国内資産よりも手続きが複雑なためです。

国外財産調書は、海外資産を「いつ・どこに・どれだけ保有していたか」を届け出る仕組みで、毎年12月31日時点で保有している国外財産を集計し、翌年の6月末までに税務署に提出します。
この届出を適切に行っておくことで、後から税務調査で海外資産の申告漏れが見つかったとしても、加算税が軽減されるケースがあります。

反対に、提出すべきなのに行っていない場合、加算税が重くなったり、罰則の対象となる可能性もあるため、海外資産が一定規模以上ある方にとっては非常に重要な制度です。

国外財産調書の提出義務のある人

国外財産調書を提出する必要があるかどうかは、まず 「日本に生活の拠点がある人かどうか」 を確認するところから始まります。所得税法上は、このような方を「居住者」と呼びます。

国内住所 現在まで引き続き居所を有する期間 国籍 過去10年間の住所または居所の期間 区分 形態
あり 問わない 日本 問わない 居住者 永住者
あり 問わない 外国 5年超 居住者 永住者
あり 問わない 外国 5年以下 居住者 非永住者
なし 1年以上 日本 問わない 居住者 永住者
なし 1年以上 外国 5年超 居住者 永住者
なし 1年以上 外国 5年以下 居住者 非永住者
なし 1年未満 問わない 問わない 非居住者 非居住者

国外財産調書を提出しなければならないのは、このうち永住者に該当する居住者です。

そして次に、その年の12月31日時点で持っている海外資産の合計額が5,000万円を超えているかどうかを判断します。
この2つが、提出が必要かどうかを決める大きなポイントです。

ただし、もう少し注意が必要なケースがあります。
たとえば、

  • 日本と海外を行き来している

  • 長期出張や留学で海外に滞在している

  • 日本に帰国したばかり、または海外に移る予定がある

このような方は、「自分は居住者なのか、それとも非居住者なのか」の判断が分かれやすく、専門的な確認が必要になる場合があります。

さらに、相続が発生した年には特別なルールがあります。
相続により新しく海外資産を受け継いだ場合、その年だけは その相続財産を“いったん合計額から除外して”提出義務を判定してよい とされています。相続によって急に資産額が増える場面でも、いきなり国外財産調書の提出を求められないように配慮された仕組みです。

どのような財産が「国外財産」に該当するのか

国外財産と一口にいっても、その種類は非常に広範囲に及びます。
実務では「これは国外財産に含めるの?」と迷うケースが非常に多いため、分類を細かくし、具体例とともに解説します。

 海外の不動産

海外の土地・建物はすべて対象となります。
アメリカの戸建て、ハワイのコンドミニアム、タイのコンド、イギリスの収益物件など形態は問いません。

また、海外では建物と土地の権利関係が日本と異なる国も多く、定期借地権に似たもの、コンドミニアムの共有持分、永久所有権とは別の権利など、評価や保有形態が複雑なケースが頻繁にあります。

海外銀行の預金口座

次のようなものはすべて国外財産に該当します。

  • 海外銀行の口座(現地口座)
  • 留学・赴任時代の口座
  • 国際的なデジタルバンクの口座
  • 国内銀行であっても海外支店にある預金

なお、海外にある口座で休眠状態になっていても、残高がある限り対象です。

海外証券会社・外国株式・投資商品

  • 海外証券会社にある株式・ETF
  • 外国法人の持株制度
  • 海外の投資信託やファンド
  • 外国市場で取引されている債券

外国株式は評価額の変動が大きいため、年末時点の時価をしっかり確認する必要があります。なお、外国で上場されている株式等でも、日本の証券会社(楽天証券など)を通して購入していれば対象外です。

暗号資産・NFT(海外取引所保管)

特に申告漏れが多いのが暗号資産です。

  • 海外取引所に置いている暗号資産
  • 海外マーケットで取得したNFT
  • 海外ウォレットで保管しているトークン

これらはすべて国外財産です。価格変動が激しいため、年末閉場時点のレートで評価します。

海外保険・海外年金

海外の生命保険、学資保険、養老保険なども対象となります。
返戻金の評価方法は国により契約内容が大きく異なるため、解約返戻金相当額や積立額を基準として見積価額を算定するケースも多いです。

また、海外の退職年金制度(401(k)類似)や、現地法人の年金積立制度も対象に含まれます。

海外の法人への貸付金・事業投資

  • 海外子会社への貸付金
  • 海外法人に対する出資金
  • 投資案件としてのジョイントベンチャー持分
  • 不動産会社・ファンドへの投資口

法人を通じた海外投資は金額が大きくなりがちで、評価方法も複雑です。財務諸表が取れないケースも多いため、合理的な算定が必要になります。

その他に見落としがちな国外財産

  • 海外サイトで購入した金地金
  • 外国法人のストックオプション権
  • 海外証券口座にある未上場株式
  • 外国の宗教法人・財団等への寄付金返還請求権

このあたりは特にご自身で把握しづらく、専門家に依頼することで漏れを防げます。

財産の種類 具体例 国外財産に該当するポイント
海外不動産 ハワイのコンドミニアム、米国戸建て、英国収益物件、タイ・マレーシアのコンドなど 土地・建物ともに国外所在であればすべて対象。
海外銀行口座 米国・欧州の銀行、現地デジタルバンク、赴任時代の休眠口座 支店所在地が海外であれば国外財産。国内銀行の海外支店も含む。
株式・投資商品 海外証券会社口座、外国株式、ETF、外国債券、海外ファンド 外国市場で管理されている金融資産は国外扱い。
暗号資産・NFT Binance等の海外取引所、海外NFTマーケット、外国ウォレット 取引所やウォレット管理者が海外にあると国外財産。
海外保険・海外年金 海外生命保険、積立保険、学資保険、海外退職年金制度 返戻金や積立額を基準に価額を算定する必要がある。
貸付金・事業投資 海外子会社への貸付金、海外JV持分、外国法人への出資金 貸付先や事業体の所在地が海外なら国外財産。
その他 海外で購入した金地金、外国法人のストックオプション、未上場株式 保管場所や管理者が海外なら原則国外扱い。

国外財産の評価方法(種類別)

財産の種類 評価方法(年末時点) 補足
海外不動産 市場価格・鑑定評価・売買実例など 国により評価基準が異なるため、合理的な算定が必要。
海外銀行預金 残高証明書の金額をレート換算 12/31の為替レート(売買相場)で円換算。
外国株式・海外証券口座 終値等の市場価格 年末の時価を必ず使用する。
暗号資産 海外取引所の年末最終レート 価格変動が急激なため取得方法の記録が重要。
海外保険・年金 返戻金相当額・積立額の見積価額 契約書・証書を必ず保管しておく。
貸付金・事業投資 貸付残高・持分評価額 財務資料が必要なケースが多い。

国外財産調書に記載する内容

提出する調書には、

  • 財産の分類
  • 一般用か事業用か
  • 数量
  • 価額(時価または見積価額)
  • 所在地
    を記載します。

海外資産は、価格が急に変動したり、取得時と保管時で価値が変わることもあるため、評価方法を間違えないことが重要です。海外不動産や海外保険のように、日本の評価基準がそのまま使えない財産も多いため、実務上は専門家に確認しながら進めることが多いです。

国外財産調書を提出しないとどうなる?

国外財産調書を期限内にきちんと提出しておくと、万が一申告漏れがあった場合でも加算税が軽減される特典があります。
これは、海外資産のように把握が難しい財産について、誠実に届け出を行っている方を評価する仕組みです。

逆に、提出すべきなのに届け出をしていない場合には、加算税が重くなる可能性があり、さらに正当な理由がなく提出を怠った場合には罰則の対象となることもあります。

「知りませんでした」「忘れていました」では済まない分野だからこそ、早めの準備が重要です。

国外財産調書は紙でも提出できますが、e-Taxでの提出も可能です。
海外在住者の場合は、納税管理人を立てることでスムーズに手続きができますし、税理士が代理で電子送信を行うことも認められています。

国外財産調書は「提出すれば終わり」の書類ではなく、その後の所得税、相続税、贈与税、海外相続、法人設立などにも深く影響する制度です。内容次第では、将来の相続でトラブルが生じたり、税務調査で証明が求められる可能性もあります。そのため、最初の段階から正しく整理しておくことが、後の大きな安心につながります。

海外資産や海外相続に関するご相談は、税理士・司法書士の両資格を持つ当事務所におまかせください。
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