Last Updated on 2025年11月12日 by 渋田貴正
株式会社を設立する際には、出資金の払込みを証する「払込証明書」を作成する必要があります。これは株式会社設立登記の際に必ず添付しなければなりません。
しかし、発起人や設立時取締役の全員が日本に住所を持たない、いわゆる非居住者である場合には、日本国内の銀行口座を開設できず、その結果、通常の払込方法がとれません。このような場合に限り、登記実務上、第三者名義の口座を利用することが特例として認められています。
資本金の払込証明書とは
株式会社設立時に出資金を払い込んだことを証する書類が「払込証明書」です。発起人が定款を認証した後、会社設立のために口座へ出資金を払い込み、その証拠として「通帳の写し」や「取引明細書」を添付します。
法務局はこの払込証明書をもとに、出資金が実際に払い込まれたことを確認します。そのため、形式だけでなく「誰の口座に、どのように払込がなされたか」が極めて重要です。通常、払込金を受ける口座は「設立中の会社を代表する発起人」名義で開設します。発起人が自分の口座を使って他の発起人からの出資金を受け取る形です。
個人の既存口座を使っても登記上は問題ありませんが、会社のお金と個人のお金を区別するため、専用の口座を新たに開設することが望ましいとされています。(1人社長の会社であれば気にする話でもありませんが。)
非居住者のみで設立する場合の出資金払込口座の特例
ここで問題になるのが、日本の銀行口座を用意できない場合です。
非居住者が日本国内で銀行口座を開設することは、マネーロンダリング対策などの観点から非常に難しく、多くの銀行では「日本国内に住所を有すること」を口座開設の前提条件としています。そのため、発起人や設立時取締役が全員海外在住の場合、出資金を受け取る口座を自分たちで用意できないという実務上の壁が生じます。そこで、発起人および設立時取締役の全員が日本に住所を持たない場合、つまり全員が非居住者である場合には、特例として第三者名義の銀行口座を払込先にすることが認められています。
通常は、発起人や設立時取締役以外の人の口座を使うことは認められません。なぜなら、資金の流れが不明確になり、実際に誰が出資したのかが分からなくなるおそれがあるからです。しかし、全員が日本に住所を持たない場合、銀行口座を開設できないという実務上の支障があるため、特例的に第三者名義の口座を使うことが可能とされています。この場合、発起人はその第三者に対し、出資金を受領する権限を委任し、委任状(代理権限証書)を登記申請時に添付する必要があります。
| 項目 | 国内居住者がいるケース (通常ケース) |
発起人も役員も全員非居住者の場合 (特例ケース) |
| 口座名義人 | 発起人本人 | 第三者(日本国内に口座を持つ者) |
| 口座の場所 | 日本国内の銀行 | 日本国内の銀行本支店(第三者名義) |
| 委任状 | 不要 | 発起人から第三者への委任状を添付 |
| 添付書類 | 払込証明書 | 払込証明書+委任状 |
どのような第三者が該当するのか
第三者とは、発起人および設立時取締役以外の人物で、日本国内に銀行口座を持つ人を指します。特に制限は設けられていません。たとえば次のような人が該当します。
- 日本在住の親族や友人
- 設立を依頼した司法書士・行政書士・税理士などの専門家
- 現地代理人や取引先の日本法人担当者
重要なのは、「日本国内に銀行口座を持ち、かつ信頼できる人物であること」です。出資金は会社設立のための資金であり、一時的とはいえ第三者に預ける形になります。そのため、第三者の選定は慎重に行う必要があります。
上記と関連しますが、第三者口座を利用する場合には、以下の点に注意が必要です。
- 信頼関係のある人物を選ぶこと
払込金は設立資金であり、数百万円単位になることもあります。形式上は一時的な預かりでも、法的にはその人の口座に入金されるため、信頼できる人物以外に依頼するのは極めて危険です。 - 資金の流れを明確にすること
出資金の送金元・送金先・入金日時を通帳や送金記録で明確にしておきます。法務局だけでなく、将来的に銀行や税務署から資金の経路を確認される場合にも備えます。 - 委任状の内容を具体的に記載すること
委任状には「会社設立のために出資金の受領および保管を委任する」旨を明示し、全発起人が署名または押印します。
この特例が利用される主なケース
この第三者口座特例は、以下のような場合に活用されています。
- 海外に本社を持つ外国法人が、日本子会社(株式会社)を設立するケース
- 日本に住所を持たない外国人個人が単独で日本法人を設立するケース
- 海外在住の複数投資家が共同で日本法人を設立するケース
いずれも、日本国内で銀行口座を開設できない事情があり、第三者を介して払込みを行うことで登記手続きを進めることが可能になります。
合同会社の設立の場合はこの特例は関係ない
ここまで説明した「払込証明書」や「第三者口座を利用できる特例」は、株式会社の設立に関する制度です。合同会社(LLC)の場合には、設立登記の際に出資金の払込みを証する通帳の写しを添付する必要はありません。
合同会社では、出資金の受領を証明するために「払込証明書」や通帳コピーの代わりに、代表社員が作成する領収書(出資金を受け取った旨を証する書面)を添付すれば足ります。つまり、銀行口座の名義や払込先をどうするかといった問題は、株式会社のように厳格には問われません。
したがって、全員が海外在住者であっても、合同会社を設立する場合には、第三者名義の口座を利用するような複雑な対応を取る必要はありません。代表社員が出資金を受領し、領収書を発行するだけで登記が受理される点が、合同会社の大きな実務上のメリットといえます。
発起人や設立時取締役が全員日本の非居住者であっても、株式会社の設立は可能です。その際、特例として第三者名義の口座で出資金を払い込み、払込証明書を作成する方法が認められています。ただし、第三者は信頼できる日本在住者であることが前提であり、資金管理や委任内容を明確にしておかなければトラブルの原因になります。
当事務所では、海外在住の方による株式会社設立を多数サポートしており、第三者口座を利用する場合の委任状作成・払込証明書の作成・登記申請まで、すべてワンストップで対応可能です。海外からの会社設立をお考えの方は、ぜひ安心してご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
