Last Updated on 2025年9月19日 by 渋田貴正
株式会社では株主と取締役が分かれているのが通常ですが、合同会社では出資者(社員)が自ら経営にも参加できます。この「所有と経営の一致」が合同会社の最大の特徴であり、また監査役が存在しない理由にもつながっています。
監査役とはどのような役職か
株式会社における監査役は、取締役の業務執行を監視・監査する役職です。主な役割は次の通りです。
- 取締役の職務執行の適法性を監視する
- 株主総会において意見を述べる
- 必要に応じて取締役会に報告する
つまり、監査役は「経営を監督する立場」として存在し、株主と取締役の間に立つ重要な役職です。
合同会社に監査役のポジションがない理由
合同会社に監査役が存在しないのは、制度の簡略化ではなく、本質的な仕組みに基づいた必然です。
- 所有と経営の一致による不要性
合同会社では出資者(社員)がそのまま経営を担います。自らが経営を行い、自らの責任でリスクを負うため、株式会社のような取締役が委任契約に基づいているわけではないため「外部の株主に代わって経営を監視する存在」は不要とされています。
- 会社法の制度設計による
会社法では、合同会社について「社員」「業務執行社員」「代表社員」のみが規定されています。監査役に関する規定自体が存在せず、登記簿に「監査役」と記載することもできません。定款で監査役を置くことを決めても、法的には登記事項とならず、単なる内部ルールにとどまります。
- 小規模・低コスト運営を前提とした制度趣旨
合同会社は小規模事業者やスタートアップが利用しやすいよう、低コストかつシンプルな運営を目的に設計されています。もし監査役制度を義務付ければ、人件費や登記の負担が増し、制度趣旨が損なわれます。
- 外部説明責任が少ない
株式会社は株主と経営陣が分離しているため、監査役を通じて株主に対する説明責任を果たす必要があります。合同会社は社員数が少なく、社員=出資者=経営者であるため、情報の非対称性が生じにくく、監査役が不要とされています。
株式会社との比較
会社形態 | 機関設計の基本 | 監査役の有無 |
株式会社 | 株主総会・取締役(会)・監査役(必要に応じて会計監査人) | あり |
合同会社 | 社員・業務執行社員・代表社員 | なし |
このように制度設計の違いから、合同会社には監査役が存在せず、株式会社では監査役が重要な役割を果たします。
登記と税務の実務上の注意点
登記面での注意点
合同会社設立登記の際、「監査役」を役職として申請することはできません。もし登記申請に含めれば、法務局で却下されます。監視機能を内部的に設けたい場合は、定款で「監査担当社員」を設けることは可能ですが、登記事項にはなりません。
税務面での注意点
合同会社も法人税や消費税の申告義務を負います。監査役がいないため、税務処理や会計書類の責任は代表社員や業務執行社員が直接負います。そのため、次のような外部チェックを導入することが重要です。
- 税理士との顧問契約
- 社内での二重チェック体制
- 会計ソフトによる透明性確保
例えば、父親と子が共同で合同会社を設立し、父親と子が業務執行社員、子が代表社員となった場合を考えてみましょう。
父親が経営方針に疑問を感じても、株式会社のように監査役を通じてチェックする仕組みはありません。社員間の協議だけが唯一の調整方法であり、場合によっては争いが深刻化するリスクもあります。
これを防ぐには、定款に「意思決定の手続き」や「議決権割合」を明確に定めておくことが重要です。
組織変更で株式会社になった場合の監査役の設置
合同会社から株式会社へ組織変更すると、制度上は監査役を設置できるようになります。
株式会社には「監査役設置会社」という形態があり、定款で監査役を置くことを定めれば、監査役を登記事項として登記できます。特に規模が大きくなると、外部からの信頼性確保や融資の条件として、監査役の存在がプラスに働く場合もあります。
ただし、中小規模の株式会社では監査役設置が必須ではなく、取締役1名だけでも会社を維持できます。組織変更後に監査役を置くかどうかは、会社の規模や経営方針、対外的信用の必要度に応じて判断することになります。
この点で、合同会社から株式会社へ移行した場合には「監査役を置くか否か」を改めて検討することが重要です。
なお、この手続きは組織変更の手続きの中で行われるものなので、独立して監査役設置会社の登記のための登録免許税がかかるわけではありません。
合同会社に監査役がないのは制度上の必然ですが、経営の透明性や信頼性を確保するためには、外部チェックを導入することが求められます。
さらに株式会社へ組織変更した際には、監査役設置会社になる選択肢が開けるため、将来の事業拡大や融資対応を見据えた制度設計が必要です。
合同会社には監査役が存在しない一方、株式会社へ組織変更すれば監査役を設置することが可能です。これは制度上の柔軟性であり、会社の成長段階に応じて最適な体制を整えることが大切です。
当事務所では、合同会社の設立から株式会社への組織変更、監査役設置の要否検討まで一貫してサポートしています。会社の形態選択や登記・税務について安心して進めたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。