Last Updated on 2025年9月23日 by 渋田貴正

合同会社(LLC)では、出資した割合に応じて「持分(もちぶん)」を持ちます。
社員が退社する場合には、会社に持分を返し、その代わりに払戻金を受け取ることができます。

ここで受け取る払戻金は単なる返金ではなく、出資の回収と利益の分配が混ざった性質を持つため、所得税の扱いが問題になります。

合同会社を退社する際の持分払戻金の算定方法

払戻金は原則として退社時点の持分の時価を基準に計算されます。
時価とは、その時点で会社を清算したと仮定した場合に自分に帰属する純資産額を指します。

ただし、死亡退社などの特別なケースでは「純資産価額方式」を認めた判例もあります。
実務では残った社員との合意も必要ですが、税務上は時価評価が基本です。

所得税上の課税区分

合同会社を退社して持分の払戻金を受けた場合、税務上は「出資の払戻し」と「利益の分配」に切り分けて考えます。

区分 払戻金の内容 税務上の区分 課税方法
出資額の範囲内 出資の返還(元本回収) 非課税 課税なし
出資額を超える部分 利益の分配に相当 配当所得(みなし配当) 源泉徴収20.315%(所得税15.315%+住民税5%)。確定申告では「総合課税」「申告分離課税」「配当控除適用」の選択が可能

例:出資500万円、持分の払戻金(時価評価)800万円

  • 出資返還:500万円(非課税)
  • 超過部分:300万円(配当所得として課税)

持分払戻額が出資額を下回る場合

払戻金が出資額を下回る場合、差額は「譲渡損失」とされます。例えば、「会社の業績悪化」「合意による低額払戻し」「清算に伴う価値減少」といったケースで、払戻金が出資額を下回り、差額が譲渡損失となる可能性があります。

ただし、この持分の譲渡損失は、株式のように損益通算や繰越控除はできず、実務上は損失計上できない点に注意が必要です。

例:出資500万円、払戻金400万円の場合

  • 出資返還:400万円(非課税)
  • 差額100万円:譲渡損失

このように、会社の純資産が減っていたり、低額で合意した場合に「出資額を回収できなかった部分」が譲渡損失となります。

ただし、この100万円は「譲渡損失」として扱われますが、株式投資の損失のように他の所得(給与や事業の利益など)と相殺して税金を減らすこと、つまり損益通算はできません。

合同会社の持分は、税法上「株式等」に含まれるとされています。これは、株式と同じように出資の持分として扱われるためです。
しかし、退社に伴う「持分の払戻し」という行為は、株式を売買する「譲渡」とは性質が異なります。

株式の譲渡で損失が出た場合には、投資家保護の観点から特別な取扱いが認められています。
例えば、上場株式を売却して損をしたときには、その損失を他の株式の利益と相殺(損益通算)したり、3年間繰り越して翌年以降の利益とぶつけたりすることが可能です。

一方で、合同会社の持分払戻しは「会社から元本を返してもらう」性格が強く、税務上は

  • 出資の返還部分 → 非課税

  • 出資を超える部分 → みなし配当(配当所得として課税)

  • 出資額を下回る部分 → 元本割れ(譲渡損失のように見えるが、損益通算・繰越控除はできない)

と整理されます。

つまり、払戻しで損が出ても、それは株式投資の「譲渡損失」とは扱われません。
「雑所得」や「資本の払戻しによる損失」といった位置づけにとどまるため、税法上の救済措置(損益通算や繰越控除)は認められていないのです。

また、同様の理由から翌年以降3年間持ち越して繰越控除することもできません。

また、持分の払戻金と称していても、実質的に退職金や報酬を支払っているケースもあります。
税務署は「形式より実質」で判断するため、金額や支給の根拠が不自然だと課税区分が変わることがあります。

払戻金の実質 税務上の扱い 退社する社員への課税方法
退社社員への実質的な退職金 退職所得 退職所得課税(1/2課税などの特例あり)
業務執行社員への報酬的性質 給与所得 給与所得課税(給与と同じ扱い)

 

まとめると以下のようになります。

払戻金と出資額の関係 税務上の扱い 退社する社員への課税方法
払戻金 ≦ 出資額 出資の払戻し 非課税
払戻金 > 出資額 出資額までは非課税、超過部分は「みなし配当」 配当所得(20.315%源泉+申告)
払戻金 < 出資額 出資額との差は損失 譲渡損失(損益通算・繰越不可)
払戻しに退職金的要素 退職所得と認定される可能性 退職所得課税(1/2課税)
払戻しが報酬性質 給与所得と認定される可能性 給与所得課税

税務上のリスク

合同会社の持分払戻し時の注意点

税務上の注意点

払戻金の額を恣意的に設定すると税務上問題が生じます。

  • 不当に安い場合 → 残存社員が利益を得たとみなされ贈与税・寄付金認定の恐れ
  • 不当に高い場合 → 退社社員に過大利益があるとしてみなし配当課税

そのため、第三者に説明できる合理的な算定根拠を準備することが不可欠です。

登記上の注意点

持分払戻しは税務だけでなく登記にも影響を及ぼします。

  • 業務執行社員が退社 → 業務執行権限の変更登記が必要
  • 払戻しで資本金が変動 → 資本金変更登記が必要
  • 社員構成や出資比率が変動 → 定款や登記事項の確認・変更が必要

登記を怠ると取引先や金融機関からの信頼にも影響するため、忘れずに対応しましょう。

合同会社を退社して持分払戻しを受ける際には、単なる資金返還ではなく、所得税の課税や登記上の変更が伴う複雑な手続きです。
「どの部分が非課税で、どこから税金がかかるのか」「登記はどこまで必要か」といった疑問は専門家に相談するのが安心です。

当事務所では税理士・司法書士として、税務と登記の両面から一体的にサポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。