Last Updated on 2025年9月7日 by 渋田貴正
海外在住者による不動産投資の増加と背景
近年、海外在住の方が日本国内の不動産を投資目的で購入する動きが広がっています。円安による資産分散の効果や、日本の不動産市場の安定性、そして将来的な賃貸収入の魅力が大きな要因です。
ただし、海外に居住している方、または外国籍で日本に住民票がない方が個人名義で物件を購入する場合には、思いがけない制約やリスクが生じます。その典型例が「火災保険加入の制限」です。
個人名義購入で直面する火災保険の壁
不動産を取得する際には、火災保険や地震保険などへの加入が事実上必須となります。金融機関からの融資を受ける場合はもちろん、自己資金で購入する場合でもリスク管理の観点から加入が強く推奨されます。
ところが多くの保険会社では「住民票が日本国内にない個人」は火災保険の対象外としています。理由は、事故発生時の所在確認や保険金請求手続きに支障が生じやすいためです。その結果、海外在住者が個人で購入した場合には「保険に入れず、融資も受けにくい」という二重の制約を抱えることになります。
ただし、実際の保険会社の運用としては「所有者本人が契約者でなくてもよい」というケースもあります。たとえば、日本国内に住む知人を契約者にすることで加入を認める場合もあり、必ずしも所有者=契約者である必要はないのです。法人名義でも同様に、法人が所有者で契約者となるか、代理的に関係者を契約者に立てることで、火災保険加入が可能となります。
所有者 | 契約者 | 保険加入の可否 | 留意点 |
個人(日本在住) | 本人 | 可能 | 標準的な契約 |
個人(海外在住) | 本人 | 原則不可 | 住民票がなく審査困難 |
個人(海外在住) | 日本在住の友人 | 可能な場合あり | 保険会社の裁量、事故時対応に注意 |
法人 | 法人自身 | 可能 | 多くの保険会社が受入可 |
法人 | 法人関係者(役員等) | 可能 | 契約者を補助的に立てるケースもあり |
このように、契約者と所有者の関係性によって保険加入の可否が変わるため、事前に保険会社に確認することが重要です。
法人設立による解決策とそのメリット
こうした問題を回避する有効な手段が「法人名義で不動産を購入する」方法です。法人であれば、火災保険契約の可能性がぐっと高まります。
法人設立には以下のようなメリットがあります。
- 火災保険加入が可能になる
- 賃貸収入や管理費を法人の損益計算に組み込める
- 修繕費や役員報酬など、幅広い支出を経費化できる
- 相続対策として「株式の承継」によるスムーズな承継が可能
法人と個人の比較
項目 | 個人名義(海外在住者) | 法人名義 |
火災保険加入 | 原則不可(友人協力で可能性あり) | 加入可能 |
融資審査 | 厳しい | 受けやすい |
税務処理 | 所得税課税(総合課税) | 法人税課税(経費計上幅広い) |
相続 | 不動産を直接承継、分割困難 | 株式を承継、分割しやすい |
コスト | 低い(申告のみ) | 設立・維持費用が必要 |
法人で不動産を保有、賃貸する際の税務・登記上の留意点
法人で不動産を保有する場合、所得は法人税の課税対象となります。中小法人であれば軽減税率の適用もあり、経費計上の幅広さを活かせば課税所得を抑えることが可能です。
一方、個人名義で保有した場合は、賃料収入は所得税の対象です。海外在住者であっても、日本国内不動産からの収入は「国内源泉所得」とされ、確定申告義務が生じます。
また、不動産購入時には所有権移転登記が必要です。海外在住の個人が登記を行う場合、日本国内住所を証明する住民票がないため、追加でパスポートや海外在住証明の提出を求められることがあります。
一方で法人を設立した場合には、登記簿謄本が法人の住所証明となるため、登記申請が比較的スムーズに進みます。
相続対策としての法人活用
海外在住の方にとって、日本の不動産をどのように相続させるかは重要なテーマです。個人名義の場合、不動産はそのまま相続財産となり、複数の相続人で共有状態になることが多く、分割協議や登記手続きが煩雑になりがちです。
一方で法人名義の場合、相続財産は不動産そのものではなく法人の「株式」になります。株式であれば分割しやすく、相続人ごとに持分を調整できるため、将来のトラブル回避に役立ちます。加えて、株式の評価方法を工夫すれば、相続税の圧縮につながる場合もあります。
海外在住の方が日本で不動産を購入する場合、保険・融資・税務・登記・相続といった多方面の知識が必要となります。個人で判断すると見落としがちですが、法人設立を選択することで問題を解決できるケースは多くあります。
当事務所では、税理士と司法書士が一体となり、法人設立、不動産登記、税務申告、相続対策までトータルでサポートいたします。海外在住の方が安心して日本で投資を行えるようにご支援いたしますので、ぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。