Last Updated on 2025年6月11日 by 渋田貴正

不動産管理会社の設立は「2段階」で考える

不動産管理会社を設立するかどうかを考える際には、次の2つの段階に分けて検討することが大切です。

  1. そもそも会社を設立すべきかどうかの意思決定
  2. 設立を決めた場合に、誰を出資者・役員とするかの構成検討

そしてこれは、製造業や小売業といった「実業」とは異なる、不動産の保有・管理という性質をもつ「不動産管理会社」だからこそ、特に重視される視点です。実際に事業活動を拡大していくためではなく、税務上・相続上の目的を主眼に設立される会社であるため、意思決定の背景や出資者・役員構成の意図が極めて重要になります。

第1段階:不動産管理会社を設立するかの判断基準

不動産オーナーにとって、不動産管理会社の設立は大きな節税や相続対策になる可能性があります。しかし、やみくもに会社を作ればよいというものではありません。まずは「本当に設立すべきかどうか」を慎重に検討することが第一段階のポイントです。

所得税対策としての節税効果をシミュレーション

オーナー個人の所得が高額である場合、所得税や住民税は累進課税でどんどん高くなっていきます。そこで、不動産管理会社を設立して、親族に給与を支払うことで所得を分散させる方法があります。

ただし、以下のような条件が整っていなければ、期待した節税効果は十分に得られず、むしろ手間やコストが増えるだけになるおそれもあります。それぞれの条件について、具体的に見ていきましょう。

チェックポイント 内容
不動産収入の規模 管理料や給与を支払うための原資となる賃料収入が、年間数千万円以上あるかどうかがポイントです。規模が小さいと法人を通す意味がなくなり、むしろ税負担が増える可能性もあります。
支払う親族の人数 節税のためには複数の親族に給与を分散する必要がありますが、実際に管理業務に関わっている親族がいるかどうか、人数のバランスも重要な要素です。
給与額の妥当性 実際の業務内容に見合わない高額な給与は税務署から否認される可能性が高く、節税どころか追徴課税のリスクも生じます。相場や業務内容を踏まえて設定する必要があります。
実際の業務内容 親族が形式上だけでなく、現実に管理業務を行っていることが前提です。例えば、現地確認、賃貸人対応、清掃手配などの実務を担っていることが必要です。

【オリジナル試算例】

項目 金額(年額)
賃料収入(年間) 2,400万円
管理会社への支払管理料 1,800万円
妻への給与(月10万円) 120万円
子への給与(月8万円) 96万円
管理会社の年間経費(概算) 180万円(管理料の10%)
管理会社の課税所得 約1,524万円
法人税等(実効税率23.2%) 約325万円
オーナーの減税効果(税率45%) 約810万円
妻・子の所得税合計 約20万円(仮定)
年間節税額(概算) 約464万円

※この試算は仮定に基づいた一例であり、実際の節税額は他の収入・控除・居住地等により大きく異なります。会社設立を検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談してから進めるようにしましょう。

また、不動産オーナーが給与を受け取る立場(役員等)になることで、社会保険料の負担が軽くなる可能性もあります。

社会保険料の面でも、個人事業主のままでいるより法人化したほうが家計全体で得になるケースもあります。

さらに、不動産管理会社が法人であることで、生命保険を法人契約として加入し、支払った保険料を経費として処理できる点も魅力です。

  • 個人契約:年間最大4万円までしか所得控除されない
  • 法人契約:保険の種類によっては大部分が損金処理可能
  • 将来的な退職金原資として積立可能

ただし、保険種類や返戻率などに注意が必要で、既存の保険を法人へ名義変更する際には専門家への相談をおすすめします。

第2段階:設立後の出資者と役員の構成をどうするか

設立を決めたあとは、誰を出資者とし、誰を役員に就任させるかが重要なポイントになります。この構成によって、将来の相続税や所得分散の効果が大きく変わってきます。

とくに不動産管理会社のように、事業成長や売上拡大を直接目的としない会社の場合には、「誰が所有するか」「誰に給与を支払うか」という構成の意味が、一般の法人よりも一層重要になります。

出資者の選定で相続対策の効果を最大化

会社設立時の出資者(株主)は、将来の相続税にも大きな影響を与えます。管理会社の利益が蓄積されると会社の価値(株価)が上がり、それが相続財産として課税されるためです。

出資者 メリット デメリット
オーナー本人 管理しやすい 株式の相続課税対象になる
オーナー配偶者 一時的な相続回避 高齢で早期に再相続が発生しやすい
子供(推定相続人) 株式の相続を一世代先延ばしできる 出資資金の出所に注意が必要

たとえば3歳の子供が出資するケースでは、その原資がオーナーから出されたと疑われれば、贈与税の課税対象となる可能性もあります。出資者の資金の出どころは明確にしておきましょう。

役員構成と報酬設計の考え方

出資者だけでなく、会社の経営を担う役員の構成も重要です。不動産オーナー自身が役員になると、所得分散の効果が減少してしまうこともあります。

  • オーナーを代表取締役に据えて、給与を支払わずに経営のみ行う
  • 実際に業務を行う親族を役員とし、報酬を支払う
注意点 内容
実務を伴わない親族には給与を支払えない 小学生や遠方在住者など
役員の数に制限はない 複数人での構成可能
代表権の有無で給与水準も変動 実務担当者が代表になると効果的

税務署も「実態」を重視するため、形式的に役員に就任させるだけでなく、業務実態に即した運営が必要です。

このように、不動産管理会社の設立には多くの判断要素が絡みます。まずは設立するかどうかの意思決定を行い、そのうえで出資者や役員の構成を慎重に検討することで、節税や相続対策として効果的な会社運営が可能になります。誤った運用は逆効果になることもあるため、必ず信頼できる専門家と一緒に計画を進めましょう。