Last Updated on 2025年6月27日 by 渋田貴正

まずは居住者と非居住者の判定

海外在住の人が日本で開業届を提出して日本で個人事業主として活動できるのかという相談を受けることがあります。

開業届自体は海外在住であろうと国内在住であろうと関係なく日本の税務署に提出することができます。しかし、あくまで開業届は単なる報告的な手続きであり、何ら法律効果を発生させる手続きではありません。開業届を提出できることと、国内で個人事業主として活動できるかどうかということは別問題ということです。

このようなケースでは、次の2つの観点からの検討が必要です。

  • 日本で個人事業を行ってよいのか(法的に可能か)

  • 日本での所得税の申告義務はあるのか

    今回は、とくに税務上の「居住者/非居住者」の判定と課税範囲の違いに焦点をあててご説明します。

日本での個人事業活動は国籍・在留資格にもよる

まず一つ目の個人事業を行うこと自体については国籍により異なります。日本国籍を持つ者であれば在留資格の問題も生じないため個人事業を行うことは特に問題ありません。一方日本国籍を持たない人については、それが例えば来日して講演会を行うような単発の仕事でなければ在留資格の問題が絡んできます。そのため一つ目のポイントについてはここでは詳細は割愛して、2つ目の所得税申告に焦点を当てて説明します。

海外在住の人の所得税の課税関係を考えるには、まず所得税の仕組みについて理解しておく必要があります。所得税では、日本に住所または1年以上居所を有する人を「居住者」、そうでない者を「非居住者」としています。さらに居住者は「永住者」と「非永住者」に分かれます。

表で分けると以下のようになります。

国内住所 現在まで引き続き居所を有する期間 国籍 過去10年間の住所または居所の期間 区分 形態
あり 問わない 日本 問わない 居住者 永住者
あり 問わない 外国 5年超 居住者 永住者
あり 問わない 外国 5年以下 居住者 非永住者
なし 1年以上 日本 問わない 居住者 永住者
なし 1年以上 外国 5年超 居住者 永住者
なし 1年以上 外国 5年以下 居住者 非永住者
なし 1年未満 問わない 問わない 非居住者 非居住者

上記の表に当てはめて、まずはその方がどれに属しているかということを確認します。「永住者」という言葉は在留資格の現場でも使用されますが、ここでの永住者はそれとは違う税法上の概念なので、混同しないようにしましょう。

例えば、日本国籍を持っていても、日本を離れて1年以上経過していれば非居住者となります。

各区分ごとの課税範囲を確認

どの課税区分に属するかということが分かれば、次は課税範囲の確認です。

課税範囲は、各人のカテゴリに応じて以下のように定められています。

居住者 永住者 国内、国外で生じたすべての所得
非永住者 1)国外源泉所得以外の所得
2)国内で支払われるか、外国から送金された国外源泉所得
非居住者 国内源泉所得のみ

例えば、非居住者であれば課税範囲は国内源泉所得のみということになります。つまり、国内源泉所得を得るような仕事を行う場合のみ日本で個人事業主として申告の必要が出てくるということです。

このように、海外在住の方の所得税の申告の要否については、課税区分(永住者or非永住者or非居住者)の確認後、具体的にどのような形で所得を得るのかという2段階で判断することになります。

実務上の判断ステップ

海外在住の方が日本で開業届を出す前に、以下の2段階で検討します。

  1. 居住区分の判定(居住者/非居住者)

  2. 所得の性質の確認(国内源泉かどうか)

たとえば、**海外在住で日本に住所も居所もない方(非居住者)**であっても、日本の取引先から報酬を受け取るような業務を行う場合は、「国内源泉所得」に該当し、日本での所得税申告が必要になります。

青色申告や開業届は非居住者でも可能?

結論から言えば、非居住者でも条件を満たせば青色申告の承認を受けることができます(所得税法施行令第5条の2等)。開業届の提出も同様です。

ただし、帳簿の備付けや届出期限など、青色申告の要件は日本居住者と同様に厳格に管理されます。税務署との連絡や書類の送付にも手間がかかるため、実務では税理士などのサポートを受けることが望ましいです。

事業内容や規模によっては法人化を検討する必要もある

継続的に日本でビジネスを展開するのであれば、法人化(日本法人の設立)も検討すべきでしょう。

法人化により、在留資格や課税関係を整理しやすくなるだけでなく、非居住者本人が代表者を務める場合でも法人口座開設や契約上の信用度が高まるケースがあります。

当事務所のように非居住者の方の確定申告や法人設立などをサポートしている税理士事務所であれば、非居住者であっても開業届から確定申告、さらに法人設立までサポート可能です。お気軽にご相談ください。