Last Updated on 2025年10月29日 by 渋田貴正

株式会社設立時は、原則として発起人名義の口座が必要

株式会社を設立するときは、出資金を発起人の口座に入金する必要があります。このときの払い込み先の口座には一定の指定があります。

原則として、払い込み先として選ばれるのは発起人名義の口座です。発起人が一人であればその方名義の口座、発起人が複数いる場合には、一人を代表に定め、その代表発起人の口座にそれぞれの出資金を振り込むか、各発起人名義の口座にそれぞれが振り込むといった形をとります。

発起人名義の口座がなければ代表取締役の口座で代用可能

とはいえ、この「原則」は法律上絶対ではなく、実務上「原則としてこのようにされている」という整理です。しかしながら、発起人名義の口座を用意できないというケースもあります。たとえば、海外在住の方が発起人となって会社を設立する場合です。海外在住で日本国内の銀行口座を開設できない、あるいは過去に日本で口座を持っておらず開設実績がないというケースも考えられます。

払い込み先として指定できるのは、発起人が「定めた銀行等の払込み取扱いの場所」において行う必要があり、具体的には日本国内にある銀行や信用金庫、外国銀行の日本国内支店などが対象となります。たとえば、三菱UFJ銀行のシンガポール支店のように、日本の銀行の海外支店であれば認められる可能性があります。

このような場合に採り得る手段として、代表取締役に出資金の受領を委任するという方法があります。もし、代表取締役となる方が日本国内で口座をお持ちである場合は、海外在住の発起人から当該代表取締役への委任という形を採り、その方名義の口座に出資金を振り込めば、会社設立登記申請の際にそれを出資金の払い込みとして扱ってもらえるという実務運用があります。

委任状

神奈川県横浜市○○
山田 太郎

発起人○○は、口座名義人である上記代表取締役を代理人と定め、払込金の受領に係る権限を与えるものとする。

令和3年1月1日

東京都品川区○○
ABC株式会社
代表取締役 佐藤 花子

このような委任状を作成し、法人設立登記申請書に添付します。実務上、発起人の一人でも日本国内の口座を持っていれば、その者の口座に振り込むことで済む場合も多く、こうした委任を行わずに手続きを進められることもあります。

例えばこのようなケースが考えられます。シンガポール在住のA氏が日本で株式会社を設立しようとしたものの、日本国内に銀行口座がありませんでした。一方、予定される代表取締役B氏は日本在住で、国内銀行口座を保有していました。この場合、A氏がB氏に「払込みの受領に関する権限」を委任する形で、B氏名義の口座に出資金を送金。その後、委任状と払込証明書を添付することで、登記がスムーズに受理されました。
このように、代表者名義の口座を活用することで、海外発起人でも法人設立が可能になる実務例です。

なお、定款認証日前に払い込みを行った場合でも、「実質的に出資されたことが明らかであれば差し支えない」という運用が取られており、現実の会社設立の手続きにおいては柔軟な対応が可能です。

では、もし発起人だけではなく、代表取締役となる方も日本の銀行で口座を持っていなかったとしたらどうでしょう?このようなケースは稀ではありますが、払い込みの取扱場所が国内の「払込み取扱機関」とされている以上、口座を確保できないままでは設立登記を進めるのが著しく困難となります。こうした場合には、口座をお持ちの協力者を探し、その方を通じて出資金を払い込むなどの対応が必要です。

合同会社ではそもそも口座への入金が会社設立の登記上は不要

ここまで述べてきたのは、あくまで株式会社の場合です。合同会社(LLC)の設立の場合には、出資金の払い込みに関する手続きが株式会社に比して簡素です。通帳の写しではなく、領収書等をもって証明できるケースもあり、柔軟な運用がなされています。ただし「証明不要」という意味ではないため、現金のやり取りを行う場合にも適切な記録を残す必要があります。

例えば、シンガポール在住のA氏が発起人となる株式会社を日本で設立したいとします。A氏は日本国内に銀行口座を持っていません。このような場合、予定される代表取締役であるB氏が日本国内に口座を持っているのであれば、A氏から委任を受け、B氏の口座に出資金を払い込み、登記時にその委任状と払込証明を提出することで設立手続きが可能となります。

会社設立時の出資金払込みは、登記上の重大な要件の一つであり、誤解や手続きミスによって設立が却下されるリスクもあります。とくに、外国籍の方が発起人となる場合や、日本国内の銀行口座を持たないケースでは、出資金のルートや名義の確認が不可欠です。個人間での資金移動が誤って貸付や贈与と判断されないよう、委任契約や記録の整備が必要です。書類の形式や添付書類の有無についても、法務局の判断は厳格であるため、事前に専門家に相談することが大切です。

これらのチェック項目を確認しながら進めることで、設立手続きがスムーズかつ確実に完了します。失敗しないためには、些細な点でも専門家に確認を取ることをお勧めします。

当事務所では、こうした会社設立に伴う細やかな論点まで丁寧にカバーし、クライアントの事業成功を支援いたします。初回相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。