Last Updated on 2025年7月8日 by 渋田貴正
会社経営において、取締役や監査役などの役員は法的な責任を負いますが、一定の条件のもとでその責任を一部免除することが可能です。よく知られているのは株主総会の特別決議や全株主の同意による責任免除ですが、実は「定款の定め」による免除という制度もあります。
定款による責任の一部免除とは?
会社法では、定款に定めを設けることによって、一定範囲で役員の責任を軽減することが認められています。これは主に以下の2つに分類されます。
分類 | 根拠法令 | 主な対象 |
①取締役の同意による免除 | 会社法第426条第1項 | 全役員(社外・内部問わず) |
②責任限定契約による免除 | 会社法第427条第1項 | 社外取締役、会計参与、社外監査役、会計監査人 |
いずれも「定款にその旨を記載しておくこと」が前提条件であり、また、会社設立後に追加する場合には定款変更手続き(特別決議)が必要です。
(取締役等による免除に関する定款の定め)
(責任限定契約)
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登記は必要?:定款の定めと責任限定契約の登記実務
定款に責任免除に関する条項を設けた場合、その旨は会社の登記記録にも登記しなければいけません。特に、責任限定契約については、具体的な契約金額までは登記されませんが、「契約を締結できる旨」が登記事項となります。
たとえば、以下のような定款記載例があります。
<定款記載例:取締役の過半数の同意による免除>
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役の過半数の同意(または取締役会の決議)によって、取締役、監査役または会計監査人の会社法第423条第1項の責任を法令の限度で免除することができる。 <定款記載例:責任限定契約> 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、非業務執行取締役等との間に、会社法第423条第1項の責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、〇円以上であらかじめ定めた額または法令で定められた額のいずれか高い額とする。 |
責任免除の実務上の違いと比較
取締役の同意による免除 | 責任限定契約による免除 | |
対象となる役員 | 全役員 | 社外取締役、会計参与、社外監査役、会計監査人 |
必要な会社形態 | 取締役が2名以上、監査役設置会社または委員会設置会社 | 特段の制限なし |
効果 | 損害発生後に一部免除が可能(事後的) | 損害発生時に契約に基づき自動的に免責(事前的) |
責任の上限 | 法定限度額まで | 法定限度額または定款記載額のいずれか高い額 |
最低責任限度額の早見表
役職 | 最低責任限度額(会社法施行規則113条) |
代表取締役・代表執行役 | 年間報酬の6倍 |
その他取締役・執行役 | 年間報酬の4倍 |
社外取締役・会計参与・監査役・会計監査人 | 年間報酬の2倍 |
実務上の注意点:登記の抹消が必要なケースも
注意すべきなのは、取締役の過半数の同意による免除は「監査役設置会社」であることが要件である点です。たとえば、会社が監査役を廃止して「監査役非設置会社」となった場合、定款にその旨の規定があっても無効となります。
このような場合は、責任免除に関する登記も抹消する必要があるため、組織変更の際には定款内容と登記内容を見直すことが重要です。
【具体事例】設立時に定款を工夫しておけば役員が安心できるケース
たとえば、社外から招いた取締役に対して、責任限定契約を締結することで「万が一の法的責任リスクを限定する」ことが可能になります。設立当初から定款に責任限定契約の定めを置き、報酬の2倍以上の限度額で契約することで、優秀な人材を社外役員として迎え入れやすくなるという効果も期待できます。
役員責任の免除制度は、会社のリスク管理の一環として非常に重要です。特に中小企業においても、登記・定款整備を怠ると後に重大な問題に発展する可能性があります。
定款に責任免除規定を盛り込むことで、社内外の役員が安心して業務にあたれる環境を整えることができ、会社にとっても大きなメリットになります。
定款の整備や責任限定契約の文案作成、登記申請手続きまで、当事務所では一括して対応可能です。税理士・司法書士の立場から、会社設立・登記・ガバナンス整備まで丁寧にサポートいたします。お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。