Last Updated on 2026年3月10日 by 渋田貴正

日本に住んでいる方でも、シンガポールの銀行に預金口座を持っていたり、現地の証券口座や金融商品を保有しているケースは少なくありません。シンガポールはアジア有数の金融センターであり、日本の投資家が銀行口座や資産管理口座を開設している例も多く見られます。

しかし、このような海外資産は、日本の民法に基づく相続手続きだけでは処理できないことがあります。日本で作成した遺産分割協議書だけではシンガポールの銀行が預金を払い戻してくれないことも多く、現地法に基づいた別途の手続きが必要になります。

ここでは、シンガポールに預金や金融資産を残して亡くなった場合の相続手続きについて、税務・登記の観点を交えながら解説します。

シンガポールの「Grant of Probate」による相続手続き

シンガポールでは、被相続人の銀行口座や金融資産を相続する場合、裁判所が発行する「Grant of Probate」または「Letters of Administration」が必要になることが一般的です。

Grant of Probateは、被相続人が有効な遺言書を残している場合に、裁判所が遺言執行者(Executor)に対して遺産管理権限を認める証明書です。一方、遺言が存在しない場合には、相続人などが裁判所に申請し、Letters of Administrationという許可を取得することになります。

これらの許可書は、シンガポールの高等法院(High Court)が発行します。銀行や証券会社は、通常この許可書が提出されるまで被相続人の口座を凍結し、資産の払い戻しを認めないことが一般的です。

そのため、日本で作成した遺産分割協議書だけではシンガポールの銀行口座を解約できないことが多く、裁判所の手続きを経る必要がある点が、日本の相続との大きな違いです。

例えば、日本に住むAさんがシンガポールの銀行に預金20万シンガポールドルを残して亡くなった場合、相続人はシンガポールの裁判所でGrant of ProbateまたはLetters of Administrationを取得し、その許可書を銀行に提出することで預金を受け取ることができます。

ただし、日本の相続税申告では、この預金を日本円に換算して申告する必要があります。また、複数の相続人がいる場合には、日本で遺産分割協議を行い、誰がその預金を取得するのかを整理しておくことが重要です。

シンガポールでの相続手続きの基本的な流れ

シンガポールの銀行口座の相続は、一般的に次のような流れで進みます。

手続き段階 内容 ポイント
死亡証明書・戸籍の準備 日本で死亡証明書や戸籍謄本を取得 英訳や公証が必要になることが多い
遺言の有無の確認 遺言がある場合はExecutorが申請 遺言がない場合は相続人が申請
裁判所への申請 シンガポール高等法院に申請 現地弁護士を通じて行うことが一般的
銀行への提出 裁判所の許可書を銀行へ提出 銀行が資産の払い戻しを行う

シンガポールの相続手続きでは、裁判所への申請書類の作成や提出が必要になるため、実務ではシンガポールの弁護士と連携して進めることが一般的です。日本側では戸籍収集や相続関係の整理を行い、それらの書類を英訳して現地弁護士に提供する形で手続きを進めることが多くなります。

シンガポールでの少額資産の場合の銀行手続き

シンガポールでは、銀行によっては残高が比較的少額の場合、裁判所の許可書を求めず、銀行独自の手続きで払い戻しを認めるケースもあります。

例えば、銀行が指定する宣誓書(Statutory Declaration)や補償書(Indemnity)を提出することで、相続人へ預金が支払われることがあります。ただし、このような取扱いは銀行ごとに異なり、一定額以上の預金については裁判所のGrant of Probateなどが必要になるのが一般的です。

そのため、シンガポールに銀行口座がある場合には、裁判所手続きを前提として準備を進めておくことが現実的といえます。

シンガポールでの相続預金手続きにかかる期間と費用

シンガポールのGrant of Probate手続きは、相続財産の内容や書類の準備状況にもよりますが、数か月程度かかることが一般的です。書類の不足や相続人の所在確認などに時間がかかる場合には、さらに長期化することもあります。

また、シンガポールの弁護士費用や裁判所費用も発生します。資産の額や手続きの複雑さによって費用は異なりますが、日本の相続手続きと比べてコストが高くなるケースもあります。

シンガポール資産の相続と日本の相続税

シンガポールの銀行預金や金融資産も、日本の相続税法上は海外資産として課税対象になります。被相続人または相続人が日本の居住者である場合、世界中の財産が相続税の課税対象となるため、シンガポールの預金も申告対象になります(相続税法1条の3)。

預金については、死亡日時点の残高を為替レートで円換算して相続税申告書に記載します。シンガポールドル建ての資産であるため、為替レートの確認が重要になります。

また、海外の銀行手続きが長引くと残高証明書などの資料が揃わず、日本の相続税申告に影響することもあります。日本では相続税の申告期限が「死亡を知った日の翌日から10か月以内」であるため、海外資産がある場合は早めの手続きが重要です。

海外資産の相続は現地専門家との連携が重要

シンガポールの銀行口座の相続では、日本の戸籍制度や遺産分割協議書がそのまま理解されないことも多く、現地法に基づいた裁判所手続きが必要になる場合があります。また、英語書類の作成や銀行とのやり取りも必要になります。

そのため、実務では日本側の相続手続きと並行して、シンガポールの弁護士と連携して手続きを進めることが一般的です。日本側では戸籍収集や相続関係の整理、税務申告の準備を行い、現地専門家と協力して手続きを進めることで、国際相続の手続きをスムーズに進めることができます。

当事務所では、シンガポールを含む海外資産の相続手続きについて、司法書士・税理士の立場からサポートを行っています。日本の相続手続き、海外書類の整備、税務申告まで一貫して対応可能です。海外銀行口座の相続や国際相続でお困りの際は、お気軽にご相談ください。