Last Updated on 2026年3月7日 by 渋田貴正
会社を設立するとき、多くの方が悩むのが「事業目的」です。定款に記載する項目ですが、「どの事業を先に書けばよいのか」「順番に決まりはあるのか」といった質問をよくいただきます。例えば、メイン事業を一番上に書いた方がよいのか、許認可が必要な事業を先に書くべきなのか、それとも順番は特に関係ないのか、といった疑問です。
登記や定款認証の段階では事業目的の順番に法律上のルールはありません。自分が書いた順番がそのまま登記に反映される形になります。公証役場で定款認証を行う場合でも、法務局で会社設立登記を申請する場合でも、事業目的について確認されるのは主に三つの点です。事業内容が明確であること、社会的に違法な内容ではないこと、営利事業として成立する内容であることです。この三点を満たしていれば、基本的には問題ありません。逆に言えば、一番上に書く事業が何であるか、どの事業がメインなのかといった点は審査対象ではありません。例えば、広告業、飲食店経営、不動産売買、アプリ開発、コンサルティング業といった順番で並んでいたとしても、順番が不自然であるという理由だけで登記が認められないことはありません。このように、登記手続きの段階では事業目的の順番はそれほど重要ではありません。しかし会社設立後の実務では、事業目的の並び方が意外と見られることがあります。
事業目的とは何か
事業目的とは、会社が行う事業内容を定款に記載したものです。定款とは会社の基本ルールを定めた文書であり、株式会社でも合同会社でも必ず作成しなければなりません。そして設立後は、この事業目的がそのまま登記事項として登記簿にも記載されます。つまり事業目的は、会社が何をする会社なのか、どのようなビジネスを予定しているのかを第三者に示す役割を持っています。銀行、取引先、行政機関などが会社を調べるとき、登記簿の中でまず確認される情報の一つがこの事業目的です。
会社設立後に事業目的が見られる場面
会社を設立すると、事業目的はさまざまな場面で確認されます。特に多いのが銀行口座の開設です。銀行は法人口座の開設審査の際に会社の登記簿を確認しますが、その中で必ず目にするのが事業目的です。銀行が確認しているのは、この会社がどのような事業を行う会社なのかという点です。登記簿には売上や事業計画は書かれていないため、銀行担当者は事業目的の内容や並び方から会社の事業を推測します。
例えば次のような事業目的が並んでいたとします。
1 インターネット広告業
2 ウェブサイト制作
3 マーケティング支援
この場合、多くの人は「Webマーケティング系の会社なのだろう」と理解します。
一方で次のような並びだった場合はどうでしょう。
1 飲食店経営
2 不動産売買
3 アプリ開発
4 広告業
すると、銀行担当者はこの会社は何をメインにしているのだろうと感じる可能性があります。もちろん、それだけで口座開設が拒否されるわけではありません。しかし、事業内容の説明を求められるケースは実際にあります。最初に書かれている事業は、読む人にとって「この会社のメイン事業」に見えることが多いのです。
許認可が必要な事業では順番が気になることもある
もう一つ、事業目的が見られる場面として多いのが許認可申請です。例えば次のような業種があります。
・宅地建物取引業(不動産業)
・建設業
・人材紹介業
・古物商
これらの許可申請では、定款や登記簿の事業目的を提出することがあります。行政側が確認しているのは、本当にその事業を行う会社かどうかです。そのため、例えば宅建業を行う会社であれば、不動産売買、不動産仲介、不動産管理などが事業目的に入っていることが必要になります。順番自体が法律上の要件になるわけではありませんが、実務ではメイン事業が上の方にある方が自然に見えることが多いです。
実務でよく使われる事業目的の並べ方
会社設立の実務では、事業目的は読みやすい順番に整理して記載することが多いです。法律上は順番の決まりはありませんが、一般的には次のような並びにするケースが多く見られます。
| 順番 | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | メイン事業 | 会社の主なビジネスを最初に示すため |
| 2 | メイン事業に関連する事業 | 事業内容の広がりを自然に説明できるため |
| 3 | 将来行う可能性のある事業 | 将来の事業展開に備えるため |
| 4 | 附帯関連事業 | 関連事業を包括的にカバーするため |
文章で整理すると、次のような順番になります。
・まず会社の現在のメイン事業を書く
・次にメイン事業に関連する事業を書く
・その後に将来行う可能性のある事業を書く
・最後に附帯関連事業の定型文を入れる
多くの会社では最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」という文言を入れます。これは、上記の事業に関連する事業であれば行えるようにするための定型文で、ほぼすべての会社の定款に入っています。この順番にする理由はとても単純で、読む人にとって理解しやすいからです。銀行担当者や取引先は、最初に書かれている事業を見て「この会社はこういう会社なのだろう」と理解します。いわば会社の自己紹介をする順番のようなものです。
事業目的は多すぎても問題になることがある
会社設立の際にもう一つよくあるのが、「将来のためにできるだけ多くの事業目的を入れておこう」という考え方です。確かに将来の事業展開を考えてある程度広く書いておくことは悪いことではありません。しかし、あまりにも多くの事業を並べると、会社の方向性が見えにくくなることがあります。例えば、IT、飲食、不動産、輸出入、コンサルティング、投資などがすべて並んでいると、銀行や取引先がこの会社は何をする会社なのかを理解しにくくなることがあります。事業目的は多ければよいというものではなく、ある程度整理されている方が実務では分かりやすくなります。
事業目的は後から変更することもできる
ここまで読むと、会社設立時に事業目的を完璧に決めなければならないと感じる方もいるかもしれません。しかし事業目的は後から変更することも可能です。変更する場合は株主総会で定款変更を決議し、その内容を法務局に登記します。手続き自体はそれほど難しいものではありませんが、定款変更と登記申請が必要になるため登録免許税などの費用は発生します。そのため会社設立時にある程度整理しておく方が効率的です。会社設立は会社経営の設計図を作る作業のようなものです。設計図の段階で事業目的を整理しておくことで、その後の銀行手続きや許認可申請がスムーズになります。
会社設立では、事業目的の書き方一つでも銀行口座開設、許認可申請、取引先からの信用、将来の事業展開などに影響することがあります。インターネットのテンプレートをそのまま使う方法もありますが、会社ごとに適切な設計は異なります。当事務所では、税理士・司法書士の立場から、銀行口座を意識した事業目的の整理、許認可を見据えた定款作成、将来の税務を考慮した会社設計まで含めてサポートしています。会社設立や事業目的の作り方で迷われている方は、ぜひお気軽にご相談ください。最初の設計を整えておくことが、結果として会社経営をスムーズに進める近道になります。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
