Last Updated on 2026年2月1日 by 渋田貴正

資産管理会社を設立し、家族を役員にして役員報酬を支払うというスキームは、不動産オーナーの方を中心に広く利用されている王道の節税策です。実際に役員として業務を行っていることが前提ですが、所得分散によって所得税や住民税を抑えられ、会社側でも役員報酬を経費として処理できるため、一見すると非常に合理的に見えます。
しかし、税金だけを見て設計すると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。特に注意が必要なのが、高齢の家族に役員報酬を支払うケースです。節税したつもりが、実は家計全体では負担が増えていたという相談は少なくありません。

例えば、父親が78歳で年金生活をしており、子が不動産オーナーとして資産管理会社を設立し、父親を役員にして年100万円の役員報酬を支払うことを検討しているケースを想定してみます。
「父に役員報酬を払えば所得分散になって節税になりますよね」という質問を受けることはよくあります。
確かに税金の計算だけを見れば、そのとおりに見える場面もありますが、このとき見落とされがちなのが医療費の自己負担割合です。

高齢者の医療費自己負担割合の仕組み

日本の医療保険制度では、年齢と所得に応じて、病院の窓口で支払う医療費の割合が決まっています。
70歳未満の方は原則3割負担、70歳から74歳の方は原則2割負担です。
そして75歳以上の方は原則1割負担とされていますが、所得が一定水準を超えると2割や3割になる仕組みがあります。

簡単に整理すると次のとおりです。

年齢 区分 収入・所得の目安(単身世帯) 医療費の自己負担割合
70歳未満 原則 3割
70~74歳 一般 2割
75歳以上 一般 年金収入+その他の所得が概ね200万円未満 1割
75歳以上 一定以上所得 年金収入+その他の所得が概ね200万円以上 2割
75歳以上 現役並み所得 課税所得が145万円以上(年収目安 約383万円以上) 3割

ここで重要なのは、「所得」の中には年金収入だけでなく、給与や役員報酬といった収入も含まれるという点です。つまり、高齢の親に役員報酬を支払うと、その分だけ所得が増え、医療費の自己負担割合が引き上げられる可能性があります。

役員報酬が医療費に与えるインパクト

例えば、年間の医療費が200万円かかっている方を想定します。1割負担であれば自己負担額は20万円ですが、3割負担になると自己負担額は60万円になります。差額は40万円です。

一方で、役員報酬を100万円支払ったとしても、そのことによる法人税などの節税効果は20万円前後にとどまるケースも多くあります。
このように、医療費次第では

・税金では20万円得をしている
・医療費で40万円損をしている

という逆転現象が起こり得ます。

影響は医療費だけではありません。役員報酬によって所得が増えると、次のような負担も連動して増える可能性があります。

・後期高齢者医療保険料
・介護保険料
・高額療養費制度の自己負担限度額

節税目的で始めた役員報酬が、税金、医療、介護という三方向から家計を圧迫する結果になることもあります。

高齢の親に役員報酬を払う設計は慎重に

では、そもそも高齢の親を役員にして役員報酬を支払う必要があるのでしょうか。節税という観点だけで考えるのであれば、その必要性は高くありません。

資産管理会社の役員報酬を活用する場合、実務上は次のような家族が中心になります。

・配偶者
・働き盛りの子世代

これらの世代であれば、医療費の自己負担割合が所得によって大きく変わるリスクは比較的低いためです。
どうしても高齢の親を役員にするのであれば、役員報酬をゼロにするか、出してもごく少額に抑える設計が現実的です。

資産管理会社の設計でありがちな失敗は、法人税と所得税だけを見てしまうことです。
実際には、

・所得税
・住民税
・法人税
・医療費
・健康保険料
・介護保険料
・年金保険料

まで含めたトータルコストで判断する必要があります。節税とは、税金を減らすことではなく、家計から出ていくお金を減らすことです。

親が75歳以上である場合や、すでに高齢の家族に役員報酬を支払っている場合、最近医療費や保険料が増えたと感じている場合には、一度シミュレーションを行うことをおすすめします。資産管理会社の役員報酬設計は、税務と登記、そして医療や介護制度まで横断的に考える必要があります。少しでも不安がある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。税理士・司法書士の立場から、家計全体で本当に得になる設計をご提案いたします。