Last Updated on 2026年1月26日 by 渋田貴正

2026年1月、一般社団法人の理事に就任する形を利用し、本来は国民健康保険に加入すべき個人事業主などが、社会保険に加入して保険料負担を抑えている実態があるのではないか、という問題が取り上げられました。報道では、実体のない法人や名ばかりの役員就任によって社会保険に加入するケースも指摘され、「国保逃れ」といった表現も使われています。

このニュースを見て、「一般社団法人が問題なのか」「こういう方法は違法なのか」と不安を感じた方も多いのではないでしょうか。しかし、問題の本質は法人の種類ではありません。
実体のない法人を使った社会保険加入スキームそのものが、非常に危うい構造を持っているという点にあります。

マイクロ法人スキームは昔から存在している

そもそも、今回報道された内容は突然生まれた手法ではありません。10年以上前から「マイクロ法人スキーム」といった名称で知られ、株式会社、合同会社、一般社団法人など、さまざまな法人形態を使って行われてきました。
つまり、「一般社団法人だから問題」なのではなく、「実体がないのに法人を作り、形式だけ整えて社会保険に入る」という考え方自体がリスクの高いものなのです。

実体のないマイクロ法人は違法

実体のないマイクロ法人による社会保険加入は、場合によっては違法と評価される可能性があります。社会保険の加入手続では、事業内容や役員報酬、就労実態などについて届出を行いますが、これらに虚偽がある場合、健康保険法に基づく罰則の対象となる可能性があります。節約のつもりで行った行為が、後から法的リスクを伴うものになる点は、強く認識しておく必要があります。

健康保険法
第208条 事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
一 第48条(中略)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。

こうした話をすると、「法人はきちんと設立して登記している」「役員報酬も実際に支払っているのだから、虚偽ではないのではないか」と反論されることがあります。しかし、「実体」という言葉は形式的実体ではなく、実質的実体があるかどうかが重要です。

社会保険の世界では、登記があるかどうか、振込実績があるかどうかといった形式だけで適否が決まるわけではありません。社会保険の適用は、あくまで実態に基づいて判断されます。具体的には、法人でどのような事業を行っているのか、役員として実際にどのような業務に従事しているのか、その内容と時間に対して報酬額が合理的か、といった点が総合的に見られます。

例えば、実業はすべて個人事業主として行っており、法人としての取引先や売上がほとんど存在しないにもかかわらず、「社会保険に加入するためだけ」に法人を作り、月数万円の役員報酬を設定している場合、その報酬は労務の対価とは評価されません。つまり、「役員報酬を払っているから問題ない」というよりも、「その報酬が何の対価なのか」が問われるのです。労務提供の実態が乏しいにもかかわらず社会保険に加入する前提を作っている場合、その加入届出は、結果として事実と異なる内容を前提としたものと評価されるリスクがあります。

このようなケースでは、社会保険の加入要件を満たしていないと判断される可能性があり、場合によっては虚偽の届出として健康保険法上の罰則の対象となることも否定できません。節約目的で行った行為が、後から法的リスクを伴うものになる、場合によっては違法性をはらんでいる点は、十分に認識しておく必要があります。

実務上、問題になりやすい「実体のないマイクロ法人」の例として、次のようなケースが見られます。

・実際には何も業務をしていないのに「経理代行」「事務代行」をしていることにしている
・法人の売上がほぼゼロで、役員報酬だけが発生している
・法人名義の取引先や請求書が存在しない
・業務時間や業務内容の説明ができない
・個人事業の実態と法人の実態が明確に分かれていない

これらに該当する場合、社会保険の加入要件を満たしていないと判断される可能性が高くなります。

実業があるマイクロ法人まで否定されるわけではないがシミュレーションが重要

一方で、実業を行う法人を設立し、実態を伴って役員報酬を受け取るケースまで否定されるわけではありません。例えば、個人事業の一部を法人化し、法人名義で取引を行い、法人として収益を上げている場合です。このような場合は、法人一択という判断が合理的になることもあります。

ただし、ここで重要なのは、「法人を作れば必ず得をする」という発想を持たないことです。必ずシミュレーションを行う必要があります。

役員報酬を低く設定すれば社会保険料は下がりますが、その分、将来受け取る年金額も下がります。また、法人を維持するためには、法人税申告、決算書作成、税務顧問料、登記費用などが発生します。保険料だけを見て判断すると、トータルでは損をするケースも少なくありません。

税務面では、個人と法人の資金を明確に分ける必要があります。法人のお金を私的に使ったり、私的支出を法人経費に計上したりすると、税務調査で否認されるリスクがあります。マイクロ法人は小さな法人ですが、税務上は通常の法人と何ら変わりません。

マイクロ法人は、正しく設計すれば選択肢の一つになり得ます。しかし、実体のない法人を作って社会保険に入るという発想は、もはや通用しない時代になりつつあります。「節約できそうだから」という理由だけで動くのではなく、自分の数字で検証し、リスクを理解したうえで判断することが大切です。

マイクロ法人の設立や社会保険の扱いは、税務と登記が密接に絡む分野です。自己判断で進める前に専門家に相談することで、無理のない形を設計することができます。マイクロ法人を検討されている方は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。数字と実態の両面から、安全性を重視したご提案をいたします。