Last Updated on 2026年1月13日 by 渋田貴正
「税金にも時効があると聞いたのですが、本当でしょうか」。この質問は、税務相談の現場で繰り返し出てきます。結論から言えば、国税にも消滅時効は存在します。ただし、税金以外の借金などの時効と異なる点があります。国税の消滅時効は、「あるけれど、簡単には完成しない」制度です。
国税の賦課権と徴収権の違い
まずは税金の時効の話の前提条件として、賦課権と徴収権について整理する必要があります。賦課権とは、例えば税金を申告していない人や申告額が少なかった人に対して税務署などが更正・決定・賦課決定といった処分により、税額を確定させる権限をいいます。一方、徴収権とは、確定した税額について納付を求め、実際に税金を取り立てるための権限です。簡単に言えば、「税額を決める段階」が賦課権、「回収する段階」が徴収権です。イメージするなら、所得税や贈与税の申告を失念していたが、税務調査や更正を受けないまま、法定申告期限から5年が経過してしまったケースで消滅するのが賦課権です。
この二つは性質が大きく異なり、期間制限の考え方も違います。賦課権には時効はなく、除斥期間が定められています。除斥期間とは、中断や停止といった概念がなく、期間が経過すると当然に権限が消滅する期間をいいます。代表的な除斥期間の例としては、原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合には7年とされています。これに対し、徴収権には消滅時効が設けられており、中断や停止があり得ます。
| 賦課権(税額を確定させる権限) | 徴収権(確定税額を回収する権限) | |
|---|---|---|
| 何をする権限か | 更正・決定・賦課決定などにより「いくら税金を払うべきか」を確定させる | 確定した税額について、納付を求め、滞納があれば差押え等で回収する |
| 期間制限の仕組み | 除斥期間(期限が来ると当然に消滅。中断・停止の概念はありません) | 消滅時効(中断・停止があります) |
| 原則の期間 | 原則5年 | 原則5年 |
| 不正行為がある場合 | 7年(偽りその他不正の行為が確認された場合) | 7年(偽りその他不正の行為により税額を免れた場合) |
国税の徴収権の消滅時効の基本ルール
国税の徴収権の消滅時効は原則として、その国税の法定納期限の翌日から5年間、徴収権が行使されなければ時効により消滅します。ただし、偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合には、時効期間は7年となります。
ここで重要なのは、国税の消滅時効には民事の時効とは異なる特徴がある点です。それが、「援用が不要であり、かつ、時効の利益を放棄できない」という点です。
つまり、時効が完成すれば、納税者が何も主張しなくても、税務署は徴収できなくなります。一方で、納税者側も「それでも払います」と言って支払うことはできません。仮に支払った場合には、過誤納金として還付の対象になります。ただし、このような絶対的な効力がある一方で、国税の消滅時効には中断や停止が数多く用意されています。
国税の徴収権の消滅時効の具体例
制度をイメージしやすくするために、税目ごとに具体例を見てみます。
所得税の徴収権の消滅時効
例えば、2024年分の所得税で、法定納期限が2025年3月15日の場合、翌日の2025年3月16日から消滅時効が進行します。この間、督促や差押えなどの中断事由が一切なければ、原則として2030年3月15日で消滅時効が完成します。
相続税の徴収権の消滅時効
例えば、被相続人が2024年5月10日に死亡した場合、相続税の申告・納付期限は、死亡日の翌日から10か月後である2025年3月10日となります。
この場合、法定納期限の翌日である2025年3月11日から相続税の徴収権の消滅時効が進行します。その後、督促や差押えなどの中断事由が一切なければ、原則として2030年3月10日で消滅時効が完成します。
贈与税の徴収権の消滅時効
贈与税についても考え方は同じです。2024年分の贈与税の法定納期限は2025年3月15日であるため、2025年3月16日から5年が経過した2030年3月15日に消滅時効が完成します。ただし、無申告や仮装・隠蔽といった事情がある場合には、消滅時効期間が7年とされる可能性があります。
法人税や消費税の徴収権の消滅時効
法人税についても基本構造は共通しています。たとえば、9月30日決算の法人の場合、事業年度終了日の翌日から2か月後である2024年11月30日が法定納期限となります。その翌日の2024年12月1日から消滅時効が進行し、督促や差押えなどの中断事由がなければ、原則として2029年11月30日で消滅時効が完成します。消費税についても同様です。
税目が異なっても、「法定納期限の翌日から時効が進行する」「中断がなければ5年(一定の場合は7年)で完成する」という基本構造は共通しています。
国税の徴収権が時効消滅する可能性は?
国税の徴収権の消滅時効が難解とされる最大の理由は、「援用や放棄はできないのに、中断や停止は山ほどある」という点にあります。ここが、税金の賦課権の消滅と大きく異なる点です。いったん完成すれば何もしなくても消滅しますが、時効が完成するまでの道のりが非常に困難です。
まず、中断とは、それまで進行していた時効期間がリセットされ、再びゼロから進行し直すことをいいます。一方、停止とは、一定期間、時効の進行がストップするだけで、再開後は続きから進行します。
| 時効の中断 | 時効期間がリセットされ、ゼロから再スタート |
| 時効の停止 | 時効の進行がストップするだけで、再開後は続きから進行 |
| 中断・停止の具体項目 | 具体的な税務署のアクション | |
|---|---|---|
| 中断 | 納税の告知 | 税務署から「○年分○税について○円を納付してください」と記載された納税告知書が送付される |
| 中断 | 督促 | 納期限を過ぎた後、「至急納付してください」と書かれた督促状が郵送される |
| 中断 | 差押え | 銀行預金・給与・不動産などについて、差押通知書が金融機関や勤務先に送付される |
| 中断 | 交付要求 | 税務署が裁判所や他の執行機関に対し、配当を受けるための交付要求書を提出する |
| 中断 | 一部納付・猶予申請等(納税義務の承認) | 納税者が税務署窓口や振込で一部を支払う/猶予・延納の申請書を提出する |
| 停止 | 徴収の猶予・換価の猶予 | 税務署から「○年○月○日まで徴収を猶予します」と記載された猶予決定通知書が交付される |
特に注意が必要なのは、「少しでも払えば誠意になる」という感覚です。一部納付は、時効の観点では典型的な中断事由です。結果として、進行していた時効が、振り出しに戻ることになります。
反対に時効が完成するのは以下のような状況です。
| 想定される具体的なケース | なぜ消滅するのか | |
|---|---|---|
| 賦課権 | 所得税や贈与税の申告を失念していたが、税務調査や更正を受けないまま、法定申告期限から5年が経過したケース | 賦課権は除斥期間で管理されており、原則5年を経過すると、更正・決定といった課税処分自体ができなくなるため |
| 賦課権 | 無申告や仮装・隠蔽があったものの、税務署による把握や処分がされないまま、法定申告期限から7年が経過したケース | 無申告や不正行為がある場合でも、賦課権の除斥期間は最長7年とされており、その期間を経過すると課税処分自体ができなくなるため |
| 徴収権 | 申告や更正により税額は確定していたが、督促・差押え・交付要求などが一切なく、法定納期限の翌日から5年が経過したケース | 確定した国税について、徴収権が5年間行使されず、中断事由も存在しない場合には消滅時効が完成するため |
| 徴収権 | 不正行為により税額を免れていた税金について、税額確定後も差押え等が行われないまま7年が経過したケース | 偽りその他不正の行為がある場合でも、徴収権の消滅時効は最長7年であり、中断がなければ時効により消滅するため |
見てのとおり、賦課権については、一定期間が経過することで消滅する可能性があります。一方で、いったん賦課権に基づいて税額が確定し、徴収権が発生した後は、制度上は消滅時効があるものの、実務上その完成に至るケースは多くありません。
税務署は督促や差押え、交付要求などの手続を通じて徴収権を行使するのが通常であり、結果として時効が中断され続けることが一般的です。
実務の現場では、国税の消滅時効を積極的に狙うという選択肢は、現実的でないケースが大半です。税務署側の手続は非常に網羅的で、何らかの中断事由が存在することがほとんどだからです。重要なのは、「時効が完成しているかどうか」を正確に見極めたうえで、分納や猶予を含め、どう整理するのが最もリスクが低いかを考えることです。
国税の消滅時効や滞納処理、税務署対応でお悩みの場合には、税務と法務の両面から状況を整理することで、不要な誤解やリスクを避けることができます。当事務所では、税理士業務としての税務対応を中心に、申告漏れについて実務に即した解決策をご提案していますので、判断に迷う段階からでもお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
