Last Updated on 2025年12月25日 by 渋田貴正

株の取り引きをしている人の中には複数の証券会社で特定口座を持っている方もいらっしゃいます。そうした人の中には、「この口座は利益が出ているけれど、別の口座は損をしている。都合のよい口座だけ確定申告できますか?」といった状況も生じます。例えば、Aさんは楽天とSBI2つの証券会社に源泉徴収ありの特定口座を持っています。SBI証券では年間20万円の利益、楽天証券では年間10万円の損失が出ました。Aさんは「楽天証券の損失だけ確定申告して、SBI証券は申告しない」という選択ができるのでしょうか。

そもそも特定口座と一般口座の違いは?

特定口座とは、株式や投資信託などの取引について、証券会社が年間の売買損益を計算してくれる口座です。通常、投資の税金計算は非常に煩雑ですが、特定口座を使えば、確定申告の手間を大きく減らせます。特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があります。この違いが、確定申告の要否や選択の可否を分ける重要なポイントです。

さらに、一般口座という種類もあります。一般口座では、年間の取引を自分で集計し、利益や損失を計算しなければなりません。証券会社は税金計算をしてくれないため、確定申告が前提になります。特定口座は、この手間を軽減するための制度と考えると分かりやすいでしょう。

口座区分 損益計算 確定申告 申告の方法 申告不要制度
特定口座(源泉徴収あり) 証券会社が計算 原則不要 申告分離課税 利用可能
特定口座(源泉徴収なし) 証券会社が計算 原則必要 申告分離課税 利用不可
一般口座 自分で計算 原則必要 申告分離課税 利用不可

申告不要制度とは、一定の条件を満たす場合に、確定申告をしなくても課税関係が完結する仕組みです。上場株式等の譲渡所得については、源泉徴収ありの特定口座を利用していれば、この申告不要制度を使うことができます。一方、源泉徴収なしの特定口座や一般口座では、税金が源泉徴収されていない、または税務署が課税関係を把握できないため、申告不要制度は利用できません。

源泉徴収ありの特定口座は口座ごとに確定申告するかどうか選べる

ここで最も重要なポイントです。源泉徴収ありの特定口座は、確定申告をしなくても、その口座内で税金の計算と納付が完結する仕組みになっています。そのため、複数の源泉徴収あり特定口座を持っている場合でも、どの口座の損益を確定申告に含めるかは、口座ごとに選択できます。すべての口座を一律に申告しなければならないわけではありません。

確定申告書に記載するのは、「申告することを選択した株式等の譲渡所得」の合計額です。申告対象に含めた特定口座の損益は合算されますが、申告しないと判断した源泉徴収あり特定口座の損益は、申告書の計算過程には含まれません。つまり、申告した分だけが税務上の計算対象になります。

先ほどのAさんの例に戻ります。楽天証券の源泉徴収あり特定口座で生じた10万円の損失だけを確定申告し、SBI証券の利益20万円は申告しない、という選択は可能です。この場合、確定申告書に登場するのは10万円の損失のみで、SBI証券の利益は申告不要を選択できるということです。

ただし注意点もあります。同一の特定口座の中で、株式の取引ごとに申告・不申告を選ぶことはできません。あくまで判断単位は「口座」です。この点を勘違いすると、後で修正申告が必要になることがあります。

「損している口座は申告しなくていい」と考える方もいますが、申告しなければ損失はなかったものとして扱われます。翌年以降への損失繰越もできません。

源泉徴収なしの特定口座や一般口座は確定申告するなら全部の口座を申告する

一方、源泉徴収なしの特定口座や一般口座は性質がまったく異なります。この口座では税金が天引きされていないため、原則として確定申告が必要です。複数の源泉徴収なし特定口座を持っている場合も、利益や損失を合算して申告することになります。「この口座だけ申告する」「この口座は申告しない」といった選択はできません。

実務では、ここを源泉徴収あり特定口座と混同している方が非常に多いです。「特定口座だから選べる」と思っていたら、実は源泉徴収なしだった、というケースも珍しくありません。口座の種類の確認は、確定申告前に必ず行うべき基本事項です。

複数の特定口座をお持ちで確定申告に迷っている方は、自己判断で進める前に一度ご相談ください。税務の制度と実務の両方を踏まえた視点で整理すれば、無駄な税金や後悔を防ぐことができます。当事務所では、こうした「微妙だけど重要」な判断こそ、丁寧にサポートしています。