Last Updated on 2025年12月21日 by 渋田貴正

株式会社というと「株式を自由に売買できる会社」というイメージを持たれがちですが、実務で設立されている中小企業の多くは、いわゆる公開会社ではありません。

会社法上の「公開会社」とは、株式の全部について譲渡制限を設けていない会社をいいます。逆に言えば、1株でも譲渡制限が付いていれば、その会社は非公開会社です。ここでいう「公開」は、上場しているかどうかとは全く別の概念です。実務感覚で言えば、オーナー会社や同族会社が、あえて公開会社を選ぶ理由はありません。公開会社は組織についても会社法上の制約が大きく、また、株式が自由に第三者へ移転できる状態は、会社支配の安定という点でリスクが高く、相続・事業承継・M&Aの場面でも不都合が生じやすいためです。

そのため、日本で設立されている中小株式会社の多くは、設立時から株式譲渡制限を設けています。

定款における基本的な書き方と「当会社の承認」

株式譲渡制限の定款規定は、最もシンプルな書き方は、会社法そのままに「当会社の承認を要する」と記載すれば足ります。

「当会社の承認」とした場合、承認機関は会社法139条1項により自動的に決まります。すなわち、以下の通りです。

取締役会設置会社 取締役会
取締役会非設置会社 株主総会

承認機関をあえて定款に書かなくても、法律が裏で決めてくれる構造になっています。

会社法
(譲渡等の承認の決定等)
第139条

  1. 株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

一方で、「取締役会の承認を要する」などと確認的に明記することも可能ですが、この場合は注意が必要です。将来、取締役会を廃止する定款変更や、解散の決議を行う際には、譲渡制限規定も同時に変更する必要が生じます。大は小を兼ねるではないですが、「当会社の承認」としておくのが最も無難といえます。

上記の通り、譲渡制限機関として最もオーソドックスなのが、株主総会または取締役会です。両者の違いを整理すると、次のようになります。

承認機関 主な対象会社 特徴 実務上のポイント
株主総会 取締役会非設置会社、取締役会設置会社 株主全体の意思を反映 意思決定に時間がかかりやすい
取締役会 取締役会設置会社 迅速な判断が可能 経営判断色が強くなる

株主総会を承認機関とする場合、「株主が仲間を選ぶ」という譲渡制限制度本来の思想に最も近い形になります。ただし、株主が多い場合や意思集約が難しい場合には、スピード感に欠けるのが難点です。

取締役会を承認機関とする場合は、迅速な判断が可能となり、実務上は非常に使い勝手が良くなります。もっとも、株主の意向が間接的になるため、株主構成と取締役構成のバランスには注意が必要です。

代表取締役を承認機関とする場合の注意点

譲渡制限機関を代表取締役とすることは、会社法上認められています。ただし、これは例外的な選択肢であり、どの会社にも無条件におすすめできるものではありません。

代表取締役を譲渡制限機関とすることが検討される典型例は、次のようなケースです。

まず、株主と経営者が実質的に同一であるオーナー会社です。株主が一人、またはごく少数で、代表取締役が会社の実権を完全に握っている場合、株式譲渡の承認を株主総会や取締役会で形式的に行う実益が乏しいことがあります。このような会社では、代表取締役に承認権限を集約することで、手続きを簡素化できます。

次に、株式の流動性が極めて低く、承認基準が定型化できる会社です。例えば、「株主間の譲渡は原則承認」「第三者への譲渡は原則不承認」といった明確な基準を定め、その運用を代表取締役に委ねる形です。この場合、代表取締役は自由裁量ではなく、あらかじめ定められた基準に従って判断する立場になります。

逆に注意すべきなのは、「代表取締役の判断でどうにでもなる」状態を作ってしまうことです。譲渡制限制度は、本来は株主が構成員を選ぶための制度であり、代表取締役個人の恣意的判断を許すものではありません。そのため、代表取締役を承認機関とする場合には、承認基準の存在と合理性が重要になります。

実務的には、代表取締役を譲渡制限機関とする会社は、設立初期や極小規模の段階では合理性があるものの、株主が増えたり、事業承継や外部資本の導入を検討する段階では、見直しが必要になることが多いです。

当会社(法定機関) すべての株式会社 定款がシンプルで将来の機関変更に強い 実際の承認機関は法律で自動決定される
株主総会 取締役会非設置会社 株主意思を直接反映できる 決議に時間がかかりやすい
取締役会 取締役会設置会社 迅速な意思決定が可能 株主の関与が間接的になる
代表取締役 小規模・オーナー会社 極めてスピーディーな判断が可能 承認基準の明確化が必須

もっとも、譲渡制限機関として指定できるのは、あくまで「会社の意思決定機関」と評価できる範囲に限られます。定款で別段の定めを置くことは認められていますが、会社の決定とはいえないような者を譲渡制限機関とすることはできないと解されています。例えば、会社と無関係の第三者、外部のコンサルタント、顧問税理士や顧問弁護士、あるいは特定の個人名を挙げて承認権限を付与するような定めは、会社の意思決定構造から逸脱しており指定することはできません。

「一定の場合に承認したものとみなす」規定の考え方

定款では、「一定の場合」には会社が承認したものとみなす旨を定めることもできます。これは、株式譲渡の自由度を部分的に高めるための調整弁のような制度です。実務上、最もよく使われるのが「譲受人の属性」に着目する方法です。例えば、「当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合には、当会社が承認したものとみなす」といった規定です。これは、閉鎖性の判断基準を定款上明確にしたにすぎず、有効と解されています。

一方で、「譲渡人の属性」によって承認の要否を分けることや、「一定数以上の株式のみ承認を要する」といった数量基準による区別は、株主平等原則に反するとされ、登記実務上も否定的に扱われています。ここは実務と学説が微妙に揺れる部分ですが、少なくとも安全運転を取るなら避けるべき領域です。

株式譲渡制限は「定款の一文」で決まる制度ですが、その一文が会社の将来を大きく左右します。承認機関の選択は、登記手続、機関設計、株主構成、さらには事業承継やM&Aの場面にも影響します。株式会社の譲渡制限とは、単なる条文知識ではなく、経営と法務の接点にあるテーマです。登記実務と会社法の両方を理解したうえで設計することで、初めて「使える定款」になります。

株式譲渡制限や定款設計で少しでも不安がある場合は、税務と登記の両面から一体的にサポートできる当事務所へ、ぜひご相談ください。