Last Updated on 2025年11月13日 by 渋田貴正

不動産管理会社を作り、所有者である個人の代わりに賃貸管理を行わせる「管理運営方式」は、資産管理や節税の観点から選ばれることが多い手法です。
この方式では賃貸借契約の「貸主」は不動産所有者本人であり、管理会社はあくまで管理業務を「委託される立場」です。そのため、委託業務の範囲を明確にした管理委託契約書の作成が必須となります。

管理委託契約書で定めるべき業務範囲の例は次のとおりです。

  • 入居者募集、契約締結・更新・解約
  • 家賃回収、滞納管理、クレーム対応
  • 修繕手配、清掃手配
  • 月次報告・年次報告の作成

契約書と実態が一致しているかは法的な面以外にも税務上も最重視されるポイントです。

オーナーが資産管理会社に支払うべき適正管理料とは何か

適正管理料とは、オーナーから管理会社へ支払う報酬が「実態に見合っているかどうか」を示すものです。
一般的には、同族関係にない不動産管理会社の月額管理料の相場である「家賃収入の5〜10%」が基準とされています。

パーセンテージも重要ですが、もう一つのポイントとなるのは「何に対して率を掛けるか」です。

管理料率の算定にあたり、家賃収入のうち純粋な家賃部分のみをベースとするのが原則です。

その理由は次のとおりです。

① 共益費は「実費相当」だから

共益費は共用部の光熱費や清掃費など、実費を回収しているに過ぎず、オーナーの所得と異なる性質があります。ここに管理料率をかけると、実態以上の管理料が生じやすく、過大評価になるおそれがあります。

② 更新料・礼金は「臨時・一時的収入」だから

管理料は継続的な管理業務の対価であり、毎年不定期に発生する収入まで含めると、管理料が大きく膨らんでしまいます。

過去の事例でも更新料や共益費などを母数に含めると「適正管理料割合の推定精度を損なう」と明確に述べられており、原則は家賃部分のみです。

資産管理会社の過大管理料の否認リスク

オーナーが資産管理会社に支払う管理料が相場から大きく乖離し、また管理会社の実態が伴わない場合、次の規定により否認される可能性があります。

法人税法
同族会社等の行為又は計算の否認)
第132条 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一 内国法人である同族会社
(後略)

この同族会社の行為計算否認という概念は「オーナーの税負担を不当に減少させる結果となる場合」に適用され、管理料の一部または全部が否認されるリスクがあります。

以下の表は、これまでの主な判例で資産管理会社の管理料のパーセンテージが争われた例について簡単にまとめたものです。

30〜35%で否認された例 20%が必要経費として認められた例
管理料率 家賃の30〜35%(乖離大) 家賃の20%(高めでも合理性)
契約の明確性 業務範囲曖昧、料率も抽象的 亡養父時代の契約が継続、内容明確
実態 実働や裏付けが乏しい 通帳名義・受領印・通知など管理実態豊富
主体 誰が管理したか曖昧 資産管理会社A社が不動産管理主体、役員報酬もA社から受領している
比準同業者との比較 相場(約5%)を大きく上回る 実態と対応関係あり
判断結果 不自然・不合理 → 否認 実態に基づく対価 → 必要経費

この比較から、率だけでなく「業務内容」「実態」「証拠」の3点が最重要であることがわかります。

実際に、ご自身が同族関係のない不動産管理会社へ管理を外注すると想像してみてください。家賃収入の30%もの管理料を請求されれば、「そんな高額な管理料はあり得ない」「通常ではあり得ない取引条件だ」と感じるはずです。一般的な管理会社の相場が5〜10%程度であることを踏まえると、30%という水準は純粋な市場取引の感覚から大きく外れています。税務当局もまさにこの通常の経済感覚からの乖離を重視しており、合理的理由が説明できない高率な管理料は、租税回避を目的とした過大支払いと判断されやすくなります。

管理料率と実態の関係

管理料率の水準 想定される業務内容の例 必要な裏付け・証拠 税務上の評価の目安 リスクのイメージ
5〜8%程度 入居者募集、契約書作成、家賃集金、滞納督促など基本的な賃貸管理 管理委託契約書、募集広告・入居者対応の記録、請求書・領収書など 同族関係にない管理会社の相場に近く、通常は妥当と判断されやすい 比較的低いが、実態ゼロの場合は否認されうる
10〜15%程度 上記に加え、リフォーム調整、クレーム対応、24時間受付、細かなレポート作成など手厚い管理 契約書で業務内容を具体的に列挙、報告書・メール履歴、写真付き報告など 物件の規模・立地・手厚さ次第では妥当と評価される余地あり 「何をやっている対価か」の説明が必須。裏付けが薄いと過大と指摘される可能性
20%前後 広いエリアに複数物件を持つオーナーの一括管理、入金管理・記帳代行・借地人対応などを包括的に受託するケース 通帳名義・受領印・通知はがきなど管理会社名義の証拠、役員報酬や人件費、帳簿や業務日報など 今回の裁決事例のように、業務実態が管理会社側にあり、証拠が揃っていれば必要経費として認められる可能性あり 実態・証拠が弱い場合は「率が高すぎる」として否認されるリスクも。専門家との事前検討推奨
30%超 実務ではレアケース。テナントとの交渉・プロジェクトマネジメントなど特別業務を含むとの主張が多い 非常に詳細な契約書、見積書、追加業務の内訳、第三者との比較資料などが不可欠 裁判例のように、比準同業者が5%前後である中、30〜35%では純経済人として不自然と判断されやすい 否認リスク極めて高い。よほど特殊な事情と証拠がない限り避けるのが無難
共益費・更新料等を含めて率を設定 実費性の高い共益費や臨時的な更新料まで管理報酬の基礎に含める形 家賃と共益費を分けた契約書・請求書、内訳の明細など 原則として過大算定とみなされやすく、裁決・通達の趣旨とも相容れない 否認される可能性が高く、少なくとも料率を相当程度低くしないと説明が困難

このように、「管理料率がいくらなら安全」といった一律の基準はありませんが、

  • 同族関係にない管理会社の相場(5〜10%程度)
  • 管理内容の手厚さ
  • 管理会社側に業務実態・証拠がきちんとあるか

を総合的に整えておくことで、税務調査における説明が格段にしやすくなります。

管理料の設定は、税務だけでなく契約書の作り方や管理会社の運営実態とも密接に関連します。
当事務所では、税理士・司法書士として、管理会社の設立・契約書作成・適正管理料の税務判断まで一体でサポートしています。

管理運営方式の導入をご検討の方は、どうぞお気軽にご相談ください。